247 常時依頼の内容とアサルの歴史




 クリスが半金級になったことでパーティーとして受けられる依頼の幅が広がる。

 エイフがクリスに示したのは迷宮潜りと遺跡調査だ。カロリンはどちらも興味がないし、家政スキルを上げられる方がいいと、別の依頼を選んだ。

 二人は待っている間に、クリスが受けられそうな依頼を探してはくれた。が、冒険者ギルドに家や物を作るような依頼など滅多に来ない。ナファルがイレギュラー過ぎたのだ。


「それとも、魔法ギルドや職人ギルドに行ってみるか?」

「うーん、止めておく。さっき面接を担当してくれた職員さんに聞いたんだけど、やっぱり成人していない子供は受けられないみたい。どっちも師匠に付いているなら問題ないそうなんだけどね」

「そうか。まあ、都市ならルールも厳しくなる。そういうもんだろ」

「面接でも、子供のわたしが搾取されていないかどうか、虐待の形跡なんかも見てたみたい」

「しっかりしているな。子供を守る考えが浸透しているのなら、治安もそこまで悪くないだろう」

「良いことだけれど、疑われるのは気分が悪いわ。エイフは心が広いのねぇ」

「そうか? だが、こいつは最初、俺をロリコンだの何だのと疑っていたぞ」

「また、そうやってからかう! 持ちネタにするの、止めてよね」

「『もちねた』? なんだそりゃ。どうせ『オカン』と同じ系統だろう」


 エイフは笑いながら手を伸ばし、クリスの髪の毛をいつものようにぐしゃぐしゃにした。カロリンは呆れながらも笑顔で見ていたが、話は忘れていなかったようだ。


「あなたたち、ふざけるのはそのへんにしてちょうだい。依頼を受けるのでしょう?」

「はーい」

「へいへい。っと、分かった。だから睨むな。ったく」


 ぶつぶつ言いながら、エイフは依頼ボードの前まで進んだ。



 朝一番を過ぎているため、残っているのは常時依頼が多い。たとえば薬草採取がそうだ。軽い怪我や病気ならば治癒スキルなどを使わず薬草で対処する。田舎の場合は特に治癒スキル持ちがいないため薬草を使うのだ。都会でも治癒スキルで診てもらうとお礼が高額になるため、庶民は大抵薬草でなんとかする。だから冒険者ギルドには常時依頼として薬草採取があった。


 地域によって依頼内容は様々だ。たとえばエリミアの北部では荒野が多かったから、砂鼠退治が多かった。アサルではどうか。

 クリスは依頼ボードに残る常時依頼を眺めて「ああ」と納得の声を上げた。


「迷宮の素材集め、遺跡の地図作り、荷運び仕事もあるね」

「この辺りの迷宮は制覇が目的じゃないからな。危険な魔物があふれ出すなら迷宮を攻略する必要もあるんだろうが、一度も氾濫はないそうだ」


 迷宮内で狩れる魔物を資源として見ている。他にも鉱石や薬草などがあって、定期的に冒険者が取りに行くのだそうだ。だから常時依頼である。


「遺跡のめぼしい場所は地図が出来上がっているんだね」

「上層部はな。その中でも安全が確保されて綺麗な場所が観光地になっているそうだ」

「そうなんだ!」

「行ってみるか?」

「うーん、どうせなら依頼を受けて行ってみたいな」


 どのみち通るのなら観光しているのと一緒だ。仕事もできれば一石二鳥である。そんなクリスの合理的な提案をエイフは笑って了承した。カロリンは呆れているようだが反対はしなかった。



 冒険者ギルドでカロリンと別れ、クリスはエイフと遺跡に向かった。受けた依頼は遺跡の地図作製だ。初めてなので専用の指示書をもらう。地図作製はマッピングとも呼ばれ、統一書式がある。指示書には添付書類が付いており、すでに出来上がっている地図部分にはマーカーが引いてあった。また、他のグループと被らないよう、彼等の作業場所が斜線で塗りつぶされている。

 他にも先行している調査隊についての情報が載っていた。


「この人たちは遺跡調査の専門家らしいけど、活動資金ってどうなっているのかな」

「領主から出ているらしい」

「スポンサーか~」

「学者先生も学校からの援助だけじゃ現地調査は無理ってことだろ」

「じゃあ、この常時依頼も領主から出ているの?」

「それは学者先生の名前じゃないか? セシル=オークレってのは貴族っぽくないだろ。それに領主の名前で依頼は出さないさ」

「あ、そうか」


 貴族にはミドルネームが入ると聞く。エイフの言う通り、セシルとは調査隊のリーダーだろう。クリスは依頼書を仕舞った。これからマッピングに必要なあれこれを買いに行くのだ。ついでに市場調査である。クリスの好きな時間でもあった。



 各ギルドが立ち並ぶ大通りから一本裏通りに行くだけで雑多な区画が広がる。東側は食料品や道具類など、一般消費者向けの店舗が多い。反対に大通りの西側裏通りは職人街だ。鍛冶、革細工、道具屋、縫製場、鑑定屋などが軒を連ねる。

 農業や牧畜といった第一次産業は都市を守る外壁の外にあった。

 クリスたちは豊かな麦畑や牧草地帯を通ってきた。東の街道から入ったのでそれしか見ていないが、西には森があって林業が盛んだ。狩猟の他に魔物討伐も必要なので冒険者ギルドの支所もあるとか。

 北部にも山はあるが、恵みをもたらすほど豊かではない。使える鉱石は取り尽くしており旨味もないそうだ。しかも地盤が弱く、王都に続く街道とは思えない支線道路レベルだという。そのせいで、何かあった時に王都軍が駆け付けるのも遅い。

 昔から問題になっているというのに、頑丈な街道を通す案は何度も頓挫しているそうだ。


「どうして邪魔が入るんだろ」

「フォティア帝国の進軍を助けるかもしれないと思う弱腰野郎がいるからじゃないか?」

「また、そんな言い方。でもそうだとしたら、アサルの人はエリミア国に対して不信感があるよねぇ」

「だろうな。それで、南に大きな砦を作るのだろうさ。自分たちの力でな」


 南には元々、豊かな畑が広がっていた。けれど過去の戦禍によって放棄され、今では砦が作られている。


 これらはクラフトやイフェが「以前来た時に見た」と教えてくれたことだった。継ぎ接ぎだらけの砦らしい。急ごしらえの、フォティア帝国の侵攻を恐れて作ったという砦だ。

 その話を聞いた時、クリスが脳裏に思い浮かべたのはSF映画だった。継ぎ足して作られたロボットの映像である。だから余計に物悲しく感じた。遺跡も上に上にと重ねて作られている。


 アサルは悲しい歴史の積み重ねで出来ているのだ。


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