054 パーティーメンバー




 エイフが語ったのは、彼の役目についてだった。

 そもそもエイフは迷宮都市ガレルの出身者ではない。流れの冒険者としてガレルにやって来た。

 仕事を受けて、だ。

 エイフは中央政府の依頼で調査に来ていた。内容は言えないらしいが、本来ならもう仕事を終えて帰っている頃だったそうだ。

 しかし、イレギュラーが発生して残ることになった。

 イレギュラーとはニホン組のことだ。中央政府から受けている依頼とは別に、ニホン組と出会ったらなるべく彼等の動向を調べるように「とある人」から命じられているらしい。

 ニホン組の地下迷宮最下層アタックに誘われたこともあって、参加したそうだ。エイフ自身も依頼とは別に最下層更新を楽しんでいたらしいから「良い依頼」でもあった。

 けれど、もう十分調査は済んだ。その上で――。


「一人行動にはいろいろと制限がある。それと、もう政府の依頼は受けたくない。そこに、お前、クリスが現れた」

「……どういうこと?」

「俺の娘ってことにしてだな」

「年齢が合わないよ。わたし、そこまで小さくないから」

「……俺の妹?」

「種族的に無理がある!」

「まあ、とにかく。連れができたとなれば断れるだろ。新しいパーティーで冒険者をやると言って足抜けするんだ」

「なんか、頭良いこと言ったみたいに話してるけど、相当頭悪いこと言ってるからね?」

「お前ホント口が悪いな!!」

「お互い様だよ!」


 やいのやいのと言い合ったが、結局、互いに一人旅をするよりは一緒の方が便利だろうと丸め込まれてしまった。

 しかし、迷宮都市ガレルの調査云々は割とどうでもいいが(国として独立するに当たっての事前調査だろうと予想が付く)問題はニホン組の方だ。

 厄介の何物でもない。ニホン組の何を調べるのか。クリスが転生者だと疑っている可能性だってある。

 一番恐いのはニホン組への恨み辛みをクリスにぶつけやしないか、ということだ。


 今のところ、エイフは理性的だと思っている。

 が、そんなもの何の役にも立たない。

 クリスに人を見る目があるわけでもない。

 なにしろ、前世では婚約者に裏切られてしまった女だ。あれは痛かった。

 ――それはともかく、クリスはエイフを信用しきれなかった。けれど、あまりに反対するのもおかしいと勘繰られる。


 何故なら、普通の女の子は「親切な旅路の友」を喜ぶだろうからだ。

 このあたりのさじ加減が、クリスには難しい。

 結局、これまで以上に慎重な行動をするしかないのだ。


 もっともエイフの同道を受け入れた理由の一つに、イサが隠れなかったことも上げられる。

 イサは妖精である。善なるものを見分ける力があった。気に入らない相手、たとえばルカからは隠れていたし、魔物相手では威嚇していた。

 けれどエイフに対して妙な態度は見せていない。

 だからといって全面的に信用するわけではないが、受け入れる理由にはなる。



 エイフは竜馬系統馬(つまり、ほぼ竜馬)と共に、クリスの旅の仲間になった。

 どうせならパーティーを組んだ方が後々便利だというため、増えた竜馬の分の餌も確保してから冒険者ギルドに届けを出した。

 クリスが隠れて行こうと頼むのを不審がっていたエイフだが、本部ギルドにルカを見付けた瞬間に「あー、あれか」と笑っていた。当事者には笑い事ではないのだが。


「仲間の女にこっぴどく叱られていたから大丈夫だろ」

「エイフは、変な言葉で近付いてくる気持ち悪い異性を恐怖には思わないんだね? 言葉が一切通じない感じの恐怖も知らないんだね?」

「……悪かった。もう言わない。だから、頼むから俺までおかしな人間みたいに見るのは止めてくれ」


 という、やり取りの後に西区のギルドで届けを出した。

 そのうち、このデータが赤い水晶を通して登録されるのだろう。精霊樹がデータのやり取りを媒介して、世界樹が統括しているらしい。クリスは何度聞いてもコンピューターシステムとしか思えなかった。

 そう考えると、精霊たちは自由に飛んで回って休憩場所という名の中継地点を選んで「精霊樹」にしているわけで――。

 異世界だと分かっていても不思議なシステムだと、クリスは思う。


 そもそも、ごつい竜みたいな顔の馬がいる世界なのだ。前世のことで役に立ったのは人生経験ぐらいだろうか。それすら上手く使えたとは思えない。

 クリスは考えるのを止めた。今、大事なのはそれじゃない。

 馬が問題だ。

 ペルは竜馬の血を引いているとはいえ見た目は、ただの重種である。しかし、エイフの竜馬はそうではない。体の大きさが一回り以上も大きく、顔はごつい。

 どう見ても竜馬である。こんなの盗賊に襲ってくださいと言っているようなものだ。

 そのため、物は試しにとエイフにある物が欲しいと頼んでみた。


「おー、いいぞ。買ってくりゃいいんだろ。いや、持ってたかな。でも薬にしないとダメなのか。頼んでくるかな」

「え、幻想蜥蜴を持ってるの?」

「入ってたはずだ、たぶん」


 収納袋に詰め込んでいるらしい。クリスは目を剥いた。


「ちゃんと整理しなよ。もー、お屋敷サイズの収納袋持ちはいいなぁ!」

「お、おう」

「あと、魔法薬はこっちで作るから。頼んだらお金かかるじゃないの。時間もだけど」

「そうか。じゃ、クリスに頼む。で、それを使って何するんだ?」

「目玉に幻覚作用の効果があるの。紋様紙使うより長時間使えるし、反動もないからね。あと、自分で作ったら安上がりで済むんだー」


 しかも、たくさん作れる。副作用もないため大変便利なのだ。これで、竜馬とはバレない。その上、エイフの様子ではタダで使えそうだと知って、クリスは内心でぐふぐふ笑って皮算用だ。



 翌日も必要な食料の買い出しなど、やることがたくさんあって走り回った。

 幻覚作用をもたらす魔法薬も大量に出来上がり、ほとんどはエイフに預けた。ついでに収納袋の中を整理したら、と勧めておく。空いた場所に餌などを入れてもらうつもりだ。

 もっとも、整理しなくても彼の収納袋は「お屋敷」サイズなので空いているらしい。ただ、狩った魔物を適当に放り込んでいると聞いたクリスがイラッとしただけだ。


 その翌日も買い出しした荷物を片付けて家馬車に積み込んだり、大事なものはクリスのポーチに入れたりと作業が続いた。

 しかし、夕方にはなんとか終わった。

 となると後は出発である。


 その前にお別れ会が待っていた。あまり大事にしたくないというクリスの意を汲んで、精霊の止まり木亭の食堂を貸し切ることにして。

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