292 世界樹を守れ!
注意:今日から2話ずつ更新です、気を付けてください~
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ククリを編み上げた三つ編みの中に押し込み、クリスはエイフの抱っこから降りた。
その動きで、コノハが追っ手に気付いたようだ。慌てて指示を始める。
「ゾーイ、さっさとスキルを発動しろ。ユーヤは力を溜めておけよ。お前が出し惜しみしているのは分かってる」
「待って、もう少しだけ聖女の力を――」
「アカリは長睡眠スキルが発動したようだぞ。無理だな」
「ちっ、ハズレスキルめ」
クリスたちが急いで近付けば、リリィが世界樹に何かの魔道具を突き刺しているのが見えた。そこから樹液が流れ出ている。湖にある
「何、あれ」
「止めるぞ。クリスは後から来い。イフェ、クリスの護衛を頼む」
イフェが頷き、クラフトはエイフを追った。カッシーもエイフを補助するため、ハパを連れて走る。ナッキーがいるというのに彼の足は緩まなかった。
「接続できました! 『転生者が元の世界に戻る方法を教えて』」
「ユカ、予知はどうなってる」
「ダメよ、さっきの聖女の力じゃ全然足りない」
「リリィとユーヤはやれるんだな?」
「当然でしょ。世界樹の力を吸い取ってるわ」
「これなら俺も今までで一番の力を扱えるだろう。あとはゾーイの結果だけだ」
子供二人は離れている。アカリは横たわり、セイジが泣きながらしがみついていた。
エイフが
「世界樹の様子がおかしい。あの辺りの葉から枯れ始めている。奴等め、自分たちが良ければいいと思っているな」
「埋め込まれた魔道具を壊せばいいのだろうか。かなり深いようだが……」
「僕がユーヤの前に出るから、その隙にハパさんが動きを止めて。で、エルウィークさんが捕まえるというのは?」
「やってみよう」
少し離れているのに、どういうわけか彼等の声が聞こえる。
ふと、気付く。
クリスの家つくりスキルが発動していた。
「あ、そっか。ここは皆の家なんだ。世界樹は精霊たちの実家なんだよ」
精霊は生を終えたい時は世界樹と一緒になるという。だからといって哀しむ場所ではない。墓標というより憩いの場に近いのだろうか。多くの精霊が集まり、楽しく過ごす場所だ。安心できる場所。
クリスにとっては、それが家になる。
すると、木の枝の精霊がぴょこんと動いた。イサが肩の上で鳴く。そうだそうだと言っているらしい。
ククリが頭の上でもぞもぞと動いた。起きたようだ。
「ククリの実家でもあるんだよ」
「くく?」
「初めて戻る実家、うーん、本家みたいな感じかな?」
どうあれ、家は家だ。クリスは頷いた。
「家なら、勝手に入り込んだ人たちのせいで壊れた場所も直せるよね?」
持ち込んだ異物だって取り除ける。なにしろクリスの家つくりスキルは、家のためなら何だってできるのだ。
今までもリフォームはしてきた。解体もお手の物。ちょっとした修正や修復だってできる。
「精霊たちの大事な実家を修復するよ! みんな、気を付けて!」
えっ、と驚くカッシーの声と同時に世界樹が動いた。幹がうねる。けれど、足下はしっかりしていた。少なくともクリスの足下は幹が支えてくれている。
クリスは安心して、存分に力を振るった。
ずず、ずずっと動く世界樹の壁から魔道具が吐き出された。濃い色の樹液も大量に溢れる。きっと干渉されて感染した悪い部分だ。
壁からは小さな枝が生えてきた。それらが濃い樹液を堰き止める。元々ある湖に流れないよう、他に移動しないよう。
魔道具が埋め込まれていた場所が徐々に埋まっていく。驚異的なスピードで修復が始まった。
「嘘、なによ、これ」
「くそっ、足が! 転移門を維持できない!」
「はぁ? オジサンのいる意味それだけなのに、なんでできないの? だっさ」
「予知になかったわよ、こんなの」
「うっ、ぐっ」
「コノハ様、大丈夫ですかっ?」
「アカリちゃん、お願い、起きてぇ……」
えぐえぐと泣く少年が憐れだ。クリスがそう思ったからか、世界樹の幹からまたも枝が生え、彼と横たわるアカリをそっと持ち上げた。
「え、えっ?」
「大丈夫よ、こっちへおいで」
「お姉ちゃん?」
勇者スキルを持つセイジは、クリスを見て安心したように頷いた。
勇者スキルには敵や味方を判別する能力があるという。ただそれは、スキルを持つ本人にとって、だ。もちろん、クリスにセイジを害する考えはない。
枝がリレー方式で二人の子供を運んでくる。その間に、傷付けられた世界樹の修復が終わった。削られ、穴が開いていた場所が盛り上がっている。そして小さな家ができていた。動物公園に設置されるような鳥やリスの家だ。屋根には小さな風見鶏があって、風の精霊が嬉しそうに回していく。頭上には雨避けなのか、枝が張りだして葉がわさわさと揺れた。
つい、想像してしまったのだ。精霊たちの実家を修復しよう、それだけを考えていたはずなのに。クリスは世界樹に小さな家を作ってしまった。
カッシーが戻ってきて、子供二人の様子を見る。プルピの他にも精霊たちが集まった。
「ふむ。この少女は聖女スキルを使うと、四つ目の長睡眠スキルを呼び起こしてしまうようだ」
「えっと、こういう言い方はしたくないんだけど、ハズレスキルってこと?」
プルピが鑑定の出来る精霊から話を聞いて、皆に翻訳してくれた。カッシーは同情めいた視線でアカリを見下ろし、イフェはセイジの背中を撫でて慰めている。
「聖女スキルは魔力を食うらしい。だから長時間眠ることで回復を促すようだ。今は成長途中でレベルが伴っていない。そのせいで不均衡になっている。慣れれば問題ないだろう」
「つまり、ハズレスキルじゃないということだね」
「そのように決めたのは人間だ」
「うん、そうだよね」
少なくとも、ハズレスキルは外れじゃない。クリスはそう思う。
ただ、スキルには最悪なものもある。それをまざまざと思い知らされた。エイフがコノハを運んできたのだ。彼はもう息も絶え絶えだった。
「あそこにいた女が教えてくれた。こいつの第四のスキルは『減退』だそうだ。本来は体力を失うスキルだそうだが、どういうわけか命に関わるレベルでおかしくなっているらしい」
「えっ」
「ユーヤが過去に攫った転生者に、似たようなスキル持ちがいたらしい。それを聞いてコノハは焦ったんだろう」
クリスたちが子供二人を保護している間に、エイフやエルウィークらは残りのニホン組を捕まえて問い質していたようだ。
彼等にはハパが付いていた。上位精霊の彼が呼びかけ、世界樹を守りたい精霊たちの力を借りられたらしい。捕まってしまったからか、あるいはコノハを助けてほしかったのか、ゾーイを始めとした女性たちがペラペラと事情を話し始めた。
諦めの悪い人間もいる。ユーヤとリリィだ。この二人はクラフトがしっかりと見張っている。竜人族だが鬼の形相だ。クラフトが慕う女性を攫ったのがユーヤかもしれないからだ。
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・ISBN-13 : 978-4047370845
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書籍版もぜひよろしくお願いします!
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