第4話 意外な助っ人と

 天領寺和矢は半分自棄になりながら森の中を歩いていた。

 隣には、先ほど「ハァイ」と声をかけてきた男がいる。海パン一丁で褐色の肌、ムキムキマッチョな体の割に、動きがなよなよとしている。

「あたしね、この出会いは運命だと思うの」

 ラピスラズリと名乗った彼は、目を輝かせながら続ける。

「あなたは空から落ちてきた…………」

「いや、そうじゃなくて、崖から落とされて…………」

「そして、あたしの目の前に現れた…………」

 その目は本当に乙女のようだった。頬に手を当てて、赤らむ顔を隠しながら歩くラピスラズリは和矢の顔をちらちら見ながらこう続ける。

「こんな素敵な出会いがあるなんて……神様はこんなあたしにもご褒美を……! 下がって!!!」

 急に声のトーンが変わるラピスラズリ。ため息をつきながら聞いていた和矢も驚き振り向くと、そこには人間のように二本足で立っているものの、背は低く、赤い瞳、指は四本、その指から長い爪を持つ奇妙な生き物がいた。

「ゴブリンよ。あなたは下がってて」

 ラピスラズリはそういうとどこに隠し持っていたのか、短剣を持ち、ゴブリンとの間合いを詰めていく。意外にも隙のない姿で和矢は驚いていた。あの筋肉はどうやら戦闘で鍛えられたもののようだ。

 キィィィィッ! と言いながらゴブリンが長い爪でラピスラズリを引っ掻こうとする。ラピスラズリは短剣でその右腕を切りつける。

 ぎぃぃぃぃぃ! ゴブリンは腕から流れる血を見てかえって興奮したらしい。ラピスラズリに体当たりする。びくともしない。

 不敵な笑みを浮かべると、ラピスラズリはゴブリンの腕をつかみ、普通では曲がらない方向に曲げた。

 ギャァァァァァ!!!

 叫び声とともに、ゴブリンは反射的に後ずさりした。そして、脱兎のごとく逃げる。

「ふん、このラピに攻撃なんて百万年早いわよ」

 か、かっこえぇ…………じゃなくて。

 ラピスラズリがいなかったらどうなっていただろう。和矢は今になって震える。

「ら、ラピスラズリさん…………」

ちょっとだけ尊敬の念を込めて声をかけると、ラピスラズリはすっかり元の調子に戻っていた。

「ラピちゃんでいいわよ~。かずちゃん大丈夫だった?」

 一気に距離を縮めてきたラピに、多少の恐怖を覚えながらも、和矢はお礼を言う。

「ありがとうございました。無傷です。丸腰だったんで本当に焦ってました」

 それを聞いたラピはきょとんとする。

「あら、あなた、授かった能力はないの?」

 アルブレッサーラに聞かれたことのことだろう。ラピも異世界人の知識はあるようだ。

「耳が短いからすぐに異世界人だとわかったわ。だからこそ空から落ちてきたんでしょ?」

 当然のことのように言うラピ。和矢は首を横に振ると能力はないと答えた。

「…………そんなこともあるのねぇ」

 ラピが少々落胆しているのを和矢は感じた。

「でも、かずちゃんはかずちゃんよねっ! あたし、これからはかずちゃんを守って生きていくわっ! 大丈夫よ、この森の大抵の生き物は倒せるわっ!」

 ラピの母性をくすぐったらしい和矢は慌てた。

「いや、行かなければならないところがあるんだ」

 和矢は上を指す。崖の上を指したつもりだったが…………。

「かずちゃん、天に帰るには早すぎるわ。異世界人には役目があるはずよ」

 ラピのトンチンカンな返しに、思わずフッと笑う。

「いや、違う、山の上」

 ラピはきょとんとした。

「山の、上?」

 ラピは少し考えると、あぁ、と少しつまらなそうに続けた。

「あなた、アルのところから来たのね。となると……」

 和矢は話が通じたらしいことに安堵していた。

「わかったわ、助けてあげる。ただし、助けるだけよ。あなたを鍛えてるアルの邪魔はできないから」

 そういうと、どう考えても海パン一丁では隠し切れないはずのブロードソードを和矢に渡す。

「うわっ、どこから出したんすか!」

「あたしの魔法よ。空間と空間をつなげて別の場所から持ってくるだけ」

 …………だけって。

「これから出会う敵にはかずちゃんがメインになって戦ってもらうわ。どうせ、上で鍛えられてから落とされたんでしょ? まったく、アルもアルだわ。丸腰の能力持たない異世界人を落とすなんて。あたしがいなかったら今頃どうなってたか……どうせあたしがいること前提で落としたにちがいないわ」

 後半の言葉はラピの愚痴だった。和矢は渡されたブロードソードを腰に携えると「よし」という。

「ちょっと素振りしてみていいか?」

和矢が言うとラピは頷き、一歩下がる。

 正直、振れる自信は全くなかった。向こうの世界でも剣など振ったことはない。いくらアルに鍛えられたとはいえ、この重さの剣をふるうことができるのか。

 鞘からブロードソードを抜く。思ってたより軽く感じた。目の前の竹のような植物を切ってみる。

「せい!」

 竹らしき植物はバッサリときれいに切れた。

「あら、すごーい! 腕は確かね。一安心だわ」

 ラピちゃんは拍手しながら感激していた。和矢は自分が思っている以上に筋肉が鍛えられていることを実感し、一人頷く。

「あたしたち、最強ペアかもよ~!!! アルのところに戻るのやめて一緒に暮らさない?」

 ラピちゃんの本気の言葉に和矢はプルプルと首を横に振り、い・や・だ。というオーラを最大限に出すのだった。

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