146 魔法系スキルと竜人族




 イザドラはハッキリした言葉で説明しなかったけれど、クリスが受けた扱いと同じものを実際に見たか聞いたのだろう。

 努力で得た技術を、スキルがないからといって拾い上げてもらえないのは悲しい。

 イザドラ自身も、魔法士スキルでしか仕事が取れないのだと言った。


「あたしは攻撃魔法はほとんど覚えてないし鍛えてもないから、戦えないの。それなのに何度も勧誘を受けててね」

「イザドラ……」

「魔物を倒すのに必要だから、だって。それなら専門家の多い冒険者ギルドに仕事を回せばいいじゃない。なのに、魔法が使える冒険者は少ないからダメだって!」


 魔法系スキルとは魔力を利用した不可思議な現象のことを指す。スキル自体が魔力に関連しているため、厳密に言うと全て魔法と言っていいのだが、何故かそういう分け方をされるのだそうだ。

 たとえばイザドラが持つ薬師と採取スキルは、不可思議な現象ではない。どちらも、手で薬草を採取し調合するという「やろうと思えば誰でもできる作業」だ。

 しかし、何もないところに水や火を出すのは、誰もができることではない。

 その考えでいけば、紋様士や写生スキルは魔法系にはならないはずだ。しかし、これらのスキルを使えば「魔法と同等」の紋様紙が生み出せる。これが魔法系に入れられてしまう理由だった。

 実は、薬師も極めれば魔法と言って差し支えない。怪我が早く治るポーションを作り出せるからだ。ただ、区分けとして魔法系スキルに入っていない。

 曖昧な区分けには笑うしかないが、魔法ギルドはそうやって厳格なルールを作っているのだろう。

 

「だからね、あたし嬉しかったの。素敵な家が建ったって感謝してるあたしの意見だけじゃ、偏ってるかもしれない。だけど全然関係ない人にまで褒められたでしょ? それがすごく嬉しいの!」

「イザドラ……。ありがとう」


 クリスが感動していると、カッシーが「女の子同士の友愛っていい」と呟く声が耳に入った。彼はどうも変わった人のようだ。クリスはスススッと離れた。

 見ていたカロリンが笑う。


「わたしたちもクリスの腕に驚いているわよ。来て良かったわ。そう言えば同業者のオジサマもビックリしていたわね」

「クラフトさんも驚いていたよね~」

「『あの子は一体何者なんだ?』って僕も聞かれた。『さあ?』って答えておいたけど」


 カッシーが言外に「情報は渡してないよ」と教えてくれる。

 そこで、クリスはイザドラの仕事がどうなったのかが気になった。クラフトというのは依頼者のことだろう。ちゃんと話ができたのかイザドラに確認する。

 その前に、立ったままの皆に提案した。特に、イザドラに向けて。


「ここでお茶をしても構わない? お招きしてもらえると嬉しいんだけど」


 イザドラは「もちろん!」と最高の笑顔で答えた。




 家が完成する少し前に、イザドラが頼まれていた薬は出来上がっていたそうだ。だからといって、依頼人に「はいどうぞ」とは渡せない。先に魔法ギルドで確認してもらう必要があるそうだ。確認後に納品となる。

 依頼人もそれは分かっていた。彼が来たのは別件だった。


「彼、クラフトさんっていうんだけどね。別の魔法薬も欲しいんだって。竜人族用の痛み止めだから、特殊らしいよ」

「作れないの?」

「素材がないんだ。それに作ったことがないから一回で成功するか、自信がないの」

「そっか……。あ、でもさ、ヴィヴリオテカなら治癒士がいるんじゃないかな」

「頼んだけど断られたみたい。あと、高価すぎるってぼやいてた」


 クリスは頷きながら思い出していた。魔女様の家で読んだ本に、種族別の薬についても載っていた。そこに「竜人族は皮膚が頑丈な割には体内が繊細で、飲み薬系はとても気を遣う」と書いてあった。食べてはいけない禁忌食もあるらしく「大変だろうな」と思った記憶がある。

 それは竜人族に限らず、各種族で違うのは当たり前だ。人族の皮膚は薄いし、ドワーフ族は骨太で力がある。鬼人族の身体能力は高いし、エルフ族は遠目が利く。獣人族に至っては各部族で体の大きさや特徴がまるで違った。

 そこまで考え、クリスは首を傾げた。


「その人、竜人族なの?」

「そうだよ。あれ、見てなかったの?」

「うん。疲れ切ってて倒れてたもん」

「もしかして初めて見る?」


 イザドラがワクワク顔だ。クリスが頷くと、彼女は輝く笑顔でこう言った。


「すっごく格好良いから今度一緒に会おうよ!」

「う、うん」

「あたし、最初に見た時叫んじゃったもん! 素敵ーって」

「確かにイケオジだったわね」

「でしょっ?」

「なかなか素敵な体をしていたわね」


 カロリンが「ふふっ」と妖しく笑う。そこで、黙って聞いていたカッシーがカロリンの頭にチョップを入れた。


「痛いわ。何よ、カッシー。妬いてるの?」

「そんなわけないの分かってるよね? あのねぇ、言い方に気を付けろって言ってるだろ。クリスちゃんはまだ――」

「わたし、もう十三歳ですから」

「……でも、まだ子供」

「十三歳ですから」


 ジトッと見つめると、カッシーはようやく黙った。カロリンは「おほほ」と変な笑い方だ。

 イザドラはクリスの頭を撫でてきた。


「分かる、分かるよ~」

「イザドラも子供扱いしないでね?」

「あは! 分かった。じゃ、今度一緒に行こうね~」


 と、何故か一緒に納品する話になったのだった。



 ちなみに、カロリンとカッシーは今日も宿が取れなかったらしい。ギルドでも仕事がなく、クラフトと偶然話をしてイザドラのところまで来た。もちろん、下心ありで。


「地主さんにはもう頼んだわ。あなたさえ許せば、テントで寝ようがニウスの上だろうと構わないって。一日二日なら料金も要らないって言ってもらったのだけど、構わないかしら?」

「もっちろん! なんだったら、ここで寝てもいいよ。床になるけど寝袋あるよね?」

「それは素敵だわ」

「えっ、じゃあ僕はどうするんだよ」

「あなたは男じゃないの。テントで寝なさいな。あ、クリスのところに行こうだなんて考えないことね。わたしだけじゃなく、イザドラさんだって許さないわよ」

「行かないよ! クリスもドン引きするの止めて!」

「いや、引いてないけど……」


 ただカッシーの扱いが可哀想だなと見ていただけだ。

 ちょっぴり可哀想で、クリスは余った資材で簡易の小屋を作ってあげようか提案した。

 当然、地面に設置してはいけないのだから、荷車の上に置くものだ。

 地面に直張りとなるテントよりは気持ちマシになるのではないだろうか。


 そう言うと、カッシーはクリスが「ドン引き」になるぐらい感動して感謝してくれた。

 やっぱり彼は少々変わった人のようだった。

 ついでにカロリンも。







********************


「家つくりスキルで異世界を生き延びろ」3巻ですが、諸般の事情により発売が延期となりました

すでに予約を入れてくださっていた方には大変お手数おかけします

また、お待ちいただいていた方々にも申し訳ありません

すでに原稿は書き上がっていますので、もうしばらくお待ちいただけますと幸いです


ですが、コミカライズ版1巻に関しては予定通り発売となります!

4月26日です

https://kakuyomu.jp/users/m_kotoriya/news/16816452219270795951

詳細は近況ノートにて、よろしくお願いします





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