第14話 突然の別れと

 火の高位精霊、アルブレッサーラ。確かにアルはそう言ったのだ。

 天領寺は混乱する頭であたりを見回すと先ほどまでアルが立っていた場所に火がくすぶり段々とその火が大きくなっていくのを視認した。

 黒騎士は跳ねられた剣を地面から抜くとまた両手で構え臨戦体制に移る。

「来い! 黒騎士!」

 アルも杖を右手に持ち半身になる。

 ガシャガシャと上段に剣を構えた黒騎士がアルに突進していく。

 しかしアルにとってはその突進もいささか遅すぎたようだ。

 アルの両足が赤く光る。まるで松明が風に煽られた時のようなブオッという音とともにアルは一瞬にして黒騎士の後ろに回り込む。

 アルが蹴った土はまたも燃え上がる。

 黒騎士が慌てて方向を変える前にアルは杖で黒騎士の背中を何回か小突いた。

 バランスを崩し倒れこむ黒騎士。

 その隙にアルは黒騎士の剣を拾い上げた。

「勝負あったようだな黒騎士よ」

 立ち上がった黒騎士にアルが叫んだ。

 黒騎士は2、3メートル後ろに飛びのく。逃げる気だと和也は思ったが違った。

 黒騎士は握った右の拳をアルに向けて、人のそれではない言葉とも取れない声を放つ。

 その瞬間だったアルが拾い上げた剣が一瞬どす黒いオーラを放ち爆散した。

 



 気がつくと和也は仰向けで空を仰いでいた。何分?いや何時間気絶していたのかわからなかった。

 和也が体を起こすとまだアルの足跡が燃えていた。和也は気絶していたのは一瞬だったのだと確信した。

 アルはどうなった? 和也はあたりを見回すそこには呪文を使ったせいか肩で息をする黒騎士と、左手で剣を持っていたがために左腕を丸々失ったアルの姿があった。

「アル!!!」

 和也は叫んでアルの元へ走ろうとしたが

「来るな!!!!」

 とアルが叫んだ

「黒騎士よまさかこんな呪文を持っていたとは、一杯喰わされたよ」

 アルの左肩から鼓動に合わせて血しぶきが舞う。

「アル!!早く手当てをしないと!!!」

 和也が叫ぶがアルは首を横に振った。

「だが黒騎士よ、この盤面もうお前の詰みだと言うことがわからないか?」

 肩で息をする黒騎士が何かに気が付いたように周りを見た。

 その時だった。和也の目の前で燃えているアルの足跡が急に光り出し虚空に光りの柱を作った。

 それは一本だけではなくこの戦闘でアルがつけた足跡全てから光りの柱が立っていた。

 そしてそれはアルを中心に円を描くように形作られていた。

 黒騎士は慌ててその円の外に向かって走り出す。

 また炎の揺らぐ音がしてアルが一瞬で先に回ると右手の拳で黒騎士を殴り飛ばした。

「黒騎士よ我ら二人ここで終わりを迎えよう」

 アルが言う。

 円の外にいた和也は

「どういうことだアル!!」

 と片腕を失ったアルに聞く

「この光りの柱は火界封術と言って円の中のものを永久に封じる力を持つ」

「永久に? じゃあアルはどうなるんだよ!」

「ここまでの旅路、結構楽しかったぞ天領寺和也」

 アルが子供のような笑みを浮かべたから和也は言葉を詰まらせた。

 円の中の土は光りの水面となりゆっくりとアルと黒騎士を飲み込んでいく。

「そうだ、和也、私の足跡の火を後でコピーしておくといい。きっと何かの役に立つ」

「待ってアル!!俺は自分自身しかコピーできない!!」

「大丈夫、和也、君はもう自分以外のものもコピーできるくらいに成長しているはずだよ、何も言わずに受け取ってくれ。一回限りだが私の火の力が使えるはずだ」

 そう言うと起き上がろうとした黒騎士を押さえつけながらまた笑った。今度は少し寂しそうに。

「もう時間がないようだ、和也、みんなを頼んだぞ」

 アルは肩くらいまで光りの水面に沈んでいた。

「待ってアル!!」

「大丈夫、君が戦う時、いつも私はそばにいる」

 それがアルの残した最後の言葉だった。

 光りの水面が完全にアルと黒騎士を飲み込んだ。次第に円の中の光は薄れ消えていく。

 後にはアルの足跡の炎が残っているだけであった。

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