第二章 天空都市シエーロ
057 旅路の目的と嬉しいプレゼント
クリスの旅は順調だった。
行き先は隣のダソス国で、先日まで滞在していた迷宮都市ガレルから近い。
この国にも都市と呼ばれる場所があった。永住は厳しいだろうと聞いていたが、通り道のついでだからと寄ることになった。
そんな余裕が生まれたのも、クリスに旅の友ができたからである。
鬼人の血を引くエイフは、冒険者ランクが金級だ。そんじょそこらの魔物など相手にならない。
そんなすごい人が一緒にパーティーを組んでいる。
余裕も安心も生まれるというものだ。
エイフは元々、中央国家ペルアの冒険者ギルドで依頼を受けて、迷宮都市ガレルに来ていた。詳細は教えてもらっていないが依頼内容は「調査」だという。
クリスは、迷宮都市ガレルが国家へ昇格するための事前調査の一つではないかと思っている。あらゆる立場からの視点で調べているのではないだろうか。
ガレルの領主は公爵で、独立しても問題ない。むしろ北に北部大森林を抱えているため、独立してもらった方が中央国家ペルアには都合がいいところもある。
北部大森林は未開の厳しい土地だ。魔物も多く暮らしている。混沌とした土地のため、人の暮らす南側へ来てほしくないのだ。
ペルアの北側にある辺境領はどこも防波堤になっていた。
クリスは大陸全体で言うと北西にある端も端、ド辺境地帯から出てきたため、これらの土地を見てきた。あまり良い環境とは言えない場所ばかりだ。魔物を食い止め、その素材を売り買いすることでかろうじて成り立っている。
正直、永住したいと思える場所ではなかった。
だからこそ、西の端から東の端にほど近い迷宮都市ガレルまで旅を続けた。
もっともガレルでは永住権を得られず、事件にも巻き込まれて出てくる羽目になった。少しばかり傷付いたクリスだったけれど、旅の間に気持ちは切り替わっている。
今は旅を少し楽しんでおり、ゆっくりと次の永住先を見付けるつもりだ。
その話をした時にエイフが「ちょっと遠回りになるがダソス国の天空都市シエーロに行ってみるか?」と言い出した。
クリスに備わる「家つくり」スキルのレベル上げにもなるのではないか。そう言うのだ。
いろいろな都市を見て回ることがスキルのためになる。そう言われると俄然楽しくなってしまった。
前世ではブラック企業に入社してしまったため、旅の経験はほとんどない。出張ばかりだ。
となると、二度目の人生、楽しまなくては!
そう思えるぐらいは、クリスの傷心も癒えていたし、余裕もあった。
他にもクリスには旅の友がいる。ちょっと不思議な友達だ。
迷宮都市ガレルで知り合った小鳥型の妖精のイサとは、ほぼ一緒にいる。たまに精霊のプルピと、彼等の住む精霊界に行く。
妖精は精霊の子供のような、もしくは眷属みたいな関係だそうだ。ふたりも仲が良い。大体イサがプルピの秘書、お手伝いさん的役割をしている。イサが連れてきたプルピとも友達と言っていい関係かもしれない。
さて、精霊は敬うべき相手だと教わってきたクリスである。事実そうなのだろう。彼等は人間とは違った価値観を持つものの、優しい心の持ち主が多い。人間に対しても気紛れではあるが親切だ。能力も高い。
けれど、クリスはプルピに親しみを感じていることもあり普通に接している。彼も畏まった態度を嫌うため、まあまあいい関係だ。
たまーに愚痴を零されることもあるが、概ね問題はない。
問題といえば、ガレルを出て数日後に驚くことがあった。
先ほどのプルピの知り合いたち大勢集まって、クリスに「自分たちにも家を作ってほしい」と頼んできた。
そもそも、プルピがクリスにプレゼントを贈るために精霊仲間へ声掛けしたのがきっかけだ。
彼等は荷物を配達に来て、プルピの家を見た。クリスが作った、彼等基準で見ると「斬新な家」を。
かくして「同じ家がいい」という彼等のお願いを叶えるべく、家つくりスキルを何度も発動させた。流れ作業で作れたのが幸いだ。
その原因となったプレゼントがとんでもないものだった。
「ガラス瓶二つ?」
精霊プルピはお人形サイズである。幻惑がかかっていない彼はドワーフのミニチュア版だ。その彼のサイズちょうどのガラス瓶は、クリスが持つと大きめの疲労回復剤サイズであった。
運んできた精霊たちは特に重くなかったらしいのにゼーゼーと疲れたアピールしていたが、クリスは無視した。ちなみにプルピの知り合いの精霊たちは全員姿が違った。人がイメージする精霊らしい女の子(羽根が生えている)もいれば、トカゲが二本足で立っているのも。とにかく、てんでバラバラの格好だが、小さいサイズであるというのは同じだった。
「どっちも水?」
「バカヲ申スデナイ」
「と、言いますと?」
夜だったため、エイフの姿はない。彼は御者台で寝ていた。寝袋さえ要らないらしい。クリスは家馬車の二階部分で今正に寝ようとしていたところだった。そこを天窓からコンコンやられたというわけだ。イサも起こされ、寝ぼけた様子でクリスの布団の上までフラフラ飛んできて一緒にガラス瓶を見ている。
「一ツハ生命ノ泉ノ水ダ。我々ガ好ンデ飲ム水デアル。浄水ヨリモ格上ト言エバ意味ガ分カルナ?」
浄水とは、自然にろ過された清浄な水のことだ。穢れのない澄んだ水は聖水の代わりにもなる。聖水は聖なる力を持った高位スキル持ちが浄化して作るため、手に入れるのは当然難しい。この聖水がなければ、稀にある「人間の魔物化」に対処できない。聖水は穢れを祓うとされていた。その聖水の代替えともなる浄水だが、こちらも貴重だった。清らかな森でしか見付けられないからだ。
それなのに、浄水よりも更に格上だとプルピは言っている。クリスは驚いてガラス瓶を掲げた。
「えっ、浄水より上って、本物の生命の泉!?」
ガラス瓶二つのうち、一つには赤い印が付けられていた。それが「生命の泉」の水らしい。浄水の泉なら人間界にもある。聖水のような役目を果たす、とても澄んだ水だ。これらは薬の基材にもなるし、何よりも紋様紙を描く際のインクに関わりがある。
紋様紙を描くのに使うインクの基材にもランクがあり、ただの水ではいけない。精製水→浄水→生命の泉が最高ランクとなっている。
浄水は取りに行けばタダだが滅多に存在していない上、山中にあるため行き帰りだけでも大変だ。そのため、クリスは余裕があれば精製水を浄化する紋様紙を使って描いていた。
売り物の紋様紙は精製水を使う。経費節減である。自分専用の紋様紙だけ手作り浄水を使っていた。
その基材の最高ランクである生命の泉の水が、タダでもらえる。
クリスは、ぱあっと笑顔になった。プルピは怒っているが。
「本物ノ、トハドウイウ意味ダ。全ク、オヌシトキタラ」
「だって~」
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第二部です
たぶんできればだけど、一週間に一度のペースでしばらくいくと思います
よろしくお願いします
(あと例によって例のごとく読み返しなんてろくにしてません…大幅修正いつか入れまs……
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