第1話 異性の幼馴染に身長負けるのはカッコ悪い
青春とはなんだろうか。とよく俺は思う。
毎日グラウンドで声を出しユニフォームを汚して必死に甲子園や全国大会を目指すことなのだろうか。それともなんだかんだありながら苦難があったりなかったりして最終的に付き合ってカップルになり相手とイチャイチャすることなのだろうか。またはクラスの華やかなグループに属し学校行事に精を出し「ウェーイ」などと言っていることなのだろうか。もしもそれが青春だというのなら自分は青春していないことになるし、別にそんな青春はいらないし、とても下らないと思う。そして何より自分の青春はもうとっくに終わったのだ――。
そんなことを考えながら今日も自転車を走らせ通学していく。今日の日付は4月17日、暖かい日も少しずつ増えて過ごしやすい気候だが、まだ通学する時間は比較的ひんやりとしていて空気が自分の周りを包んでいる。自転車通学をしていると尚更だ。住宅街を抜け、少しの山に向かって登り坂を登っていくと自分が通う高校へ到着した。
俺が通う山野商業高校は、偏差値は48で1学年4クラス、1クラスだいたい40人前後3学年合わせても500人弱しかいない田舎の公立高校である。男女比はだいたい5対5で商業高校と言っても進学希望者が8割くらいで残りの2割が就職希望と言う感じだ。
そして俺がここの高校を選んだ理由は主に3つある。1つは家から自転車で10分弱という驚きの近さだ。そしてもう1つは勉強嫌いで高校受験の際あまり努力しなくても入れるレベルのところにしたいと思っていたからだ。最後の1つはいわゆる『五教科』をなるべく勉強したくなかったからである。国語数学理科社会英語この5つで得意科目というものがないし、好きでもないからだ。だから普通科に行くという選択肢は必然的なかったのである。
自転車を自転車置き場に止めてからだらだらと500メートルほど歩き、下駄箱で靴を履き替えていた。時刻は8時30分を回っていて登校する生徒で溢れており非常に騒がしく「おはよー!」とか「昨日のあれ見た?」なんて声が聞こえてくる。
そして階段を上がろうと視線を上に上げると眠そうにだらだらと階段を登っていく男子生徒が視界に入る。そのだるそうな後姿の人物に俺は話しかけた。
「よっ!」
「おっす・・・」
力ない返事をするこの覇気のない男子は
「なんでそんなに元気がないんだよ」
「昨日ラノベをまとめ買いしたんだけど、面白すぎてな…この章まで読んだら、この1冊読み終わったらと思いながら読んでたら外が明るくなって今に至る」
「さすがオタ介と呼ばれてるだけあるな・・・」
「オタ介言うな!」
オタクの祐介だからオタ介クラスのウェーイとか言ってそうな連中が付けたあだ名である。なんでそうなったかと言うと祐介が休憩時間にラノベを読んでいるとそのウェーイとか言ってそうな連中に絡まれてブックカバー外されて表紙を見られて・・・まあその後は想像が付くだろう。そこら辺のグループからはオタ介と呼ばれているというよりオタ介と言われていじられているって感じだ。祐介からすればまさに「お助け!」って感じだろう。
…今のはやっぱなしで。
俺ら高校2年生の教室は1棟校舎の3階だ。3階に辿り着いたときにいきなり背中を強めの衝撃と痛みともにバン!と鈍い音が聞こえてきた。
「秀おはよー!ついでに祐介もおはよう」
「おい!綾乃いてえぞ!」
「僕はついでかよ!?」
手荒い歓迎をしてきた女子は幼馴染のその2の
「秀って本当に一生あたしに身長勝てないかもね~」
「いきなりなんだよ。悪かったな162センチしかなくて」
今更だけど俺は佐野秀一。高校2年生で祐介と綾乃とは小学1年生からの腐れ縁で身長が男子のくせに162cmしかなくしかも成長期はほぼ終わっている。
「まあ、小学生のときなんてあたしより10センチとか15センチ小さかったんだし頑張ったほうなんじゃない?」
とすごく見下された感じで言ってきたのでこちらも反撃に出ることにした。
「そうだな。綾乃は他の女子より身長が成長してしまった分、どことは言わないけどまったく成長しなかった部分があるもんな。どことは言わないけどな!!!」
「死ね」
「まあまだワンチャンあるかもしれないし自分を信じてろ!そこで諦めるなよ、もっと熱くなれよって多分あの暑苦しい人なら言ってくれるはずだから」
「秀、それ以上言うとスナップの効いたビンタするけど心の準備はいい?」
綾乃は笑顔で言ってるけど目が笑っていない。おそらく次言うと顔の頬あたりが腫れ上がるレベルのビンタが飛んできそうだ。
「おい!邪魔して悪いが2人ともそこまでにしとけよ。もうそろそろ予鈴が鳴るぞ~」
「祐介いたんだ」
と綾乃の一言に祐介は
「ひどくね!?てかさっき挨拶したよな???」
「あ~そうだっけ?秀のついでに挨拶してたから忘れてたごめん。んじゃあ教室戻るね」
そう言って綾乃は2-Aの教室に向かって歩いて行った。
「まあ、オタ介が空気なんていつもの事じゃねえか気にするな。俺らも教室行くぞ」
「だから、オタ介言うな!」
はっきりとした口調で祐介はそう言った。どうやら本当にオタ介と呼ばれたくないらしい。
そして俺と祐介は2-Dの教室へ入っていった。
…やっぱアレだな。男子は身長ほしいよな。
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