12話
喫茶室・ジョリン。
「カナ、今年もやるんだけど。」
「何をですか?」
「クリスマス・イヴの男なし女同士の大飲み会。あんたどうする?」
加波子は笑顔で答えた。
「行きます!」
場所は恵比寿。大きなビルの5階。入ってみると、1フロア貸し切り状態だった。加波子は少しひるんだが、皆暖かい人ばかりだった。飲んで騒いで大盛り上がり。楽しい。そして笑う。そういった感覚を感じるのは、気づけば加波子は久しぶりだった。
加波子は終電で帰る。友江はまだ盛り上がっていたので声を掛けずに帰った。
帰り道。アパートに近いコンビニ。クリスマスケーキの叩き売りをしている。加波子は立ち止まり、店に入る。とことこ歩き、お酒コーナーで止まる。度数の低いチューハイを1本買う。大飲み会では飲めなかったお酒を、自分も飲もうと思った。
部屋に帰る。ひとりぽつんとベッドの上。テーブルの上にはさっき買ったチューハイが置いてある。しばらく見た後、開けて一口飲む。勇気を出して二口飲む。顔、耳、首が赤くなり熱くなる。動悸が激しくなる。もうそれ以上は飲めない。そのままベッドに入る。
「おやすみ…。」
誰に言うのでもなく口からこぼれた。自分へなのか、遠い誰かへなのか。
ずっと加波子は積極的だった。亮に手紙を出し続け、毎月静岡に行っていた。たとえ反応はいつも同じであっても。
年が明けたある朝。朝礼時に、経理部長の前に総務部長と後輩の
「僕たち結婚しました!」
皆揃っておめでとうと祝福をする。驚くというよりやはり加波子は不思議に思った。
喫茶室・ジョリン。
「先輩。総務部長って、確か結婚していて子供もいませんでしたっけ?」
「略奪よ。」
「略奪?!」
「略奪婚。しかも愛実、妊娠してるって噂よ。あくまで噂だけど。」
「妊娠?!…やっぱりパワフル…。」
「私たち、立派すぎるほどのお局ねー。去年、後輩が何人結婚した?」
「確かにそうですねー。」
「決めた。私、あんたより絶対先に寿退社する!」
「大丈夫です、自動的にそうなりますから。」
「何よ、自動的って!あんたねぇ…、」
コーヒーカップを静かに加波子は置く。
「…先輩、今思ったんですけど、結婚していった後輩ってみんなどこか抜けてませんでした?」
「?どーゆーこと?」
「みんな仕事はできるってほうじゃなかったし、一般常識がないような子もいた。愛実だって仕事はミスばっかりだったじゃないですか。」
「言われてみればそうねぇ…。」
「だから先輩はダメなんですよ!先輩は完璧すぎるんです!仕事もできるし、美人でお洒落だし、仕草も立ち居振る舞いも綺麗だし。…でもだからといって、わざとバカになんかなって欲しくないし…。どうしてみんな先輩の魅力に気づかないのかな…。」
ふと加波子は友江を見る。友江は涙ぐんでいた。反省する加波子。
「すみません。出しゃばりました。ごめんなさい。」
友江は加波子に感謝する。
「そんなこと言ってくれるの、あんただけよ…。」
「違います。先輩の魅力に気づかないような男がバカなだけです。」
加波子は機転を利かせ思いつく。
「あ…。先輩、結婚相談所に行ってみるっていうのはどうですか?今じゃメジャーだし、信頼できる所も多いだろうし。それこそ自分の条件ってものをポンって出せば、自分は何もしなくてもマッチングしてくれるんですよね?」
「んー。それは考えたこともなかったわー。」
「行って、なんか違うって思うかもしれないし。やっぱり合コンだわーって思うかもしれないし。何かわかることあるかもしれませんよ?気分転換にもなるかもしれないし。」
「んー決めた。」
「あ、行く気になりました??」
「私やっぱり生まれ変わったら、男に生まれてあんたを嫁にする!」
「またそれですかー?」
お昼が終わり社に戻ると、後輩・愛実が結婚式の招待状を配っていた。
「友江先輩!加波子先輩!お二人とも是非来てくださいね!」
笑顔たっぷりの絵美に、招待状を手渡される。それを加波子は笑顔で受け取った。
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