183 仕事の依頼の依頼?
必殺技に顔を赤くした二人だったけれど、カロリンの説得には応じなかった。
というのも、出稼ぎで国を出た親族や友人の連絡が途絶えたことを心配し、捜しに来たからだ。
ナファルを目指すのは、そこで見たという情報が入ったためだ。近隣の集落に住む人づてで伝わった内容を全部信じているわけではない。けれども藁にもすがる思いで、二人はリヴァディ国を出た。更にギュアラ国を経由してフォティア帝国に入ろうとしている。
ギュアラ国経由なのは一番安全なルートだからだ。リヴァディとフォティアは隣り合っている国同士だけれど気軽に通り抜けはできないらしい。平坦地では紛争ばかりで危険すぎるし、それ以外は険しい山が続く。獣人族の身体能力が高いとはいえ、女性二人だけでの山越えは難しい。
「これでもちゃんと慎重に旅をしてきたんだぁ」
「そうだよ~」
「でも、ねぇ? オグルを狩ろうとして街道を逸れ、人気のない場所へ入り込むような子たちよ。心配だわ」
大人びた物言いのカロリンに、バリバラが目を丸くしてから笑った。
「いんや、わたすはあんたさんより年上だでぇ」
「あたしも二十四歳だよ~。あんたよりずーっと大人なんだからさ~」
「あら、そうなのね! いやだわ、わたしったら。おほほ!」
カロリンは急にお嬢様笑いで誤魔化した。実際に彼女は元お嬢様だ。
クリスはカロリンの過去についても聞いている。ただ、彼女の話は今世の家族への愚痴が多かった。前世の話はぼんやりとしか聞いていない。言葉の端々から、クリスの前世である「栗栖仁依菜」より年上だったろうと思っているが。
ここで、ずっと黙っていたカッシーが間に入った。
「ならさ、こういうのはどうだろう」
彼の提案は全員の目から鱗が落ちる内容だった。
バリバラたちに護衛の依頼を出してもらい、それをクリスが受けるというものだ。依頼料はギルドが決めた最低レートにする。
ちょっとズルい気もするが、この提案に一も二もなく乗ったのは当の二人だった。
ぜひお願いしますと頼まれ、同行が決まった。
街道に戻り、最初の小さな町に着いたクリスたちは、早速冒険者ギルドで手続きを行った。指名依頼に問題はない。ところが、受付の人からは注意を受けた。
「金級が三人もいるパーティーなのに、それを飛ばして銀級に指名依頼だなんて普通じゃないわ。そうやって『レベル上げ』しても実力は付かないのよ。その子のためにもなりませんからね?」
「まあ、そう言うな。それにパーティーの実質的なリーダーはクリスなんだ」
「えぇ?」
怪訝そうな受付の女性に対し、エイフは真面目な顔で頷いた。その後ろからカロリンとカッシーが顔を出してクリスを指差す。
「わたしたちもクリスに頼み込んで同行させてもらってるのよ? 彼女の家馬車は快適なの」
「そうそう。防御に優れた家馬車のオーナーはクリスだからね。歩きの女性二人が護衛として指名依頼を出すなら、当然クリスになるよ」
「……そう、なんですか?」
訝しげな女性に向かってクリスは笑顔で頷いた。
「わたしのスキルで作ったの。とても頑丈な家馬車で乗り心地も良いと自負してます。それに紋様紙があります。自分で描いて自分で使えるから安上がりだし、そこそこの魔物なら退治もできますよ。護衛の仕事は十分に果たせると思うのだけど」
受付女性は溜息を吐いて、それから笑った。元より依頼の破棄ができるほど「おかしい」内容でもない。彼女の注意は、あくまでも「心配」してのこと。つまりは優しさから来ている。
「では、クリスさんがメインで護衛をするのね。けれど、無理は禁物よ。仲間に頼るのは悪いことじゃない。何もかも任せてしまうのがいけないだけよ。まあ、今の話を聞いた限りじゃ、あなたは大丈夫ね。信じるわ」
「ありがとうございます!」
最後に「頑張ってね」と声を掛けられ、クリスは依頼を受けた。
クリスとしては級数を上げようとも、上げられるとも思っていなかった。ただ皆が「もうすぐ上がるって!」「十件だったら楽勝ね」「なかなかじゃないか」と応援してくれた。それにイサも「格好良い」と文字ボードで褒めてくれたし、ククリも「くりちゅ、おー」と可愛い声援だ。プルピは「良いのではないか」とクールな様子だったけれど、彼はツンデレなので反対しているわけではない。――ハパは等級がどうのという話題には興味がなかったため「ふうむ」で終わったが。
ともあれ、ナファルまで一週間ほどの距離で降って湧いた護衛仕事だが、これも自由な旅の醍醐味である。楽しんで行こうと、皆でまた家馬車に乗り込んだ。
護衛対象の二人には、移動の間も寝る時も、家馬車の居間で休んでもらおうと考えていた。ところが二人は外にいる方がいいと昼間は屋根にいることを望んだ。寝る時だけ居間を使う。
それまではカロリンとカッシーが居間で寝ていたので、場所が移動になる。カロリンは二階のクリスの寝室で並んで寝る。同じ布団というわけでもないし、仲良くなった今ならクリスも気にならない。
可哀想なのはカッシーだ。彼は家馬車の横にテントを張って寝ることになった。
エイフは相変わらず御者台で寝袋を使っている。寝やすいようにと改造したが、それでも狭いだろうに「問題ない」と本気で言う。金級の冒険者はこれぐらいでないといけないのかもしれない。クリスには無理だ。
ちなみに夜中の見張りは要らない。なにしろ気配察知に長けたペルがいるし、竜馬のプロケッラだっているのだ。しかも精霊が三人……ククリを数に入れてはいけないので、実質二人。これだけいて人間の見張りが必要なわけがない。
クリスのパーティーは徒歩の女性二人を護衛するには最高の編成であった。
そんなこんなで安全安心の護衛仕事は順調に進んだ。
合間にはプルピの家の設計図も描いた。隠れて作業などできるはずもなく、結局はバレてしまったから二人でああでもないこうでもないと話し合った。
ちなみにバリバラとグレンダは精霊が全く視えないらしかった。なんとなく感じる気配は、妖精であるイサのものだと思っているようだ。
クリスがぶつぶつ喋るのも独り言だと勘違いしているし、作っている小さな家具も「家つくり」スキルを鈍らせないための手慰みだろうと勝手に納得していた。
特に否定もせず、クリスは寝る前の一時を物づくりに費やした。
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