135 合同で依頼を受ける




 結局、護衛の依頼はクリスも受けることになった。

 彼等を運ぶ馬車担当ではあるが、一員には違いない。というわけで冒険者ギルドに追加人員として依頼を受ける旨、伝えた。

 合同で依頼を受ける場合は一時的にパーティーを組む手続きを取る。もしくは、大勢が参加する依頼の場合は参加型として登録される。

 前者は先に配分を取り決める必要があり、後者はランクによって予め配分が決められていた。もちろん例外もある。たとえば依頼を遂行できない事態に陥った時にたまたま助けが入った場合などは、ギルドが仲立ちして話し合う。

 今回は一時的にパーティーを組むため、配分も先に決まった。


 当初、クリスは護衛はできないため一割+必要経費がいいところだと思っていた。戦えない冒険者など足手まといだ。

 ところが、ギルドやカロリンたちが何か言う前に、依頼者であるイザドラが話し合いに口を挟んだ。


「最初の依頼は護衛だけだったけど、あたしが我が儘で野営を言い出したんだし、立派な馬車を出してもらうんだもん。やっぱり三分割にしてほしいな。あっ、依頼料は割り増しにするよ。大丈夫、頼まれたものは言い値で買ってもらう予定なんだ~」

「予定って。資金は大丈夫なの?」


 思わず心配になったクリスがイザドラを問い質すと、彼女は笑って手を振った。


「大丈夫だって! クリスにだって家の材料代ちゃんと払ったでしょ~」

「そうじゃなくて」

「ギルドにも預け金入れてるから。あ、支払いは魔法ギルドからでお願いしまーす」


 とは、冒険者ギルドの職員へだ。受付の女性は「はい」と答えて、渡されたカードを見ながら手続きを行っている。書き終わると今度は、精霊樹の枝に付いている実水晶へギルドカードを翳していた。


「問題ありません。では、差額分をこちらに振り替えておきますね」

「はーい」


 暢気な返事のイザドラに、クリスは心配になった。


「頼まれてる仕事って、ちゃんと支払ってもらえるんだよね? イザドラの場合は出来高払いみたいだから心配だよ」

「何言ってるの。こっちは薬を作ればいいだけ。間に魔法ギルドも入ってるし、全然問題ないよ。むしろ冒険者の方がよっぽど心配じゃない。依頼を達成しないとペナルティもあるでしょ」

「まあ、そうなんだけど」

「クリスって小さいのに、そういうところしっかりしてるっていうか、子供らしくないな~」


 イザドラの言葉に、受付の女性だけでなく後ろで話を聞いていたカロリンとカッシーまで笑い出した。


「確かに、しっかりしてて子供らしくないね」

「逆に安心だわ。だから三分割というのも納得よ?」

「でも……」

「ふふ、わたしたちは異議なしよ。カッシー、いいわよね?」

「いいよ。移動に馬車があると助かるからね。早く着くし、依頼者も安全だ。御者もやってもらうと考えたら、むしろ申し訳ないぐらいだよ」


 というわけで、依頼が処理された。

 出発は翌日早朝だ。それまでに各自が必要なものを用意しておく。

 クリスの場合は家馬車の準備だ。ニウスを繋ぐためにくびきを改造する必要があった。プロケッラがいた頃に使っていた二頭立て用では合わないからだ。なにしろニウスは亀である。体高も違う。

 ペルを並べて走らせるのも難しいから、彼女は併走してもらうことにした。つまりニウスだけに引かせるのだ。

 その確認もあるため、クリスだけ先に空き地へ戻った。



 空き地の周囲には家々が立ち並んでいる。近くには集合住宅もあるため多くの子供たちが遊び回っていた。そのうちの数人が興味津々でクリスの作業を遠巻きに見ている。クリスが重い丸太を運ぶたびに拍手だ。ニウスはそんな子供たちを柵の内側から眺め、時々ペロリと舐めて相手をしてあげていた。

 柵はクリスが設置した。家馬車やペルを置いて離れることもあるだろうから、盗難対策としてだ。下地区では警邏の巡回も少ないため警戒するに越したことはない。

 柵だけで盗難から防げるわけではないが、意外と防犯対策になる。近所の目が「ただの空き地」から「高価な馬車を置く土地」に変わるからだ。普段から空き地のままだと子供も入り放題、大人だって勝手に行き来に使う。柵というのは思った以上に「壁」になるのだ。

 おかげでペルも自由にさせられる。彼女は柵の内側をのんびり歩いて運動不足を自ら解消していた。


「ペルちゃん、明日は久しぶりに一頭で走っていいからね」

「ヒヒーン」

「もしかしたら、わたし以外が乗るかもしれないんだけど、大丈夫?」

「ヒンッ」


 仕方ないわね、という感じだろうか。ペルは気に入らなさそうに返事をした。怒っている様子はないから、一応乗せてもいいらしい。

 鞍を取り出して調整しておこうとクリスは考えた。


「さて。問題ないかな。ニウスー。こっちに来て、装着してくれる?」

「キュ」

「ブルルル」

「ペルちゃん、どうしたの甘えてるの? 拗ねてるのかな。あはは」


 鼻を押し付けてくるペルに、クリスは笑った。


「明日は家馬車に大勢が乗るの。だからだよ。ペルちゃんの居場所を取るんじゃないんだからね?」

「ブルルル」

「あとでいっぱいブラッシングするから」


 クリスの言葉に、賢いペルは満足げに頷いた。



 何度か調整し、ニウスでも家馬車が引けると分かった頃にイザドラが戻ってきた。山盛りの荷物を抱えている。クリスは急いで駆け寄り、受け取った。


「わぁ、いろいろ買い込んだね」

「だって『長引くかもしれないから余分に用意を』って言われたもん~。それに、馬車があるなら少しぐらい普通の食材を持ち込んでもいいかなって思って。ダメ?」

「別にいいよ。そのつもりで引き受けたからね」

「やった! クリスありがとう!!」


 テントの前に広げた敷物の上に、二人して荷物を置く。更に後ほど、飼い葉が届けられるそうだ。


「今日中に配達してねって頼んでおいたから。人参やリンゴもあるよ。ペルの好物なんだよね?」

「ありがとう、イザドラ。手持ちの分が心許なかったから現地調達しようと思ってたところなんだ」

「こっちこそ、本当に助かるよ。最初は乗合馬車を使って近くの村まで行くつもりだったから、ニウスをどうしようかって思ってて。馬車には持ち込めないし、併走させたら馬が怯えるんだよねぇ」

「怯えるの? うちのペルちゃん平気だけど」

「ペルは度胸あるよね!」


 馬は本来臆病な生き物なので、ちょっと大きな亀が速歩で併走していると怖いのかもしれない。クリスは、魔物相手にも立ち向かう強い女ペルを見て、ちょっぴり笑った。


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