292 世界樹を守れ!

注意:今日から2話ずつ更新です、気を付けてください~


**********






 ククリを編み上げた三つ編みの中に押し込み、クリスはエイフの抱っこから降りた。

 その動きで、コノハが追っ手に気付いたようだ。慌てて指示を始める。


「ゾーイ、さっさとスキルを発動しろ。ユーヤは力を溜めておけよ。お前が出し惜しみしているのは分かってる」

「待って、もう少しだけ聖女の力を――」

「アカリは長睡眠スキルが発動したようだぞ。無理だな」

「ちっ、ハズレスキルめ」


 クリスたちが急いで近付けば、リリィが世界樹に何かの魔道具を突き刺しているのが見えた。そこから樹液が流れ出ている。湖にある世界樹の慈悲の水オムニアペルフェクティオとは違う色だ。濃い赤茶色で、まるで出血しているかのように見える。


「何、あれ」

「止めるぞ。クリスは後から来い。イフェ、クリスの護衛を頼む」


 イフェが頷き、クラフトはエイフを追った。カッシーもエイフを補助するため、ハパを連れて走る。ナッキーがいるというのに彼の足は緩まなかった。


「接続できました! 『転生者が元の世界に戻る方法を教えて』」

「ユカ、予知はどうなってる」

「ダメよ、さっきの聖女の力じゃ全然足りない」

「リリィとユーヤはやれるんだな?」

「当然でしょ。世界樹の力を吸い取ってるわ」

「これなら俺も今までで一番の力を扱えるだろう。あとはゾーイの結果だけだ」


 子供二人は離れている。アカリは横たわり、セイジが泣きながらしがみついていた。

 エイフが呟く・・


「世界樹の様子がおかしい。あの辺りの葉から枯れ始めている。奴等め、自分たちが良ければいいと思っているな」

「埋め込まれた魔道具を壊せばいいのだろうか。かなり深いようだが……」

「僕がユーヤの前に出るから、その隙にハパさんが動きを止めて。で、エルウィークさんが捕まえるというのは?」

「やってみよう」


 少し離れているのに、どういうわけか彼等の声が聞こえる。

 ふと、気付く。

 クリスの家つくりスキルが発動していた。


「あ、そっか。ここは皆の家なんだ。世界樹は精霊たちの実家なんだよ」


 精霊は生を終えたい時は世界樹と一緒になるという。だからといって哀しむ場所ではない。墓標というより憩いの場に近いのだろうか。多くの精霊が集まり、楽しく過ごす場所だ。安心できる場所。

 クリスにとっては、それが家になる。

 すると、木の枝の精霊がぴょこんと動いた。イサが肩の上で鳴く。そうだそうだと言っているらしい。

 ククリが頭の上でもぞもぞと動いた。起きたようだ。


「ククリの実家でもあるんだよ」

「くく?」

「初めて戻る実家、うーん、本家みたいな感じかな?」


 どうあれ、家は家だ。クリスは頷いた。


「家なら、勝手に入り込んだ人たちのせいで壊れた場所も直せるよね?」


 持ち込んだ異物だって取り除ける。なにしろクリスの家つくりスキルは、家のためなら何だってできるのだ。

 今までもリフォームはしてきた。解体もお手の物。ちょっとした修正や修復だってできる。


「精霊たちの大事な実家を修復するよ! みんな、気を付けて!」


 えっ、と驚くカッシーの声と同時に世界樹が動いた。幹がうねる。けれど、足下はしっかりしていた。少なくともクリスの足下は幹が支えてくれている。

 クリスは安心して、存分に力を振るった。



 ずず、ずずっと動く世界樹の壁から魔道具が吐き出された。濃い色の樹液も大量に溢れる。きっと干渉されて感染した悪い部分だ。

 壁からは小さな枝が生えてきた。それらが濃い樹液を堰き止める。元々ある湖に流れないよう、他に移動しないよう。

 魔道具が埋め込まれていた場所が徐々に埋まっていく。驚異的なスピードで修復が始まった。


「嘘、なによ、これ」

「くそっ、足が! 転移門を維持できない!」

「はぁ? オジサンのいる意味それだけなのに、なんでできないの? だっさ」

「予知になかったわよ、こんなの」

「うっ、ぐっ」

「コノハ様、大丈夫ですかっ?」

「アカリちゃん、お願い、起きてぇ……」


 えぐえぐと泣く少年が憐れだ。クリスがそう思ったからか、世界樹の幹からまたも枝が生え、彼と横たわるアカリをそっと持ち上げた。


「え、えっ?」

「大丈夫よ、こっちへおいで」

「お姉ちゃん?」


 勇者スキルを持つセイジは、クリスを見て安心したように頷いた。

 勇者スキルには敵や味方を判別する能力があるという。ただそれは、スキルを持つ本人にとって、だ。もちろん、クリスにセイジを害する考えはない。

 枝がリレー方式で二人の子供を運んでくる。その間に、傷付けられた世界樹の修復が終わった。削られ、穴が開いていた場所が盛り上がっている。そして小さな家ができていた。動物公園に設置されるような鳥やリスの家だ。屋根には小さな風見鶏があって、風の精霊が嬉しそうに回していく。頭上には雨避けなのか、枝が張りだして葉がわさわさと揺れた。

 つい、想像してしまったのだ。精霊たちの実家を修復しよう、それだけを考えていたはずなのに。クリスは世界樹に小さな家を作ってしまった。



 カッシーが戻ってきて、子供二人の様子を見る。プルピの他にも精霊たちが集まった。


「ふむ。この少女は聖女スキルを使うと、四つ目の長睡眠スキルを呼び起こしてしまうようだ」

「えっと、こういう言い方はしたくないんだけど、ハズレスキルってこと?」


 プルピが鑑定の出来る精霊から話を聞いて、皆に翻訳してくれた。カッシーは同情めいた視線でアカリを見下ろし、イフェはセイジの背中を撫でて慰めている。


「聖女スキルは魔力を食うらしい。だから長時間眠ることで回復を促すようだ。今は成長途中でレベルが伴っていない。そのせいで不均衡になっている。慣れれば問題ないだろう」

「つまり、ハズレスキルじゃないということだね」

「そのように決めたのは人間だ」

「うん、そうだよね」


 少なくとも、ハズレスキルは外れじゃない。クリスはそう思う。


 ただ、スキルには最悪なものもある。それをまざまざと思い知らされた。エイフがコノハを運んできたのだ。彼はもう息も絶え絶えだった。


「あそこにいた女が教えてくれた。こいつの第四のスキルは『減退』だそうだ。本来は体力を失うスキルだそうだが、どういうわけか命に関わるレベルでおかしくなっているらしい」

「えっ」

「ユーヤが過去に攫った転生者に、似たようなスキル持ちがいたらしい。それを聞いてコノハは焦ったんだろう」


 クリスたちが子供二人を保護している間に、エイフやエルウィークらは残りのニホン組を捕まえて問い質していたようだ。

 彼等にはハパが付いていた。上位精霊の彼が呼びかけ、世界樹を守りたい精霊たちの力を借りられたらしい。捕まってしまったからか、あるいはコノハを助けてほしかったのか、ゾーイを始めとした女性たちがペラペラと事情を話し始めた。



 諦めの悪い人間もいる。ユーヤとリリィだ。この二人はクラフトがしっかりと見張っている。竜人族だが鬼の形相だ。クラフトが慕う女性を攫ったのがユーヤかもしれないからだ。






**********


5巻発売中です


・家つくりスキルで異世界を生き延びろ 5

・ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4047370845

・小鳥屋エム/イラストは文倉十先生


書籍版もぜひよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る