第7話・バレバレUnbeliebable!

 放課後の屋上、時は夕暮れ日の落ちる頃。俺は女子生徒と一緒にいます。


 はい、大変嫌な予感がしてまいりました。俺もね、あの時は焦っていたんでね?人はいないって思いこんでいたんだけどね。よく見たら校舎に入る建物の上ね、あそこ見落としてたね。




 だが終わった訳じゃない!




 上から見下ろす形なら完全に本人と断定することは出来ない可能性が無い訳でない。別にばれたからってどうにかなる訳では無いけど、今の状況、具体的には人類の味方扱いされていない現状でばれるのはちょっとしんどいんじゃないだろうか?




 誤魔化せるだけ誤魔化さないといけない。




 大人の話術舐めるなよ、15の小娘くらい会話で煙に巻いてやる。出来なかったらどうしよう。




「あんたさぁ、こないだ変なのがグラウンドに入って来た時屋上に上がって来たよね?」




 来た、来たぞぉ。間違えるんじゃないぞ、俺。俺は来てない、俺は帰ってた、だから知らない、ナニモワカラナイ。




「いや、知らないな。あのとき俺はもう帰っていたし、あの不審者について知ったのは翌朝学校でだよ。ここで何かあったの?」




 いかん、掘り下げるな。ある程度目星をつけて俺の所に来てるんだから、何かあったのを知ってるから俺を呼んだんだよこの子は。具体的には俺の転身する所を多分見てるんだよこの子は!




「私あの時丁度あの上で寝てたんだよねぇ。そしたら爆竹みたいな音がして、そんで様子を見てたら誰か大慌てで屋上に来た訳。そしたらそいつ叫んで変身してグラウンドに跳んで行ったのよ。信じる?」




 見てたか~、やっぱり見てたか~。しかも一部始終かぁ~。




「変なビームを撃った後、ここに戻って来て元の姿に戻って校舎に入って行った。」




 見てる、超見てる。校舎に入った所を見たって言う事はまず間違いなく顔も見られてる。


 屋上に戻った時には建物の上には誰もいなかった。降りて陰に隠れて様子を伺ってたのか・・・




 認めるか、いや、まだ粘れるか。犯罪でもその罪状が確定するまでは容疑者だ、犯人じゃない。別に悪い事をしている訳では無いが早くないか?バレるにしたってもっとこう何かあってもいいんじゃないか?ていうか何で顔も名前も知らない女子生徒にバレちゃう?




 決めた、誤魔化す。あ、でも・・・




 高校生なんてまだ子供と言ってもいい所がある。何分一年生、この間まで中学生だった訳だ。


 どうしよう、全力で否定したとして、腹いせに言いふらされたりでもしたらそれはそれで詰みそうな気がするんだけど。




 いや、流石にそれは無いでしょう。そんな事をすれば痛い奴扱い待ったなし。多少胸は痛むがここは涙を呑んでもらいましょう。




「へぇ、ていうと鎧の不審者はこの学校の生徒って事?面白い事をいうね。」




 僕じゃない誰かがそうなんですねぇ、と言った風に言ってみる。飽くまで俺じゃない、他の誰かなんだという事にしてくれ。今のこの状況だとばれる訳にも行かないんだ。


 そりゃ屋上で変身して怪人を倒した奴の正体を見れば問いただしたくなる気持ちは俺にだって分かるさ。でもテレビじゃ俺も怪人サイドなんだよ。こんな状況で怪しまれたくはない。




「うん、面白いでしょ。」




 お、何だ?笑顔が可愛いじゃないの。前に出した手に持ってるのは何?おぉ~、広げて見せる。


 うん、これはアレだね、俺の生徒手帳だね。ノーデの影響で目もいいからね、俺。ばっちり見えてるよ。




「屋上に来た生徒が落としていったんだよね、これ。誰のだと思う?」




 ほっほ~う、そう来る?




「あ、昨日落とした生徒手帳。どこ行ったか分からなかったけど、君が拾ってくれてたんだな。ありがとう。」




 うっかり落とした俺のミスが決定打か。




 まぁしかし、ここまで証拠を揃えて自分の口から言い出さないって事は、俺の口からそうだと言わせたいんだろうなぁ。


 少しふくれっ面になってるのは可愛いけど、認めてしまっていいものかどうか。まぁ、どうせばれてはいるんだけど。




「なぁ、もしそうだったとしてさ。君は何がしたいんだ?」




 遠回しに聞いてみる事にした。脅して金でも強請るのかとも思ったけど、どうもそういう感じじゃない。言葉から感じるのは遊びの雰囲気だ。


 いや、それも違う。ソワソワしたと言うか、落ち着かない感じ。




 何かを待っているかの様な・・・




 彼女は少し言い淀んで、手を後ろに回した。夕陽の所為か、顔が少し赤く見えた。




「もしヒーローが本当にいたとしたらさ、会ってみたくならない?」




 さっきまでとはうって変わって小さな声だった。しかしそうか、ヒーローか。


 俺は少し上を向いた。彼女がなんで待ち望んでいるのか、それは俺には分からない。けれど待ち望まれたなら、その姿を現すのがヒーローだって俺は知っている。




 俺は少し頭をかいた。そして一拍置いて言う。




「あぁ、そうだよ。俺があの鎧の怪人だよ。」




 彼女の顔がパァっと明るくなる。俺はこの顔を知っている。怪人が現れ、周りの、自分の命が危なくなった人達。そんな人たちを助けるために転身した俺が現れると、皆一様にこの顔をする。




 彼女は多分、俺の事を言いふらしたりなんかしないだろう。彼女はただ待っていただけだった。暮れなずむ校舎の屋上で、俺は一人の少女と出会った。

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