第18話 終端の神へと至る道と

「シェキーナ、大丈夫なのか?」


抱き留めた少女の顔を覗き込んだ和也はそのシェキーナの表情でそれ以上聞くのをためらった。

彼女は悲痛な覚悟を秘めた表情を浮かべていた。


「風の精霊を目覚めさせましょう」


陽向の言葉に頷いた。

とはいえ、風の拠点にも師団が配置されている。

原始の神殿に佇む3人はどうやって風の上位精霊を目覚めさせるか思案していた。

既に、水・森・火の上位精霊はなく、後は風の上位精霊だけだ。


「この世界は――地母神――原始の神マユミェンテが『光あれ』と口にしたことにより、この世界は生まれたという。夜明けのような眩い光と共に生まれたのだと」


シェキーナは突然語り出した。


「やがて少年少女アダムとイヴは、最初は無邪気な遊びとしてこの世界を作った。大好きな創作世界であるファンタジーに似せて」

「シェキーナ?」

「天領寺、黙ってて」


声を掛けるのを陽向が遮る。


「遊びだった筈のものが変容してしまったのはいつからだったろうか?神は堕落してしまったのだろうか?追放された『彼女』を神が失ったので、この世に愚がはびこることになったという」


シェキーナは呪文を唱えるように語りかける。


「この世にないほどの輝き、すなわち神からの光、被造物である太陽より明るい聖なる光」


呪文を唱えるごとにシェキーナの体に光が帯びてくる。


「シェキーナ……君はもしかして……」

「うん……『光あれ』という言葉で生み出されたのが私。光の高位精霊」

「そうなのか……」

「それと対をなすのが……」


3人の目の前に褐色肌のシェキーナと瓜二つの少年とターバンを巻いた男が現れた。


「それがボク、マハーカーラーさ、『シェキーナ』がこの世にないほどの輝き、すなわち神からの光、被造物である太陽より明るい聖なる光ならば、ボクはすべての光を覆い尽くす暗黒とでも言おうか」

「マハーカーラー、邪魔をしないで」


シェキーナの言葉にマハーカーラーは鼻で笑った


「ふん、ボクは誰にも縛られない、君がマユミュンテの元を去ったようにね」

「……っ!!」


シェキーナが下唇をかみしめるとマハーカーラーは笑い出した。


「だからボクも黎明の十字団を離反したんだよ」

「えっ」

「話はシェキーナを通して大体分かった。ボク達は表裏一体の存在だからね。天領寺とやら、ボクの隣にいる風の上位精霊・ジンの力をコピーするんだ」


ターバンを巻いた男はじっと和也を見ている。


「分かった!」


和也は両手を出すとジンをコピーした。

すると和也の額と両掌、そして両足に光が満ちあふれていく。それを見届けたジンは風のように消えていった……。


マハーカーラーは笑いながら和也を見つめる。


「炎の上位精霊、風の上位精霊、水の上位精霊、森の上位精霊。すべて取り込んだね。これで総仕上げだ。ボク達の力もコピーするんだ」

「それじゃあ、君たちも」

「消えやしないよ。そもそも、アルも、ラピも、ジンも、貴婦人も君の中に存在している。だから」

「早く!」


二人の言葉にシェキーナとマハーカーラーに向けて手を差し出すと二人の精霊をコピーした。

すると、和也の胸に光と闇がともった。

その直後和也の体がオーラに包まれた。


「これでいい、君はすべての精霊の力を司る原始の神マユミュンテに対なる『終端の神エンディア』となった、またアルの力も使えるだろうさ、それじゃあね」


マハーカーラーは闇へと消えて、シェキーナは光を失い残った。


「今の私は精霊でもない、ただのシェキーナ」

「さあ、ゆこう、原始の神殿へ」


シェキーナと陽向の言葉に頷くと、3人は原始の神殿の中へと足を踏み入れた。

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