第6話 協力と

そうして天領寺と日向の対決が始まった。天領寺は剣、日向は木の棒。武器だけ見たら戦力差は大きなものであるが、その根幹にある身体という部分の違いはそれよりも更に大きなものとして天領寺に立ちはだかる。


「ハッハッハ。楽しいなぁ天領寺ィ!」

「楽しいのは貴方だけです...よ!」


天領寺と日向の力の差は歴然だった。まるで瞬間移動でもするかのように天領寺を追い詰めていく。日向の手に握られている1本の木の棒は、文字通り縦横無尽に動き回り、天領寺の体力も精神も、満身創痍と表していい状態になるまでにはそう時間はかからなかった。


「僕そろそろ死にそうな気がするんですけど...!」

「か弱いな天領寺!もうちょっと楽しまないかァ!」


いくら痛めつけられたところで、いかんせん武器が木の棒であるため天領寺の血飛沫すら上がることはない。衛生的にはそれでよかったのだろうが、このことが天領寺をいっそう追い詰める原因になっていた。

この時、日向には理性が残っていなかったのである。血飛沫でも浴びれば正気に戻っていた可能性もあるが、武器が木の棒であることが災いしてそんなこともなかった。恋敵との勝負、対決という状況が頭から抜け落ち、そこにいるのは剣士ではなく、その実ただの快楽殺人鬼のようなものであった。天領寺と日向の実力差はあまりにも大きなものであるから、このままいくと天領寺はこのまま異世界で命を落とすだろう。


「和矢。君もここまでのようだね。大人しくまゆを私に渡して、君は草葉の陰からでも見守っていてくれ。」

「日向さん...やめて」


日向の棒が天領寺の顔に立てられたその瞬間だった。


「そこまでよォ!アタシの和矢ちゃんを痛めつけるのもほどほどにしてあげてちょうだい!和矢!逃げるのよォ!」

「ッ...!何するんだラピス!水を差すなと言っただろう!」

「今のキミがしてるのは勝負じゃない!殺戮ヨゥ!」


そんなやりとりが繰り広げられている中、天領寺は満身創痍の身体を引きずり必死に走った。走る方向は問題ではなかった。どこかに行けば誰かが助けてくれる。最悪日向が正気に戻ったら戻ってラピスに助けを請えばいい。そんなレベルの思考能力しか残っていなかった。


しかし、天領寺は大切なことを聞き逃していた。いや、その情報を処理できるリソースすらなかったといったほうが正しいだろう。


『「そこまでよォ!【アタシの】和矢ちゃんを痛めつけるのもほどほどにしてあげてちょうだい!和矢!逃げるのよォ!」』

『「そこまでよォ!【【アタシの】】和矢ちゃんを痛めつけるのもほどほどにしてあげてちょうだい!和矢!逃げるのよォ!」』



【【【【アタシの】】】】



一方そのころ。


「ハァ、ハァ、アンタもなかなかやるじゃない。」

「お互いにね。ラピス。先ほどはちょっと高揚しすぎていたようだ。ところでだ。君の愛しの天領寺もほおっておきすぎると逃げてしまうのではないのかい。私も天領寺からまゆをあきらめる意思を聞きたいものでね。利害が一致するようだし、ここはひとつ協力して天領寺を探さないか。もちろん、天領寺の命は奪わない。」

「...分かったわ。その誘い、乗りましょう。」


天領寺は親切にもラピスが自分のことを探しているとは知らなかった。

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