第5話・初戦闘Victory!

「ファーハッハッハ!愚かな人間共よ、聞けい!我らは悪の秘密結社エクスキューショナーズ。新たな地球の支配者として名乗りを上げた者達だ。」




 黒い衣装を着たマスクの男が陽気に口上を述べる。最初はあんな感じでシレっとテロを行っていったのかと思うと腹立たしい。まるでギャグや冗談のような口ぶりだが、戦闘員が持っているマシンガンは本物だし怪人は殺す気満々で生徒を物色している。




 俺は今空中だ!




 そして怪人の足が止まった。どうやら悲劇の被害者第一号を決めたようだ。怪人の目の前には鵜飼先輩。どうやら殺されると言う運命は変わっていないらしい。怯える先輩をニヤニヤしながら眺める怪人の姿は見ていて本当に腹立たしい。




 だが、その運命は今変わる。俺が変えてみせるのだ。




「待てい!」




 大声で叫び、その直後着地する。衝撃で砂煙が起こり、声と共に周囲が一斉に俺を見た。




「む、貴様は何者だ。」




 俺の姿を見てマスクの男が俺に問う。今の俺の姿はノーデ。傍から見れば怪人と思われても致し方の無い姿だ。しかしエクスキューショナーズでは無い。マスクの男もすこし驚いている事だろう。




「貴様たちに名乗る名前は無い!エクスキューショナーズ、俺は貴様らの野望を阻止する!」




 名前は別に教えてやらなくてもいいだろうと思った。姿や能力は戦えばある程度分かってしまうから仕方ないとは言え、こちらからわざわざ相手に情報を与えてやることはない。




「エクステンドフィンガー!」




 手を戦闘員たちの方に向ける。すると俺の指が伸びて戦闘員たちのマシンガンを次々と破壊していく。マシンガン位じゃノーデには効かないが、痛い事は痛い。それに流れ弾が当たれば生徒たちはただではすまないだろう。




 見た目は白を基調とした鎧の大男に見える俺だが、体に仕込まれたギミックはどちらかと言うと怪人寄りだ。今伸ばした指も技名っぽくいっているからそれらしく見えるが、実際はただ本当に指を伸ばしただけ。


 中身を調べたわけでは無いから詳しくは俺自身分からないが、ノーデの体は生命体だ。しかもかなり強力な。その上に鎧がオンしているから格好良く見えるのだが、多分中は結構グロいんじゃないかと思っている。




「な、何をしているランペイジャー!女子高生に見入ってないで早くこいつを何とかしろ!」




 サイ頭に見えたから一応そう呼んでいたが、そうかコイツはランペイジャーと言うのか。意外と立派な名前貰ってるんだな。


 だがしかし、何者が相手でもエクスキューショナーである以上手加減はしない。今のお前たちはまだ誰もその手にかけてはいないのかもしれない。しかし俺は既にお前たちに大切な人たちをあらかた殺されている。


 矛盾していると思うか?しかし矛盾はしていない。何故なら俺が負ければ、その未来が再びやってくるからだ。




 俺の前に怪人が立ち塞がる。やる気は十分と言った所だ、鼻息も荒い。だが俺としてもそれは同じ。思わず全身に力が入る。おそらく今俺の赤い目は爛々と光り輝いているのだろう。




「死ねい!」




 怪人ランペイジャーは見た目通りの怪力を有しているのだろう。腕力に任せて殴りにかかった。


 しかしそれを真面目に受けてやることは無い。ヒーローショーならばいざ知らず、これは命を懸けた戦いだ。わざわざ敵の攻撃を受ける事に何の意味も無い。




「ぬぅ。」




 真っ直ぐ打ち出した拳が空を切ったのに驚いたか。


 怪人の拳は確かに鋭かった。しかし所詮は力任せの攻撃。ノーデとなった俺の動体視力で避けられない速さでは無かった。




「ふんっ。」




 お返しとばかりにジャブを打つ。これは怪人の顔に命中するがさして効いている風でも無い。初期の強化も十分に行われていないとはいえ怪人は怪人。身体の強度は中々のものと言えるだろう。今はまだこの程度の力しか持っていないのだろうがその差も埋まっていくはずだ。


