248 古代アッカス都市遺跡
筆記具や専用の巻き尺といった、マッピングに必要なあれこれと食糧を買う。
マッピングは一朝一夕に行かないだろうから何日かに分けるつもりだ。余分に仕入れた。
冒険者向けの店は通り沿いにあって無駄がない。買い忘れもないだろう。
クリスたちは旧市街を通り抜けて「古代アッカス都市遺跡」の上層部を目指した。観光場所でもあるため、そこかしこに人がいる。階段には手すりが付けられており、隙間を塞ぐようにロープも張られていた。
クリスは周辺を眺めながらギルドで渡された資料を振った。
「旧市街の地下にある遺跡は領主が管理してるんだね。すごいなー、専門部署があるんだ」
「警邏も兼ねているんじゃないか。旧市街には貴族や金持ちが住んでいるだろう。地下から盗みに入られないよう警戒しないとな」
「スパイの侵入防止もだよね?」
「それもあるだろうな。帝国の間者はどこにだっている。抜け道に使われないよう旧市街の地下部分は押さえておくだろう」
「それに地下を崩されたら都市の機能を失うもんね」
「クリスは怖い話をするな」
「誰だって考えるよ。だからこそ、地下遺跡の地図を作製して土台補強の工事なんかに使うんじゃない?」
「だよなぁ。新たに発見された南部の遺跡調査より、アッカス遺跡のマッピングの方が依頼料は高かったしな」
「急務だよ」
もちろん新たな遺跡も調査しないといけない。魔物が住み着く可能性があるからだ。近くには迷宮もあって、繋がれば大きな迷宮に発展することも考えられる。どれもが最優先ではあるが、都市の地盤をしっかり固めるためにも旧市街の近くにあるアッカス遺跡の詳細な地図は必要だ。
というのも、アッカス遺跡の下にまだ空間があると最近になって判明した。旧市街の真下方向には広がっていないようだが、全容を知る必要があった。
北部の山と違ってアサル周辺は地盤がしっかりしているけれど――だからこそ何度も戦禍にあってなお都市が造られるのだが――だからといって地下に空間があれば弱くなる。遺跡調査チームとは別に地図作製を求めるのは、より正確さを必要とするからだった。
整備された階段を下りると看板が立っている。有名な観光スポットへの行き方が描いてあった。アッカス遺跡は後代に作られた壁で守られている。そのため、最初の観光スポットまでは遺跡らしさを感じない。石造りの壁も床も綺麗だ。都会の地下街を思わせる。といっても天井部分が至る所で開いており、光が差し込んで明るい。
少し歩くと開けた場所に出た。すり鉢状になった広間だ。ほぼ円形で、見える範囲の最下層に大木が植わっていた。地面には花も植わっている。その周囲を石畳が囲み、散策コースになっていた。
最下層へは、らせん状の通路をゆっくり下っていくか、ところどころに設けられた階段を突っ切って行くようだ。クリスたちは階段を選んだ。さすがに「ゆっくり」観光を楽しむ気はない。
「綺麗。あの木、下から見たら結構大きいだろうね」
「そうかもしれんが、シエーロの大樹を見たからなぁ」
「あれと比べたら可哀想だよ」
ポツポツと観光客がいて、案内人の説明を聞いている。冬は観光客が少ないらしい。そんな声が聞こえてくる。
彼等を横目に通り過ぎ、最下層近くにある奥への通路を進んだ。そこにも看板があって、次の観光スポットへの案内が詳細に書かれている。ここから通路が枝分かれし、古代アッカス都市の大図書館やギルド跡地、また公園跡地へと行けるらしい。
クリスたちはギルド跡地の方へ進んだ。途中でまた通路が分かれた。片方は数メートルで行き止まりだ。「関係者用」と書かれた扉が見える。この先がクリスの今日の仕事場だ。鍵はギルドで預かった。中に入ると内側から鍵を掛け直す。
「さて、ここからだな。この地図だと、現場まで急いでも一時間はかかるぞ」
「転移できたら便利なのにね~」
迷宮なら転移ポイントがあるそうなのに。そう思って口にしたのだが、エイフが慌ててクリスの口を押さえた。
「おい、余計なことを言うとアイツが来るぞ」
「あっ。今のナシ、ナシだから」
「俺たちはまだないが、プルピが何度かやられたとぼやいていたじゃないか」
「そうだった!」
プルピが言うにはシエーロで一度、ナファルでも挨拶回りの途中で、ククリに「いきなり転移」させられたことがあるらしい。幸いにも近い場所だったから事なきを得たが、いつどこに飛ばされるか分からないというのは恐怖だ。ククリにとっては意味のある行動らしいが、飛ばされる側にしたらたまったものではない。
「遺跡の中に飛ばされたら危険すぎるよね」
「まあ、一緒に転移するなら元に戻してもらえるだろうが」
「そこがちゃんとした場所ならいいけどね~」
「おい、だから怖い話はやめろって」
「……エイフ、もしかしてホラー苦手?」
「そういう問題じゃない」
ぷいっと横を向くエイフを見て、クリスはにんまりした。どうやらエイフはホラーが苦手らしい。あまり言うと拗ねそうな気がする。ここは引いておき、ここぞという時に脅かそう。そんなことを考えながら、クリスはニマニマ笑って先に進んだ。
警戒しながら歩いたというのに、現地には意外と早く着いた。クリスが健脚というのもあるし、エイフの索敵能力が高いからでもある。
「壁や天井を後から継ぎ足した割には、安定しているようだな」
「あそこの柱もしっかりしているね」
「分かるのか?」
「うん。家つくりスキルのおかげかな、なんとなく分かる」
触れてみるとおおよその年代も分かった。五十年ほど前に作られたものだ。かなり頑丈にしてある。
「最初の観光スポットにあった大木なんだけど、元々は小さかったんだろうね。大きくなってきたから土を入れたんじゃないかな。そして柱で支えた」
「ん? だが、ここは真下じゃないだろう?」
「真下じゃなくても柱は必要だよ。地下にこんな空間があるんだもん。それも、あちこちに。あの大木の地下が崩れたら、この辺りにだって影響あるよ。連動して崩れちゃう」
「そうか」
「他にも、風雨にさらされないよう塞いだんだろうね。その天井を支えるための柱や壁を、なるべく景観を損ねないように後から追加した。すごい仕事だなあ」
手を抜いた様子が一切なく、素直に感動する。天井のところどころに空気孔が設けられ、明かり取りの窓もあって圧迫感がない。これら全部が後から補強されたものだ。
クリスが今いる場所は、位置的には地下二階か三階ほどになる。わざわざ天井を作ったのは上階の木々や広間を支える柱を作るためだ。崩落しないよう天井や壁で補強した。他にも魔道具をなるべく使わないようにしたのだろう、空気孔や採光についても考えられている。クリスは実地で勉強させてもらっている気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます