第10話 敵の正体と

 その時、背後に人の気配があった。振り返ると戸口に立っていたのは、カイドゥ・ヒィ・ナターこと海堂陽向だった。

 ぼろぼろな姿の陽向は言う。

「おかえり。遅かったな」

「おか……えり?」

 アルが説明する。

「シェキーナがかろうじて命を取り留めたのは、彼女が助けてくれたからなんだよ」

「ええっ? ゴブリンの王だったんじゃないんですか?」

「王だったことは一度もないよ。ただの用心棒だ」

 陽向は、どさりとあぐらをかいて床に座った。

「洗脳されたラピスがその力を発揮すると、私はあっと言う間にお払い箱になった。もっとも、ゴブリンたちの殺戮に加わるつもりなど毛頭ないから、どうせ縁を切る運命だったろうね」

「良かった。陽向さんが首謀者じゃなくて」

「もちろんだ。私はむしろ殺戮を食い止めようとしたんだぞ。だが多勢に無勢だし、ラピスは強いしで、たくさんの……命が……目の前で……」

 それでうつむいてしまい、言葉もなくなってしまった。

 しばらくの沈黙のあと、アルが口を開いた。

「では、これからのことだ」

 アルは杖を手にしていた。

「帝国から援軍が来る。彼らと共同し、ゴブリン軍と戦う。そしてラピスを洗脳した魔法使いを叩き、正常に戻す。そうすれば彼は本来の能力を正しい目的に使い、森を回復させ、ゴブリン軍を打ち負かすことが必ずできる」

 陽向が顔を上げて言った。

「やる、だろ?」

 和矢はすぐに答える。

「もちろん、だ」

 アルは杖で、こつんと床を突いた。

「カイドゥ、和矢、私。三人で力を合わせよう。私の力など、君たち能力者に比べたら微々たるものだろうが」

 和矢は言った。

「俺のやっと開眼した能力、コピペで必ず倒して見せますよ」

「頼もしいな」

 陽向が言う。

「親友だったとは言え、同情は決してしないでくれよ」

「えっ?」

 陽向のその言葉は衝撃的だった。

「魔法使い、敵の親玉の正体は、お前と寮で同室だった高辻誠だ。もっとも飛ばされた時代が違うらしく、もう老人の姿だが」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る