第13話 火の高位精霊と

 一夜が明けた。

 アルの指示により、避難者達のうち傷の浅い者を集めてカリシュ解放を目指す義勇軍が編成された。夜を徹した斥候は困難を極めたそうだが、その結果カリシュ全域にも周囲の焼けた森にもゴブリンがいること、帝国軍は正午までに到着するという情報が得られた。義勇軍が昼までに拠点を設ける間、和也と陽向がカリシュの東西で陽動を担う手筈となり、朝日を迎える丘には決意が沸き上がっていた。


「シェキーナは行かせないでくれ。 きっと傷は癒えても心まではコピペできないからさ」

「ああ、わかってるとも。 和也くんがそう言うと思って戦列からは外している」

 長耳の少女を見つめながら、アルがゆっくりと答えた。


 二人が小屋を出ると、既に身支度を整えた海堂が待っていた。

「それで、帝国の援軍が来て、カリシュを奪還したら……どうするんですか?」

 炊事の煙が立ち並ぶ小道を歩きながら海堂が尋ねた。

「奪還に成功したら、転進して黎明の十字団の拠点を叩く。 大きな戦になるぞ――」

 足を止めたアルの手元を二人が覗き込む。

「いいか、ここが俺達が今いるカリシュ。 そして、黎明の十字団の砦や施設が……ここだ」

 手にした地図が僅かに光り、地図の各所が点を打つように焦げていく。

「5箇所ですか」「十字だわ」

 海堂のつぶやきを聞いて位置を見直すと、確かにそれらの拠点は十字を形成している。

「おそらくハイ・ライトがいるとすれば……ここだろう」

 杖の先で指された中央の点が、さらに赤く光る。

「四方の拠点にそれぞれ水・森・風・火の高位精霊が封じられていて、それぞれに師団が存在しているんだ。 元々黎明の十字団は拝火教だから、ここの火の砦が最大戦力とも言える。 そして中央のここが始原の神殿……地母神マユミェンテが潜むとすればここなのではないかと踏んでいる。 出来れば末端の戦力から削ぎたいところだが、状況によってはお前たち2人で、始原の神殿に向かって貰わねばならない。 俺達はそこには辿り着けないからな」

「始原の世界から来た人しか入ることができない……つまりはそういうことかしら?」

 なぜたどり着けないのか、という言葉を慌てて飲み込んだ和矢が海堂に視線を移す。

「そうだ。 神から得られる能力は俺達の間では始原属性とも呼んでいる。 それを持つ者でなければ神殿に入ることすらできない……時間だ、俺は後から行く」


 周囲の森がいつの間にか焼け跡へと変貌していた。状況を察した義勇軍が街の方へと走っていく。

「帝国軍が来るまで持ちこたえるわよ。 アルもアンタもそうだけど、特に高辻は締め上げて聞かなきゃならないことが沢山あるの」

 近場のゴブリンを一掃するために、まずは手当たり次第にゴブリンを文字通り千切っては投げた。昨日の惨劇と避難できた人々、そして今戦っている皆のことを考えるとゴブリンを屠るくらいは造作も無かった。

 全力でゴブリンを積み上げ、少しの疲労を感じた頃、遠くにいた陽向が叫んだ。

「天領寺! 後ろ!」

 和也の耳に突然入った金属鎧の擦れる音。上段に振り上げられた両刃の剣。嘘だろ? いつからいたんだ!

 咄嗟に振り返りブロードソードを構える。

 刹那、大きな金属音。しかし手ごたえがない。思わずつぶってしまった目を開けると、薄緑の長い髪が揺れていた。

 木製のはずの杖が、黒騎士の大剣を受け止めている。

「後から行くって言ったろ、和也」

 アルは長身をしならせ刃を3歩ばかり跳ね飛ばすと、杖の先端を黒騎士へと向けた。

「火の高位精霊、賢き者アルブレッサーラ。 もう一度歴史の表舞台に出てやろう」

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