246 昇級のための面接
翌日は皆で冒険者ギルドに行った。どんな依頼があるのか確認しておく必要がある。
それに新しい土地に来たのだから情報収集も大事だ。
クリスは半金級に上がるための最終試験、面接を受ける。
その間、精霊たちはいつもの挨拶回りに向かった。カッシーも依頼をサッと確認したら合流するらしい。イサがプルピ一行の場所を把握できるので案内鳥として行動を共にする。
クリスは一人、面接室に入った。
緊張していると、やってきたギルド職員が「ただの確認ですから」とにこやかに話してくれる。クリスはホッと胸を撫で下ろした。
ふと「油断させておいてからの圧迫面接か」と考えるも「そんな、前世にあった就職氷河期時代じゃあるまいし」と頭を振った。とはいえ、大手の割には中身がブラックだった会社の面接を思い出し、クリスは気を引き締めた。キリッとした顔で手は太ももの上だ。
「あらあら、まだ緊張が解けないのね。パーティー仲間に金級がいるのでしょう? 面接について教えてくれなかった?」
「聞いたんですけど、彼、大雑把なんですよね」
大丈夫だろ、と適当に答えるエイフを思い出して肩を竦める。それを見た女性職員が笑う。
「ふふ。仲が良いのね。仲間の性格もきちんと把握しているようだわ」
「全部を分かってるとは言えませんけどね」
「それはそうよ。他人同士だもの。たとえ夫婦でも分かり合えるとは言い切れないわ。あなたの年齢でそれが理解できているというのは素晴らしいことよ」
言いながら、書類に何か書き込んでいる。クリスはハッとした。これも面接の一環なのだ。もう始まっている。慌ててキリリと表情を整えたのだが、女性職員はまたもクスクス笑った。
「真面目なのね。では、クリスニーナさん。あなたには最初から面接の意図を説明しておきましょう。これは、パーティーメンバーに頼りすぎていないかどうかの確認よ。受付からの報告で『念のため確認を』と書いてあったの。あ、彼女を恨まないでね? これは
「はい、それは分かります」
成人していない子供をメンバーに入れる金級冒険者たちに、警戒するギルドの気持ちはよく分かる。むしろ有り難い話なのだ。子供を守るために彼等は調べている。
逆に、おんぶに抱っこの状態で階級を上げようとしているのなら、本人のためにもならない。いずれしっぺ返しが来る。たとえば緊急依頼だ。身の丈に合わない階級のせいで強制依頼を受け、その結果命を落とす可能性もある。
「確かにわたしは、エイフがいることで多くの利を得ました。さっきもそうです。大人の男性がいるだけで、他の冒険者に絡まれませんから」
「ふふ、そうね」
「守ってもらうことも多いです。特に都市のような場所ではチンピラも多いですから、わたしみたいな小さな女の子は狙われやすいもの。たとえ撃退できる術があるとしても、毎回絡まれると大変ですから」
「撃退できるのね?」
「はい。これを見てください」
「……あら!」
予めソファの横に置いていた紙挟み《ポートフォリオ》を取って広げる。アサルでも売ろうと、溜め込んでいた紋様紙の一部だ。見本のつもりなので多くは入っていない。
「わたしには紋様紙を描くためのスキルはありません。けれど、魔法使いの師匠に叩き込まれたので一定の紋様紙なら描ける技術があります」
「まあ、これを全部あなたが?」
「はい。実際にこの場で描いて見せることもできます」
と、ポーチから売り物の紋様紙を描くための万年筆といった道具類を取り出す。さすがにプルピ印の貴重な万年筆は見せられない。彼女が目利きかどうかは不明だが、とんでもない代物なので、バレたら権力者に取り上げられる可能性だってある。
「いいえ、大丈夫よ」
「いいんですか?」
「ええ。だって、あなたは『嘘をついていない』もの」
クリスが目を丸くすると、彼女は得意そうに笑った。
「看破スキル持ちよ。ふふ。こんなに早くネタばらししちゃうとは思わなかったわ」
「だから面接官を……」
「ええ。ギルド職員にあれば便利でしょう? 重宝しているわ」
それから少し身を乗り出した。
「クリスさん、あなたは紋様紙を使って依頼をこなしているのね?」
「それは正確じゃないです。紋様紙も使っている、かな。わたし、ドワーフの血を引いているみたいで力持ちなんですよ」
「まあ、そうなのね」
「それとスキルを使って依頼をこなしてます」
「スキルについて、聞いてもいいかしら?」
「はい。家つくりスキルです。えっと、珍しいと思うのだけど、ちゃんと発動もできます」
「……そう。初めて聞いたけれど、間違いないようね。大工スキルに近いのかしら」
「そうだと思います。もう少し汎用性は高い気がしますけど。これまで、わたしの乗る家馬車を作ったり、他にも多くの家を作ってきました」
本来なら職人ギルドから受けるような仕事内容だ。けれど、特殊な内容だったり個人で受けたりしたので冒険者ギルドの指名依頼となったことも説明する。
更に、つい先日の盗賊退治についても詳細を話して聞かせた。
ニコラと名乗った女性職員は、最後には大笑いだった。
「『鳥もち』のような、そんな紋様紙があるのねぇ。それに彼等を縛ったのが本当にクリスさんだったなんて! 証言にあったのだけれど、少女があんなにしっかり結べるかしらと疑っていたのよ。衛兵なんて『若い者に教えてもらいたい』だなんて言ってたのよ。あはは」
「縄の使い方は師匠に教わったんです。女の子なんだから覚えておきなさいって」
「お、女の子だから? いやだ、あはは、面白いお師匠様ねぇ」
ニコラは笑い上戸らしかった。一度笑い出すと止まらなくなり、クリスがどうしようと困っていたら別の職員が入ってきて面接が終わりとなった。
面接の結果、全く問題なしとのことで無事に半金級に上がれた。
一階に併設されたカフェスペースで待っていたエイフとカロリンが、下りてきたクリスを見て「おめでとう」と言ってくれる。何も言わなくてもクリスの表情だけで結果が分かったようだ。
後から追ってきたニコラがそれを見て「良いパーティーメンバーのようね」と褒めてくれる。だからクリスも振り返って「はい!」と元気よく答えた。
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