198 完成したのは
この家テントは、軽魔鋼を細くしたワイヤータイプの枠に沿って布を張る形だ。前世で売られていたテントのような「ワンタッチで組み立て」とまではいかないが、それに近いものは作れる自信があった。なにしろ作っている最中にも次々とアイディアが湧いてくる。クリスの頭の中は「あれもこれも作りたい」でいっぱいだ。
おかげでテントの設置は簡単にできそうだと、作る前からでも分かる。
内部には付属品として、軽魔鋼パイプを使ったハンモックも置けるようにした。パイプにはところどころに小さな穴を開けてある。こうした細工はお手の物だ。このパイプをXの形に組んで二箇所に設置し、フックにハンモックの端を引っかける。床には固定用の器具が取り付けられるようにした。
ハンモックがあれば、入り口を開け放して外の様子を眺めながら休憩もできるし、誰かを招いて寝てもらうことも可能だ。
エアーマットのベッドも冒険者向けに作ったからそれなりの大きさになる。男性二人となると厳しいかもしれないが、女性が二人で寝るには十分だった。女性向けのテントとしても使えるのではないか。クリスは脳内で「ぐふふ」と笑った。売れるかもしれないと考えたからだ。
最後に、これらをコンパクトに仕舞っておける容れ物を作る。
なるべく無駄を作りたくないため箱形の薄い布製だ。雨や埃避けといった程度で「箱」として形作るのに必要な枠は、テントで使ったパイプを使い回す。
ハンモック用のパイプには底にキャスターを取り付けられるようになっており、小さな荷車にもなる。細長いキャリーケースのようなものだ。立てて使う場合は、紐を装着することで背負えるようにもした。パイプに穴や引き出し式のフックを付けているのはこのためだ。
ただ、女性が背負うには少し縦長すぎるかもしれない。しかし、冒険者ならばこれぐらいは持てる。クリスのイメージでは夏の登山で、歩荷をやるほどの大荷物にはならないが、そこそこの山に登る人なら背負うであろう大きさだ。
さすがにクリスのような子供が背負うと荷物に負けてしまいそうだが、もちろん持てないわけではない。むしろクリスなら人を乗せても運べる。
全てをたたんでテントの布で包んでいく。最後に薄布のカバーを被せてキャリーケースに詰め、紐で縛ると完成だ。アンカーペグなどの細々とした部品もキャリーの下にまとめて収納した。
「よし、完成した!」
スキルが切れてもクリスは元気なままだ。作った「家」が大物ではなかったし、経験を生かせたのも魔力温存に繋がった。
実際、以前プルピのお友達が大挙してやってきた時、彼等にプルピと同じ家を作ったことがある。その時は二度目だったからクリスが思う以上に素早く作れたし疲れもしなかった。しかも回を重ねるごとに時間短縮で作れた。
今回も亀の上に作った家や荷籠風の家作りが経験値となり、反映されたのだろう。
クリスが作り終えたと真っ先に気付いたのはエイフだった。急いで駆け寄ってくれたのか、どすんと衝撃を感じるような勢いで抱き締めてくる。クリスが「痛いよ」と振り返れば、ホッとした顔のエイフが見えた。
「今日は倒れないのか」
「これぐらいならね。物づくりの加護だけでも作れそうだったけど、やっぱり家つくりスキルを発動して良かったと思う」
「そうなのか?」
「普段なら思いつきもしないような閃きがあるの。あのね……」
小声になったのは、ジェラルドたちが近付いてきたからだ。
「前世ではすごく便利な機能付きのテントがあったんだけど、わたし、使った経験もなければ見たのだってチラッとなのに構造がなんとなく思い浮かんだんだ」
エイフが目を見開いた。
「だからって、全部がその通りに作れるわけじゃないよ。今回のも本当はワンタッチで開く形にしたかったのにできなかったもん」
これは構造上の問題というより、使う素材の問題だと思っている。軽魔鋼ではダメなのだ。
けれど、現状の精一杯で作り上げられた「家テント」は、十分に希望を叶えられたと胸を張って言える。
話し終えた時に、ジェラルドが到着した。彼の後ろには宿の主人や冒険者たちもいる。
「もうできたのか?」
「早いなぁ。さっきも思ったが、お嬢ちゃんのスキルは一体どうなってるんだ」
「待て待て。それより、どう使うんだ。こんなに小さくなって、テントに戻せるのか?」
口々に話し掛けてくるのを、エイフが手を振って止める。
「落ち着け。まずはジェラルドに使い方を教えるのが先だろうが」
「そ、そうだな。ていうか、あんた本当に護衛やってるんだな。さっきのスゲー素早かった」
「金級って言ってたが白金級に近い方なんだろ。やべぇな」
何やら話しているが、クリスはその他大勢はどうでもいい。庇うように立ったエイフの背後から出て、ジェラルドに家テントの説明を始めた。
まずは押さえの紐を外し、テントを広げる。キャリーケースの枠組みとなっていたパイプやワイヤーなども外す。
「ほー、なるほど、互い違いに組み込んでいただけなのか」
「そうだよ。最後に紐で押さえてるから、これでもいいの。ネジ式だと頑丈だけど、組立解体に時間がかかるからね」
「ふんふん。で、ばさばさっと広げたら勝手に膨らむって寸法か。便利だな」
「床面に敷くのはコレね。それからベッド。テントを広げて維持するための枠は、こうやって伸ばせばいいから」
「おおお、中から細いパイプが出てくるのか! で、中心部分でくっつくんだな。あとは分かるぞ。内側から天井を押し上げれば丸く膨らむんだろう? この棒か?」
「そうだよ。あと、上に換気口があるんだけど、テント上部に貼り付けてあるのをベリッと剥がせば――」
「天井からぶら下がった! これを引いて開け閉めするのか!」
ジェラルドが嬉しそうにテント内ではしゃぐ。フックを見て、すぐにランプを引っかけるものだと気付くし、網戸にも感動している。
だが、軽魔鋼と気球用布で作った折りたたみの椅子やテーブル、ハンモックで驚いてもらっては困る。
クリスはにんまり笑ってベッドを指差した。ちょうど空気を含んで膨らんだところだ。
「寝てみて」
「お、おう……」
皆が出入り口から覗く中、ジェラルドは靴を脱いで横になった。
すぐに目がまん丸に開かれた。
「なんだ、これ」
「どうしたんだ?」
「おい、ジェラルド、どんな感じなのか早く言えよ!」
急かされたジェラルドは「あ、ああ」と答えたものの、まだ驚いた様子だった。そしてクリスを見た。
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本日はコミカライズ版13話の後編が公開予定です
ComicWalker様→https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM19201890010000_68/
ニコニコ静画様→https://seiga.nicovideo.jp/comic/49971?display=all
お昼頃かなと思います、よろしくお願いします!
今回もエイフの睨むシーンやクリスのぼやきなど、好きなシーンてんこもりです
ぜひ、ご覧になってみてください~!
それと、来週から更新を週二回にする予定です
(忘れなければ!)
ようやく一回目の見直し終わりました
修正した箇所もあるので、いつものように再投稿
第一部は全く手を入れてないのが今も気になるけれど、今回は第四部のみの直しだけ…ぼちぼち作業していきます!
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