第6話 うさぎさん
『ふう、満腹』
小熊の丸かじりのディナーを終えた俺。光を使った虚脱感もあり、そのまま熊臭い巣穴の中で一眠りすることにした。
目が覚め、巣穴から這い出す。
『まだ暗い、か』
俺は辺りを見回す。寝る前と変わった様子はない。
親熊の足先の肉片もそのままだ。相変わらずうっすら光っている。俺の放った光を見て周囲の生き物が逃げたのか、他の生き物の気配は感じられない。
『また寝過ごしたか? 今回は前回よりも寝てる体感時間は短いが。これは本格的に謎だ。自転速度が相当遅くて夜が長いのか、もしくは地軸がだいぶ傾いているのか。まあ光る熊がいるぐらいだし、ここ、地球じゃないのは確定だろうな。』
考え込んでいた俺はそれの接近に気づくのが遅れてしまった。
後ろから声をかけられる。
「「やあ、ごきげんよう」」
驚き急ぎ振り返ると、そこには双頭のうさぎがいた。
『びっくりした。こいつは一体何者だ。うさぎ、なのか? 頭が2つあるぞ。それに挨拶をしてきた。背後を取ったのに襲ってこなかったが。』
俺はうさぎの2つの頭と、その同時に動く口を見ながら慎重に距離をはかる。2つの口には、なかなか鋭い牙がはえている。
「「そうそう、襲う意思なんてないよ。どうやらこっちの言葉は通じているみたいだね。」」
うさぎの声は2つの口から同時に出ている。
『こいつ、俺の考えを読んでいる?!』
「「察しがいいねー。考えと言うか、思考の表層を読み取らせてもらっているよ。」」
そういうとうさぎの片方の頭が笑顔らしき表情を浮かべた。
『不気味だ。あれで笑っているのか。このまま考えを読まれるのは危険だ。情報がほしいが、いっそ今のうちに光でかたをつけるか?』
「「ストップストップ! 不気味はひどいなー。こんなプリティなうさぎさんにむかって。そうじゃなくて、やっぱりあの凄まじい光の奔流は君の仕業だったんだね! 探してたんだよね。あの光の使い手!」」
『自分でプリティって。終焉の光のことを知っている? あの光を見て寄ってきたのか。一体何が目的だ、おまえ。』
「終焉の光……。ぷっ。」
うさぎの片方の頭が顔を伏せ震えている。
『うるさい! 俺が名付けたんじゃない!』
俺は精一杯の抗議の意思を込める。
「「ごめんごめん、あんまりにあんまりなあれだったからつい。それよか、僕らの目的だったね。実はお願いが一つあるんだ。聞いてくれるかい?」」
『内容と、交換条件による』
俺はどの程度の思考が読み取られているかわからない不利をおしても、このうさぎとのやり取りに乗り気になっていた。
この世界にきてはじめて意志が通じる相手に出会えたことに高揚していたのかも知れない。例え頭が2つあり、思考を読んでくる化け物だとしても。
その気持ちの裏には、終焉の光ならいざとなればどうにかなるだろうという過信が無かったとは言えない。
「「そちらの交換条件ってのは、この世界の情報かな? どうやら神に触れられた痕跡もあるようだし、世界を渡ってきたようだね。」」
そういうとうさぎの2つの顔は得意そうに不気味な笑みを浮かべた。
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