020 流れの冒険者と畑仕事と設計図
数日ぶりの冒険者ギルドでは、薬草採取の依頼が残っていた。
やはりエイフの姿はなく、受付へ行ってみると――。
「今日は外へ行くのは止めない?」
「どうしてですか」
「んー。エイフさんが急用で呼ばれて、今、迷宮に入ってるの。あなたのことを心配しているって連絡が届いたのよ」
「……それでこの間いなかったんだ」
「あの日は本部に呼ばれたみたいね。その後、外へ一人で行ったんじゃないかって、聞きに来たのよ」
その時クリスは、お店の手伝い仕事を選んだ。七日はかかると言われていたためエイフは安心したらしい。
ところが、早めに終わってしまった。エイフは七日の猶予があると思って、代わりの見張り役を立てなかったらしい。
受付のユリアが心配しているのは、それだけではなかった。
「誘拐騒ぎも怖いけれど、この間の冒険者のことが気になってるの」
「どういうことですか」
「他の冒険者のことを話すのは本当は良くないけれど、これは女の勘ってことでね?」
「あ、はい」
「流れの冒険者なんだけど、素行についてちょっと不安なのね。それで、依頼を片っ端から持っていったくせに一部達成できなかったの。その時にあなたのことを悪く言ってたから」
「あー」
クリスが目を細くして遠くを見ると、ユリアは笑った。笑ってから慌てて表情を引き締めた。
「『あいつが採り尽くしたせいだ』なんて騒いで、翌日は来なかったの。その翌日は掲示板の前でじーっと誰かを探すかのように待ってて――」
「あっ、分かりました。なるほど。そういう感じなんですね」
「……あなた本当に察しが良いわね。今日見かけないのが、ただの寝過ごしや飽きただけなのならいいのよ。でもそうじゃない場合は、ね」
逆恨みして、意地悪するぐらいならまだいい。ユリアの言いたいことはそういうことだろう。
それでなくとも、幼い子供の誘拐事件がある。
クリスは少し考えて小声になった。
「囮になります」
「えぇ?」
「依頼を受けて、外へ行きます。襲ってくるならその時です。そこをとっちめてやりましょう」
「クリスちゃん……」
ユリアが呆れた顔をするので、クリスも肩を落とした。やっぱり無理のようだ。
エイフがいれば囮作戦もオッケーが出たのかもしれない。
他の冒険者を雇うことも考えたが、何故自腹を切ってまでとも思う。
クリスは諦めて別の仕事を受けることにした。
金額はそれほど良くないが、受ければ実績にはなる。
クリスは農家の手伝いに赴いた。モグラの駆除だ。畑は外壁の中にあるため、ユリアも受け付けてくれた。
念のため、ペルを宿に戻さず連れて行った。乗らないのでセーフだ。
ペルの運動には少々物足りないが、仕方ない。数日もの間外へ出ていないから、ペルはちょっぴりイライラしていた。
宥めつつ向かう。
すると、ラッキーなことに、これから耕そうと思っていた畑があるという。
ダメ元で「ペルを走らせてもいいか」聞いたら、お許しが出た。その上、耕耘を手伝ってくれるなら依頼料を増やしてくれるという。
即答で受けた。
ペルは賢いから、ここからここまでの間で走るようにと言えば、きちんと守る。
存分に走り回っているとモグラも出てきた。
彼女はクリスと一緒になってモグラ退治をしてくれ、イサもあっちこっちと教えてくれるから午前中でほぼ依頼の駆除は済んだ。
念のため、モグラ避けの薬草を焚く。
依頼人は喜び、お昼ご飯を出してくれた。野菜たっぷりで肉も付けてくれる大盤振る舞いだ。
ペルにも野菜屑と雑穀をたっぷり食べさせてくれた。イサはクリスの余ったもので十分だから、一緒に食べた。
午後はペル用に改造した丸太を組んで、畑を耕した。元々重種なので重い荷物を運ぶことには慣れている。畑を耕すぐらい朝飯前だ。
丸太の上にクリスが立ち、手綱を引いてハイヨーと声を掛けて進む。すると深く刺さった丸太の先がゆっくりと土を掘り返していった。
ばんえい競争をしているみたいで、面白くなってきたクリスはハイヨーハイヨーと適当に声を掛けて畑を次々と進んだ。イサも真似してピッピーと鳴いている。
クリスたちがわいわい騒いで作業していると隣の畑から人がやって来た。
「そりゃあ、いいなぁ。なあ、わしのところもやってくれんかね。うちの牛っこ、疲れたてサボりよるんじゃ」
クリスが答える前に、依頼者の農家のオジサンが返した。
「いやいや、あんた。こりゃぁ、わしがギルドに頼んだんじゃ。気軽に頼むもんでないわ」
「そうかぁー。そりゃ、頼めばええんだな。わし、ちょっくらギルドへ行ってくる」
「おー、そうしろー」
「明日、やってくれなー」
クリスはまだ受けるとも何とも言ってないのに、話が勝手に進んでいて笑うしかない。
もっとも断るつもりはなかった。
なにしろペルの運動不足が解消される上に、楽しい。
初めてペルに乗った時も楽しかったが、荷を引いてくれるというのはまた別の楽しさがある。ばんえいごっこも良かった。
これで馬車を引いたらどうなるんだろう。絶対楽しいに違いない。
わくわくが止まらず、畑を耕し終わったら急いでガオリスのところへと向かった。
七色飛蝗の端材をもらったことなどを話すと、弟子たちだけでなく先輩職人たちも「良かったじゃないか」と我が事のように喜んだ。
クリスが設計図を見せて「丸窓はこんなの」「家部分はこうする」と説明したら、一緒になって楽しそうに話し合う。
とにかく出来上がるのが楽しみで、設計図を何度も書き直した。材料がまだ全部揃わないため、作るのは数日後だ。
その前の調整として、細かな細工を作った。
丸窓の部分も先に作っておく。
ステンドグラス風の小さな丸窓は縁が飴色の硬い木材でできていて、より七色のガラスを映えさせた。
クリスが自画自賛していると、覗きに来たガオリスも絶賛してくれた。
「これはいいね。どの部分に嵌め込むのかな」
「ここです。右の壁の少し上」
「そこだと、作業場の手元に光が入らないかい?」
「大丈夫です。丸窓の下に作り付けの棚があるから」
「ほうほう、なるほどねぇ」
他にも気になる箇所があれば、さりげなく教えてくれる。クリスもあれこれ相談して、設計図を書き直した。
「寝室の真上にも丸窓を作ろうと思ったんですけど」
「いいんじゃないかい? 星を見て寝るなんて素敵だなぁ!」
「でも、寝ている間に魔物が上にいたらと思うと、ちょっと怖いかなって」
「えっ!? ははは!!」
何故か爆笑されてしまった。クリスが膨れていたら、他の職人たちが宥めてくれた。
想像力豊かだとか、魔物が天井に来る前に馬が先に気付いてくれるよ、などと言って。
彼等の言うことはもっともなので、天井にはやはり窓を取り付けよう。丸ではなく四角いものにする。
万が一の脱出用だ。
いざとなれば、天井に穴を開けてしまえばいいが、そこは穏便にいきたい。
さすがに自分の家をぶち破りたくはなかった。
他にも相談して、最終の形を決める。
あとは材料が揃えば終わりだ。
数日後にまた来ると約束して、クリスは宿へと戻った。
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というわけで、これからはまったり更新ですー
改稿作業終わったらカキカキするのだー
まほゆかも書くけど、息抜きも大事なのである!
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