第2話 忘れ物でピンチはカッコ悪い

特に何事もなくホームルームも終わりいつものように祐介が話しかけてきた。

「そういえば今日から英語の授業分かれてするんだったな」

「あぁそうだっけ?」

俺はそのことをすっかり忘れていたのだ。


 うちの学校の英語の授業はAとD、BとCクラスが合同で行うのだが、まず1回目の授業で全員高校1年生の復習テストみたいなものを行いさらの2クラスに分けられるのである。つまり最初のテストの点数で出来るクラスと出来ないクラスに分けられるのである。もちろん教室も先生も違うし、授業の難易度も違ってくるわけだ。出来るクラスはより難しい問題をこなして行くし、出来ないほうのクラスは復習がメインになっていく。先生から学力でクラスを決めるのは聞いていたのでわざと問題を間違えたりして出来ないほうのクラスへいけるようにテストに挑んだそして見事に出来ないほうのクラスになったのである。なんで出来ないクラスへ入ったかと言えばそれは楽がしたいただそれだけである。うちは商業高校なのでそこまで中学で言う5教科みたいなのはそこまで力を入れていない。


「とりあえず俺は前の方の席だけはやめてほしい…授業中にラノベが捗らない」

やけに祐介が深刻な面持ちで何を言うかと思えばすごくどうでもいい事だった…これだからオタクは…

「俺は前の席でもラノベ読んでニヤニヤ気持ち悪く笑っているお前が怒られている姿とか見たくてしょうがないんだが」

俺はいつものように祐介を冗談半分にバカにする。

「いやぁーでも授業中にラノベ読んでると無意識のうちに口元が緩んでるときあるから気を付けないとな~」

「いや、お前この前の数学の時間ちょっとニヤけててマジきもかったから気をつけろよ。隣の女子引いてたぞ…」

「マジで!?」

「まあ、嘘だけどな」

「おい!今のちょっと本気にしたぞ」

こんなしょうもないやり取りをしていると予鈴がなって席を占領していたリア充共も自分の席に着き始める。


 朝のホームルームが終わり移動教室のA組へ向かう…1時間目英語はすごく面倒だ。日本人なんだから英語なんて勉強しなくてもいいと思うんだよね。そもそも日本から出るつもりもないし、さらに言えば俺は自分の殻からも出られないままなのだ__


 そして祐介と一緒にA組の教室へと入っていくと 「これからよろしく~」なんて声が教室の中で聞こえてきていた。俺の席は一番後ろの席なのは良かったのだが、真正面に教卓という席になってしまった。一番後ろだが真正面という席はそんなに好き勝手できる席ではないと過去の学生生活で学習してるつもりだ。ただでさえ一番後ろというのは先生が注意を払っている席でしかもど真ん中は先生が顔をあげるとすぐに見える場所であり危険性の高い席だ。そんなことを思いながら先生が教科書とノートを開いてと言うからノートを開き、教科書を開こうとしたが、そういえば俺は英語の教科書を忘れたことを思い出す。席も真ん中、教科書は忘れる今日は厄日だな。なんて思ってしまったがとりあえず教科書を見せてもらわなければならない。不幸なことに席替えのせいでほとんど喋ったことのないやつばかりで頼みづらいがそんなことを思ってもしょうがないので隣の小柄な女子に頼むことにしよう。


「ちょっと悪いんだけど、教科書忘れちゃってさ…悪いんだけど見せてくれない?」

申し訳なさそうに頼んでみたらビクッとしてこちらを見てくる。初めて正面からその子を見たが、色白で目もパッチリしていてすごく可愛い女の子で少しラッキーと思っていたがそんな気分を台無しにするかのようにその隣の女子は素っ気ない態度であった。確かに俺はそんなイケメンでもないしむしろ不細工かもしれないけどそんな冷たい目で見なくてもいいと思うんだよなぁ…これだから女子は…。

「あ、うん…」

しばらくの沈黙からようやくOKの返事をもらう。

「そういやあ、初めて話すよね?俺は佐野秀一って名前だからまあよろしく」

さすがにこのままなのも気まずいのでとりあえず自己紹介をしてみた。

「……木内 朱莉きうち あかり

「木内さんよろしく!」

「あ、うん…」

やはりそっけない態度だけど、教科書をこちらのほうを近づけて置き見せてくれた。しかし俺が教科書を見ているからだろうが少しこちらと距離を取っているのが分かる。俺なんで避けられているんだよ…さけるのはチーズだけでいいと思うんだよね…うん。こういう女子のさり気無い行為って世の中の男子を傷つけているからな。さらに言えばデブやブスとかがこういうことをやると殺意が湧くまである。「お前みたいなデブ誰も意識してねえよ」って本当に思うし俺はデブ専じゃないしむしろ痩せ専?いやガリ専まである!というか痩せてる女の子って本当に最高だと思うんだよね。なんて必死にそんなことを思いながらこの気まずい空気から逃れようとしていた。


 ここで可愛い子と隣になってこの子と仲良くできるだろうとかもしかしたら彼女に…なんてそんな甘い期待はしていない。何故ならそんな青春恋愛ごっこが俺は嫌いだからだ。もっと言えばどうせそんな出来事は自分にとっては非日常であり得ないわけで期待するだけ無駄、さらに言えばそんな恋愛イベントを期待して失敗してしまい傷つくのは嫌だからである。もう……あんな思いをするのはごめんだ。俺は何も考えてないようなリア充共とは違うし、前回のことで俺は学習したのだ。青春恋愛ごっこで一喜一憂するなんて時間の無駄でアホらしいとさえ思う。


 そして気まずい状態で授業が50分間続いた。その50分間がとても長く感じ、精神的にかなり疲労した。それが一番の感想だ。特にそこから何があるわけでもなく授業を乗り切って最後に「ありがとう」と言い席を立った。2-Aの教室を出た瞬間に「はぁ」とため息をついてしまった。

「次から英語の授業は絶対に忘れ物できねえな…」

と誰にも聞こえない独り言を呟き、いつも通り自分のクラスの教室へ戻っていく。自分の周りの空気が少し冷たく感じた。

「はぁ…一番前とかないわ…ラノベ読めねえ…」

隣のオタクも力なく肩を落として溜息をついていた。

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