251 ご機嫌カロリンとプルピの報告
クリスは午後もマッピングを続け、ギルドには夕方に寄った。
初日ということもあって受付の女性が丁寧に確認する。どれも問題なしと太鼓判を押された。作業の理解度も高いと認められ「引き続き依頼を受けてほしい」と頼まれる。もちろんクリスに否やはない。お宝と呼べるような掘り出し物はなかったけれど、骨董品と言えなくもない食器類を渡して仕事は終わりだ。
クリスとエイフは来た道を戻る格好で宿に帰った。
宿の前まで来ると、先に戻っていたカロリンがレストランの窓から手を振っている。良いことでもあったのか、ご機嫌な様子だ。
レストランは賑わっていた。お高い宿に併設されたレストランではあるが、お値段以上に味が良いからだろう。毎日気軽に通える金額ではないけれど、週に一度ならと思える値段設定なのも有り難い。クリスたちのような宿泊客にも割引が利くというから、カロリンのみならずメンバー全員が気に入っている。
「お先にやってるわよ」
席にはカロリンと、まだ何も頼んでいないらしいカッシーが座っている。
「カッシーは帰ってきたところ?」
「さっきね。それより、カロリンが先に飲んでてビックリしたよ」
「えぇー。カロリンは弱いんだから一人で飲んじゃダメだよ」
カロリンの横に座りながらクリスが注意すると、彼女は半分ほど減ったグラスを掲げてケラケラ笑った。
「大丈夫よぉ」
「もう酔ってるの?」
「なんだと?」
エイフが眉を顰めて向かいの席から立ち上がった。手を伸ばしてカロリンのグラスを奪おうとするが、すんでのところで空振りだ。こういう時のカロリンは素早い。「酔ってません~」と楽しそうだった。
今日は特に楽しいお酒らしい。笑顔で、グラスに口を付けてちょびちょびと飲む。前世は酒豪だったのに今生ではお酒が弱いというのは可哀想な気もする。しかし、無理に飲み続ける真似はしないのでまだ理性的ではある。
「そのグラスだけにしておけよ」
「はぁい。んふ、エイフが優しいぃ~」
「カロリン、やめなって。正気に戻った時に恥ずかしい思いするの、自分なんだからさ」
「お黙り~、カッシー」
いつものスパーンと言い切る口調ではない。どこか甘えたような、可愛い雰囲気だ。クリスが苦笑していると、給仕係が注文を取りにきた。去り際に「彼女、お仕事で良いことがあったらしいですよ」と教えてくれる。よほど嬉しかったのだろう、給仕の女性にまで話をしたらしい。
ところが肝心の内容を聞こうにも、カロリンはケラケラ笑うだけだ。以前酔っ払った時も会話にならなかった。あの時は愚痴を一方的に零していたけれど、今回は楽しそうに鼻歌まで付いている。クリスは普段きっちりしているカロリンの可愛い様子に和みながら、彼女のグラスにそっと水を足しておいた。どうせ味など分かるまい。
食事を済ませると部屋に戻ると、クリスは真っ先にカロリンを部屋に押し込んだ。そのままでは窮屈だろうとベルトや装飾品を外す。右へ左へ揺れるカロリンをベッドに寝かせる。ふと、彼女が靴下を脱いで寝ていたことを思い出す。脱がせ終わると、最後にポンポンと頭を撫でて部屋を出た。
「アレは大丈夫なのか?」
「念のため横向きにして倒れないよう枕で支えてきた。お店の人も二杯だけって言ってたし、大丈夫だと思うよ」
「そうか。だが、若い女が無防備すぎるな」
「あ、その顔。もしかしてお説教する?」
「エイフさんの説教か~」
何故か嬉しそうなカッシーは無視し、クリスは苦笑した。エイフが「オカン」すぎる。それが伝わったのか、エイフは苦々しい顔で黙ってしまった。代わりにハパが口を開く。
「なーに、我が付いててやろうぞ。
「えっ、ハパさん、カロリンのところに行っちゃうの?」
「ていうか、精霊に性別の意味ってなかったんじゃなかったっけ」
「精霊は気分屋だというからな。クリスも細かいことは気にするな」
「おぬしら、もっと何か、我に言うことはないのか。カッシーだけではないか、寂しがっているのは!」
クリスは半眼になった。呆れたことに、ハパの発言は嫉妬心を抱かせるための発言だったようだ。
「ハパ、そういうのは良くないよ。好きな相手の気持ちを試すような真似なんて。それにカロリンにも失礼なんだからね」
「え、待って、そういう話だったの? ハパさん?」
「好きな相手? 精霊が人間をか?」
「ぐぬ、年端もいかぬ女子に諭されるとは……」
「試し行為なんかしても空しいだけだよ。どっちにも嫌われちゃうよ?」
それに気付かず喜ぶ人もいるだろうけれど。クリスは忘れようと思っていた前世のあれこれを思い出し、慌てて頭を振った。
「とにかく、カロリンはわたしがちゃんと気にしておきます。ハパが心配していたって話もしておくから。それより今は、お互いが本音で語り合う時じゃない?」
と、カッシーを指差す。おろおろするカッシーが自分自身を指差して「僕?」と首を傾げる。ハパは羽を震わせ、パタパタとカッシーの頭の上に飛んでいった。
「なんだなんだ、どういうことだ。俺は一体、どうすればいい?」
「エイフはね、明日の朝になったらカロリンに対して『どんな嬉しいことがあったんだ』と聞けばいいんだよ。その後『次からは一緒に乾杯しよう』と言えばいいの。できれば、さりげなく」
「おう、そうなのか?」
「そうだよ」
気の抜けた顔のエイフを見て、クリスは笑った。
それから少ししてプルピとイサ、ククリが帰ってきた。続いてクラフトとイフェもだ。
クリスは精霊&妖精組の報告を聞き、エイフはクラフトたちから迷宮について教えてもらう。二手に分かれて会議だ。
ちなみにカッシーはハパと愛を確かめ合っている。カッシーの部屋からたまに「ハパさんっ、大好きだぁ!」と叫び声が聞こえてきた。ハパが逃げてこないところをみると、彼も喜んでいるのだろう。
クリスは気にせず、プルピの話を聞いた。
「へぇ、じゃあアサルには妖精が少なくて精霊の方が多いんだね」
「妖精は基本的には森が好きなのだ。ここは隠れる場所はあっても森が少ない」
「この都市は緑が少ないよね」
「うむ。反対に精霊は多い。迷宮の入り口にもいた。鑑定が得意な奴でな、ついでだからイサのスキルも見てもらったが。まあ、他にも新参の我々に集まってくるほどだ。変わり者が多い。奴等ときたら迷路の具合が面白いと楽しんでいるのだ」
「うわぁ。あれ、精霊って迷宮に入れるの?」
「好きではないな。あれは魔物の住処だ。よほどの変わり者でなければ入らん」
「精霊も魔物は嫌いなんだね」
「嫌いというよりは、気持ち悪い、に近いかもしれんな」
プルピの言い分に、クリスは曖昧に頷いた。
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