103 四人パーティーようやく到着
ニホン組のパーティーはその日の夕方、シエーロに入った。
異動届提出のために冒険者ギルドへ寄るだろうと思えば、なかなか来ない。クリスはやきもきしてしまった。彼等は先に、宿を取りに行ったようだった。クリスたちもそうだったのだから有り得るのに、頭からすっぽり抜け落ちていたようだ。
彼等がギルドに来たのは、門兵から連絡があって数刻経った頃だった。クリスは併設された食堂で様子を見ることにした。エイフも少し離れて彼等を観察だ。
ニホン組パーティーは、受付の女性から「金級冒険者より連絡が入ってます」と告げられると騒ぎ始めた。
聞き耳を立てれば「俺たちも有名になった」や「特殊依頼を一緒にって申し込まれるのかも」と話している。
クリスの観察した様子では全員が若く見えた。十代後半だろうか。ひょっとしたら、もう少し若いかもしれない。言動が無邪気だった。
声が大きいため彼等の会話が耳に届くけれど、特に横暴な様子は見られない。
やがて落ち着いた彼等に、受付女性が「どうされますか」と聞いている。彼等の返事は「じゃ、会うだけ会ってみます!」だった。
しかし、一人の青年がごねた。
「俺は嫌だ。指名依頼を先にこなそう」
「いいじゃないか」
「俺は早く彼女に会いたいんだ!」
「会えばいいだろ。今回は長くいるんだ」
「時間がない! 大体お前がサウエナで余計な仕事を請けたから遅くなったんだ!」
「仕方ないだろ。俺たちにしか頼れないって言われたんだからさ」
「二人とも止めなよー。とりあえず、今日彼女の家に挨拶に行ってさ、それから待っててくれるよう頼めばいいじゃん。指名依頼が終わったら正式に結婚を申し込むって言えば、彼女だって怒らないよ~」
――んん? どういうこと?
クリスは自然と眉根が寄るのを感じた。
一言も漏らすまいと耳だけでなく体ごと自然に傾いていく。
「その後で金級さんに会おうよ」
「相手、金級レベルなのに後回しでいいのか?」
「いいですよねぇ~? 受付さん!」
「いえ、わたしからは何も。ただ、礼儀として――」
「いいんだって! じゃ、決まりね! ねえ、早く済ませようよ。あたしお腹も空いたし、ゆっくりしたいんだって。お風呂も入りたいの」
「……俺もマユユの意見に賛成だ」
「お前なー! いつもはだんまりのくせして、マユユが何か言うとそっちに行きやがって」
「とにかく異動届は受理されたんだろ? 俺は彼女に会いに行くからな!」
四人のうち、一人の青年がイライラとした様子で離れようとした。そこにエイフが悠然とした足取りで、しかし決して逃さないという早さで立ち塞がる。
顔はにこやかだ。
そのまま見ていたい気もしたが、クリスは急いで外に出た。
ギルドの外でイサを呼ぶと、二階の庇の上から飛んでくる。手筈通りだ。彼はピュイッとやる気の感じられる鳴き声で答え、クリスが渡した紙を掴んだ。
「お願いね? 特急便だよ」
「ピッ!」
「あ、プルピも来たの?」
「面白ソウナノデナ」
「……バレないようにしてね? あと、ギルドに入らないって約束守ってくれてありがとう」
「構ワヌヨ。ソレトナ? オヌシガ心配シテイルヨウナコトニハナランカラ安心スルガイイ」
「プルピのことは信じてる。でも、ニホン組って特殊なんでしょう? プルピの存在がバレたら怖いよ。それに精霊たちは珍しいものが好きじゃない。他の精霊が彼等に肩入れしたらと思うと――」
プルピには事前に、クリスが心配していることを話していた。この地の精霊の誰かがニホン組を気に入って、情報が流れるかもしれない。もっと言えば手助けするかもしれないのだ。
プルピはイサが飛んでいった方を見てから、すっとクリスの顔の前に寄った。
「確カニ我等ハ面白クテ珍シイモノガ好キダ。シカシ、友情ヲ秤ニ掛ケルコトハシナイ」
「プルピ……」
「ワタシハコレデモ、オヌシノコトヲ気ニイッテイル。加護マデ与エタノダ。ソレニ友人デアルト思ッテイルノダガ?」
「うん。ありがと、プルピ」
「ワタシガココデ遊ンデバカリダッタト思ウカ?」
遊んでいたんじゃないのか? と思ったクリスだったけれど、場の空気ぐらいは読める。首を横に振った。
プルピは偉そうに「ウム」と頷いた。
「ソウダ。ワタシハ、コノ地ノ精霊タチト誼ヲ結ンデイタノダ」
「そ、そうだったんだね」
「ソウナノダ! ソノ仲良クナッタワタシガ言エバ、コノ地ニイル精霊タチハ味方ニナッテクレルダロウ。イヤ、モウスデニ味方ダ」
「え……?」
「オヌシノ働キヲ、○※◇×△※ガ見テオッタ。ハネロクモトテモ面白ガッテイタダロウ?」
「あ、うん」
電子音の部分が全く分からないのだが、プルピは説明しないまま続けた。
その説明を要約すると、クリスはどうやら彼等に気に入られたようだった。エイフと共に巨樹の上部で魔物退治したのを、精霊たちは殊の外喜んでいたらしい。巨樹にとって害になる魔物を倒すというだけでも嬉しいのに、珍しい火を使ったのが楽しかったとか。また、巨樹から眺める景色に感動していたクリスも好ましく感じたらしい。
大前提として、クリスがプルピの加護をもらっているからでもある。ようは「ひとかどの精霊に認められた人間」というベースがあったわけだ。
プルピはこれでなかなかの精霊らしい。クリスは話半分で聞いていたけれど。
一通り話し終えると、プルピはイサの後を追って飛んでいった。彼は、自分ひとりぐらいなら隠れていれば問題ないだろうと、ニホン組対策班の一員になってくれた。更に他の精霊たちが集まらないよう見張り係もするらしい。
が、クリスはちょっと疑っている。なにしろ精霊は面白いことが好きだ。
仕方なく、クリスは「問題が起こりませんように」と祈るだけだった。
ギルドに戻るとエイフの足止めが成功していた。彼はさりげなくクリスを視線の端に留めると、にこやかにニホン組パーティーへ謝った。
「来たばかりなのに引き留めて悪かった。明日から守護家の指名依頼に入るんだろう? せっかくだからもっと親交を深めたかったが、諦めるとしよう」
「いえいえ。俺たちも金級冒険者と知り合えて良かったっすよ。それに鬼人族なんて珍しいし」
「ははは。じゃ、仕事終わりに飲みにでもいくか?」
「おー、いいっすね!」
「あたしも! こんなイケメンとの飲みは外せないよ~!」
「……じゃあ俺も」
「俺は行かないからな!」
「あんたは彼女のとこでしょ。もう! さっさと行ったら?」
パーティーで唯一の女の子にあしらわれて、青年はムッとしたようだった。けれど、何も言わずにギルドの出入り口に向かった。クリスは慌てて気配を消し、彼のルートから外れた。
幸いにして気付かれなかったようだ。ホッとした。
クリスはエイフに目交ぜで後を追うと告げた。彼はクリスにだけ分かるように手を動かした。頼んだぞ、という意味だ。そして残った面々を食堂の方へ誘導した。
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