第4話・放課後FirstBattle!

「明ももう高校生だし、携帯電話位持ってなきゃね。」




 母さんがそう言って持たせてくれた携帯電話は、折り畳み式の携帯電話。




 うわぁ、懐かしい。未来では各種情報を迅速に取りまわすためにタッチ操作の小型携帯端末が主流となっていた。縮小していく人間の勢力の中で、より多くの人が助かる確率を上げるためだ。19年前の携帯電話。高校生に上がったばかりの俺には垂涎の未来アイテムなんだが、中身の俺には途轍もなく懐かしいアイテムだ。




 確か高校は原則持ち込み禁止だったはず。忘れずにマナーモードにしておかないとな。




「あー!いいなぁお兄ちゃん。私も携帯欲しいなぁ。」




 唯に見つかった。確か唯はこの後父さんにねだって無事ゲットしていた記憶がある。未来だと携帯端末なんてそれこそ誰でも持ってるようなイメージだけど、今は2000年だ。当時は誰でも、と言う感じでは無かったな。高校生ぐらいなら皆持ってたけど。




 授業、正直甘く見ていた所があったのは反省しないといけない。当時はこれが当然の日常だったから何も思わなかったが、34歳の今なら分かる。学生って凄い。


 だって毎日勉強してるんだぞ!そりゃしてない学生だっているんだろうけど大抵の学生は勉強しているはずだ。一コマ50分でそれを6回、しかも全部違う教科。マジか?




 人生をやり直す機会を与えられたと言う意味で勉強はしっかりやっておきたい所ではある。しかしエクスキューショナーズの襲撃にも対応しなくてはならない。


 どちらが先かと言えば、当然エクスキューショナーズ撃退なのは火を見るよりも明らかだ。しかし欲を言えば学生生活も謳歌したい。調べてみたが博士の研究室は東京だった、ここ岐阜県だぞ!今すぐ連絡は絶対に無理だ。会わないと信じて貰えなさそうだし、だからと言って今すぐ東京に行く事も出来ない。




 具体的には夏休みにでもならない限り博士の所には行けないだろう。中間考査に期末考査まであるし。




 だから授業の時間を睡眠に充てるなどと言うとんでもない行動は出来ない。なるべく授業中に理解しものにしなければゆくゆくは支障をきたすようになるだろう事は想像に難くない。


 高い、ハードルが高い。高校生活を諦めればエクスキューショナーズ一本に絞れて楽にはなるだろう。だがもしエクスキューショナーズを撃退しつくした後に俺に残るものはなんだ?




 悪のいない世界にヒーローは必要ない。火事が絶対に起こらないのであれば、消防士は必要ないというのと同じだ。しかし火事は起こり得る、消防士は世界に必要だろう。じゃぁヒーローは?


 アイドルが引退して普通の女の子に戻りますなんてのとは話が違う。ヒーローが必要ない世界、つまり平和な世の中だ。身の振り方は考えておかなきゃならない。




 じゃないと平和な世の中にした俺が平和じゃなくなってしまう。




 せっかく父や母のいる世界でも、彼らを心配させてしまっては元も子もないんだ。中身が34歳という事もあってか現実的な思考が脳内を支配するが、まぁ当然の心配だと思う。




「さて、学校は終わりだ。今日は帰っておくか。」




 放課後は少し残って様子を見ている。部活動の最中に怪人が学校に乱入でもかました日には阿鼻叫喚の地獄絵図だ。被害者がどれ程になるのか想像もつかない。


 だからと言ってじゃぁ駅前にでも現れたらいいのかと言えばそうでもないんだが、身バレする可能性があるから学校では勘弁してくれ。SNSが発達しきっていないこの時代ならまだましかもしれないが、気を付けるのに越したことは無い。




 記憶ではそろそろどこかで初の襲撃があるはずだ。しかもこのT市内で。だからこそこんなにやきもきしているのだが。




 その時




 学校の壁が破られ何者かがグラウンドに乱入してきた。黒づくめの衣装を着た者に分かり易い機械の体の戦闘員。そしてその中でもひときわ大きい筋骨隆々としたサイの頭の大男。




 俺と言う存在が過去に来たことで何かしらの変動が起き襲撃場所が変わる可能性がある事は未来で博士に聞いてはいた。しかしよりにもよって学校?未来で戦った事によって因縁が生まれてしまったのか?分からないが止めねば。出来れば被害が出る前に、その為に俺は来たんだから。




 窓からは乱入してきた怪人たちに対しておそらく野球部の顧問であろう先生が注意か何かをしに近寄っていくのが見えた。


 止めて先生、逃げて今すぐ逃げて。殺されるから脱兎の如く逃げて!




 先生は戦闘員が手に持つマシンガンを足元に撃たれその足を止めていた。戦闘員ナイス!少しは分かってるじゃないかお前ら。未来では散々ぶっ飛ばして悪かったな。しかしその間も俺は走っている。窓をぶち破るのはいただけないし何よりまだ少し人の目がある。ここでは転身出来ない。




 轟いたマシンガンの音に皆その足を止め、教室にいた生徒たちもまたぞろ出て来て外の様子をみている。いや逃げろよお前ら!未曽有のテロ災害の現場だぞ!


 いや、エクスキューショナーズの襲撃は今この時が最初なんだ。危機感を持てと言うのが無理な話かもしれない。あいつらも見た目はヒーローショーだしな。




 そして俺は屋上に駆け上がる。良かった、誰もいない。俺は怪人たちの方に向き直り、右手を胸に当てて言う。




「転・身!」




 その瞬間俺の体が淡い光に包まれる。そして転身の掛け声と同時に俺は怪人たちの方へとジャンプした。眼下ではサイ頭が誰を最初に殺そうか品定めしているのか、足のすくんで動けない生徒たちをゆっくり見て回っている。危険だ。




 幸いまだ誰もその牙にはかかっていないようだ。転身した俺はノーデ。悪の秘密結社エクスキューショナーズを葬る事が出来るこの世界でただ一人の男だ!




「・・・マジで?」




 屋上の扉上で寝ていたのだろう何者かが身を起こし風見を、いやノーデを見る。風見は慌てて跳んで行ってしまった。屋上からノーデを見るこの人影に気付くことなく。

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