051 二回目の家馬車つくり




 以前作った家馬車の土台よりも大きくなった分、図面は変わる。しかし、敢えて手を入れることはしなかった。

 家つくりスキルが発動したおかげで、クリスの頭の中では自動的に図面が修正されていくからだ。

 どうすればいいのか、頭の中で勝手に動いていく。それが理解できる。


 底の補強は要らない。外側壁面も不要だ。壁も元から付いている。この馬車は本来、貴族の荷物を運ぶためのものだった。雨風を避けるためのしっかりとした造りである。

 クリスが行うのは窓を作るための穴を開けること。重みを軽減するために内側の壁を少し削ることなどだ。

 屋根も取ってしまった。寝室を作るために高さを調整する必要があるからだ。高すぎてもいけないが、中の部屋自体が低くなりすぎてもいけない。ちょうど良い高さを作るために屋根は作り替える。

 丸みを帯びた屋根天井は、以前と同じく天窓を付けるつもりだ。


 前回は作り付けだった家具は、今回職人の手によって用意されていた。

 貴族が使うような良い木を使っている。

 家具職人はガオリスに聞かされていたのだろう。小さな抽斗をたくさん作ってくれている。全部、奥行きが浅い。また、裏面は薄い板で塞がれている。元々あった家具の裏面を張り直してくれたようだ。

 そのまま家馬車の壁にくっつけられるように考えられていた。


 窓ガラスは軽く頑丈な素材でできている。地下迷宮で狩れる一つ目岩という魔物の目玉ガラス製だ。生きたまま捉えて刳り貫くと、平たく伸ばすことができる。やがて固まるのだが、その時には防弾ガラスほどの強度を持つ。多少の魔法も弾くという優れものだった。何よりも軽い。普通のガラスと違って子供が手で持てるほどだ。


 集められた素材には良いものが多い。「軽く」するために工夫を凝らす必要があるからだった。

 たとえばランプシェードに使う七色飛蝗の後翅も、とても軽い。こちらも細工師が作ってくれた物を飾ることになった。それだけを見たら、どこの貴族の持ち物かといった立派なものである。


 馬車が少しだけ長くなった分、玄関代わりとなる予備室も作ることになった。これにより、中の部屋と完全に部屋が仕切れる。もしも客人を招く場合、荷物を置いてもらうことも可能だ。また、収納式のテーブルも出せる仕組みを作ったため、中にある作業部屋兼居間に人を入れなくて済む。


 二階部分の狭い寝室も少しだけ広くなった。天井を少し高くできたので、クリスが大人になっても十分使える広さだ。もちろん、立って歩くことはできない。けれど、大人でも座っていられる高さなら問題はない。

 ベッドも布団なども布製品は全て用意されていた。しっかり目の敷き布団に、ふわふわの上布団、軽くて手触りのいいシーツもセットになっている。枕もあった。

 全て、布屋の女性たちが突貫で作ってくれたものだ。布の端には小さな鳥の刺繍がある。イサを模しているようだった。時間がない中、それでも女の子用だからと可愛らしくしてくれたらしい。


 女性たちは他にも、クリスのために服を作ってくれていた。下着だ。良い生地というのはなかなか手に入らないものだ。特に辺境の地では見たこともなかった。

 ところが、迷宮都市には素材を生む魔物たちが地下迷宮でたくさん狩れる。

 肌心地の良いシルクに近い糸を吐く蜘蛛の魔物など、高級生地だが、地元迷宮産ということで市民は安く手に入れることができた。とはいえ庶民が手を出すには「年に一度の贅沢」ぐらいに大変なものだとクリスは聞いている。

 そんな贅沢な布地で作られた下着を、たくさん用意してくれた。

 多少、体型が変わっても問題ない、ブルマ型のウエスト部分を紐で縛るパンツだ。裾にはフリルがあしらわれている。大人の女性には野暮ったいかもしれないが、少女が穿くのなら可愛い。クリスは気に入った。


 胸当ては見本の品が一つあっただけで、残りは布で用意されていた。型紙もセットだ。つまり、今のクリスには必要ないが、いずれ要るだろうから自分で作れということだ。

 スキル発動中だったので怒りはしなかったが、ちょっぴりムッとしたクリスである。


 屋根には小さな柵を作り、物が置けるようにした。臨時の荷物置き場として使えるようにだ。防水防塵加工の施された板を張り付け、その上に防水布も貼った。これで魔物を狩って載せることも可能だ。

 登るには御者台の背後、あるいは裏の扉を開けた状態で登れる梯子からとなる。

 防御の紋様紙を使えば問題ないが、外側に梯子を付けないのは、盗賊たちに「この馬車は防犯対策をしている」と分からせるためだ。


 御者台も過ごしやすく改造する。なんならお昼寝だってできるぐらい、広めだ。屋根を付けクッションを敷けるようにする。ただし視界を遮らないよう横に壁は作らない。が、サイドミラーを後付けできるように細工だけはしておいた。

 御者台は昼の移動中、ほとんどの時間を過ごす場所だ。それを考えると馬車の内部よりも快適に作らなくてはならない。足が伸ばせるような造りにしたり折りたたみ式のテーブルを作ったりと、工夫を凝らした。

 また、二頭でもひけるようにながえくびきも作り替えた。

 ペルなら、頑張れば一頭立てでも大丈夫かもしれない。元々一頭立ての予定だった。けれど、ひそかに考えていた裏技は使わない方がいいと気付いた。

 クリスはペルに「身体強化」の紋様紙を使うつもりだった。

 けれど、紋様紙を使い続けた時に、まるで酔ったかのような不快さを覚えた。あの反動は恐い。クリスは不安になった。

 だから、自分自身もペルに使う場合も、続けざまに使用するのは止めようと決めた。



 以前とほぼ同じ造りながら、以前よりも改良した点が増えた。御者台や天井の荷置き場などだ。

 更に、馬車の外側には模様に見せかけた魔術紋を刻んだ。元々の材質が良いことから、効くはずだ。特に火を防ぐ魔術紋は念入りに刻んでいる。火矢に襲われても防げるだろう。また「不壊」の魔術紋も全体に張り巡らせた。これで多少の魔物相手なら壊れない。

 これまでの旅では夜中だけ「防御」の紋様紙を使っていた。

 防御は、空間や結界魔法になるため自分自身への負担は少ない。とはいえ、毎日何枚も使用するのは痛手だ。家馬車のために昼間も常時発動するのは大変でもある。

 だから、家馬車自体に刻むことにした。

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