 怪人たちを矢継ぎ早に仕留めていかなければ順当に強化されて行ってしまう。少なくとも目の前に現れた怪人は必ず始末しなければならない。




 初期の怪人は人間でも武器・兵器を駆使すれば犠牲の上に倒すことが出来る。しかし強化されればそれも叶わない程強くなってしまう。




「喰らえ、怪人!」




 身長2メートルを超えるいわば超人同士の戦い。しかし現時点ではその実力差は明白だ。この怪人はなんだかんだ言ってもこれが初陣。しかし俺は既にエクスキューショナー相手に十年戦っているのだから。




「ぐぅ、馬鹿な。怪人として人間など及びもつかない力を持ったこの俺が、なぜこんなに一方的に。」




 距離が開けば相手は詰めるしかない。しかしエクステンドフィンガーを避けながら近づくのはこの怪人には至難の業だ。遠距離攻撃手段を持っていないのだろう。


 エクスキューショナーとしても力のチラ見せ位が目的で連れて来たというのもあるのだろうし、何よりいきなり強いのを見せびらかしたくも無かったんだろう。こいつは未来でも見た事が無い。おそらく人間に退治されている。




「悪いが時間をかけたくない。早々に始末させてもらう。」




 現時点でのエクスキューショナーの怪人の力。これが全てでは無いだろうが一応測る事が出来た。これ以上はもう良いだろう。これ以上時間をかければ警察がやってきてしまう。そうすればエクスキューショナーも勿論の事だが、俺まで不審者として捕まってしまうかもしれない。




 可能性は、ある!




「はあぁっ!」




 怪人ランペイジャーを引っ掴み、上空に投げ飛ばす。ノーデの腕力ならば造作もない事だ。


 怪人殺害に当たり気を付けないといけない事がある。それは死体を残さないという事だ。死体を持ち帰られて何かしらに使われると面倒が増える場合もあるだろう。なにせどんな技術を保有しているのか解明できている訳では無い。念には念を入れておかねば。




「メガ・ブラスター!」




 胸部の装甲がスライドして中から銀色の宝珠が現れる。これはノーデの力を収束して撃ち出す発射口だ。俺は空中に投げ飛ばされた怪人に向け高密度のエネルギー収束砲を撃ち出した。




「そんな、こんな奴がいるなんて聞いてない。俺は怪人になって、クソみたいな人間を片っ端からぶっ殺して・・・・・」




 ジュッという音と共に怪人ランペイジャーは燃え尽きる。元々初期の怪人じゃ相手にもならないのは分かっていた事だ。しかし人間には荷が重い。弱い者いじめだとも言っていられない。今回は一方的な勝負になったが、じきに苦戦する事も多くなっていくはずなのだから。




「さぁ、次はどうする。エクスキューショナー・・・ず。」




 俺が振り向くとマスクの男も戦闘員もいない。どうやら怪人が吹き飛ばされている間に一目散に逃げたようだ。目的が果たせない以上確かにさっさと逃げるに限るだろうが、それにしても早い。敵ながら天晴れと言うべき所なのだろうか。




「誰も死んじゃいないよな・・・」




 小声で言い周りを見回す。こちらを見る目が怯えを隠し切れないが、多分俺に対する恐怖だろう。エクスキューショナーズが今回やった事と言えば精々が学校の壁を破壊した程度。確かに問題と言えば問題だが俺がやったことに比べれば大した問題じゃぁない。


 俺はと言えば指を伸ばしてマシンガンを砕き、怪人を殴り飛ばして投げ上げて意味の分からんレーザービームで焼き尽くしたのだ。脅威の度合いとしては高いだろう。一応助けに入った形にはなっているはずだが、誰か覚えているだろうか?




「むっ!」




 遠くからパトカーの音が聞こえる。このままここにいたらそれはもう面倒な事になるだろう。俺も早い所退散しなければ。


 俺は黙って転身した屋上へと跳び上がる。屋上まで上がって皆の視界から外れればそこから何処へ行ったかなんて分からないはずだ。すぐさま転身を解除して風見明に戻る。




 初戦は制した。誰も被害者はいない。ここからどうなるかは分からないが、幸先は良いように思えた。この調子でエクスキューショナーズを皆殺しにしていこう。明るい未来の為に。

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