13話
春。結婚式シーズン到来。大安吉日。晴天。場所は青山。真っ青な空に真っ白なチャペル。
しかしそこに加波子の姿はない。駅で友江を待っていた。
加波子は髪を少し巻いている。しっかりセットなどしない。白と黒のストライプが斜めに入ったワンピースを着て、その上に黒のカーディガンを羽織っている。ヒールが高く太い黒いパンプス。つま先からヒールまで全体にラメが入っていてキラキラしている。加波子のお呼ばれはずっとそのスタイル。
「遅い。」
不機嫌な顔をした加波子は時計を何度も見る。そこへ友江が来た。
「先輩!何してるんですか!遅刻しますよ??」
「だって美容師が私の想像通りになかなかしてくれないんだものー。どーお?きれににまとまってる?」
「大丈夫です!先輩はいつも綺麗で美しいです!」
「ちょっとー!ちゃんと見てるのー??」
「もう時間がないからタクシーで行きますよ!」
会場へ到着する2人。ぎりぎり間に合った。
真っ赤なバージンロードに真っ白なウエディングドレスが引き立つ。眩しいほどに。2人は愛を誓う。みんなが祝福する。
新郎新婦は本当に幸せそうで、そんな2人をゲストは祝う。それは本当に素晴らしい空間であり、加波子はいつもその空間に浸っていた。
式が終わり、披露宴へ。友江はキョロキョロしている。
「先輩、誰か探してるんですか?」
「そう、探してるの。いい男を。」
「そうですか…。」
宴が続く。絵美夫妻が加波子のテーブルに来た。加波子は笑顔で迎える。
「おめでとう、愛実。お幸せに。」
「はい!ありがとうございます!」
愛実はとても幸せそうだった。加波子は心から幸せを願った。
そして待ちに待った時間が来る。ブーケトスだ。殺気立つ女性陣。皆中庭に移動する。気づけば友江がいない。友江を探す加波子。見つけた友江は中央を陣取っていた。今か今かと待っている。加波子はその陣には入らず外から傍観する。
司会者が言う。
「みなさーん、ご準備のほどはいかがでしょうかー!よろしいですかー?それでは、ご新婦様、どーぞー!」
加波子は祈る。両手を組み、目を閉じる。
「どうかブーケを先輩のもとへ、どうか先輩へ、どうか…。」
必死になる女性陣。会場が盛り上がる。色んな声が飛び交う。そして。
バシッ
音がした。しかもリアルに大きく。左側から。加波子は目を開けると皆こっちを見ている。何があったのか、控え目に周りをキョロキョロする加波子。すると左側から声を掛けられる。
「頭にぶつかりそうになったんだよ、ブーケ。」
聞いたことのある声。加波子は左を向く。そこにはブーケを持った健がいた。そのブーケは確かにブーケトスのものだった。
「健さん!来てたんですか?」
「びっくりしたよ。加波子ちゃんも来てたんだね。ブーケトスにぼーっとするなんて、加波子ちゃんらしいな。」
司会者が戸惑う。
「ええーっと、こういった場合は…。」
司会者と新郎新婦が話し合う。答えが出た。
「ブーケは、あちらのカップルに差し上げることになりました!皆様、大きな拍手を!」
拍手とブーイング。正直、加波子はブーケなんていらなかった。
「ブーケ…カップル…。」
後ろめたく思う加波子。ちっとも嬉しくなさそうな加波子に健はブーケを渡す。
「はい、どうぞ。」
加波子は受け取らない。
「嬉しくないの?」
「ブーケなんて、いらないのに。」
「じゃあ、オレからのプレゼントだと思えばいい。」
それでも加波子は受け取らない。
「誕生日の時は受け取ってくれたのに?」
ドキッとする加波子。それを聞いて受け取らない訳にはいかなかった。やはり誕生日のかすみ草の花束は健からのものだったのだ。加波子はブーケをそっと手にする。小さなブーケ。可愛らしいブーケだった。
そして時間は来る。楽しい宴の時間が終わる。いい式、いい披露宴だった。そしていつものように加波子は友江に挨拶し、二次会には行かずに帰る。小さなブーケが入った引き出物の紙袋。門では健が待っていた。
「来ると思って待ってたよ。行こう。コーヒー飲もうよ。」
「…はい…。」
自然な流れだった。会うのは久しぶりだというのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます