第3話・初登校Adventure!
妹の唯は自転車に乗って行ってしまった。中学校は少し離れているものの自転車なら数分だ。しかし、俺が行く高等学校はそうは行かない。電車一駅、そこから徒歩30分だ。
既に場所もおぼろげだったが、同じ制服の人が歩いて行くのを辿って何とか到着した。県立T高等学校。桔梗が丘に立つこの学校は住宅地の真ん中だが、昔は桔梗が咲き誇る場所だったのだろうか。今はその面影はないが。
今日から高校生と母は言った。家を出る前にカレンダーを確認したが、今日はおそらく入学式だ。入学式ってどんなだったか、全く覚えていない。なんていうかこう、体育館でやったのは覚えているんだけど、何せ記憶の彼方だから・・・
今の俺は15歳だし、ついでに言うなら西暦2000年だ。おかしな言動をしないように気を付けないといけない。
入学式はやはり体育館で執り行われた。今は校長先生が新入生に向けて言葉を並べているが、これからしなければならない事と変な緊張で正直頭に入ってこない。そうか、今更だけど俺高校生活を送りながら世界を守る戦いをしなくちゃならないのか。
「なぁ、お前、名前は?」
隣の少年が話しかけて来た。おそらく校長先生の話の退屈さに耐えかねたんだろう。今まで考え事で頭がいっぱいで周囲に全く気が行ってなかったが、おぉ、この少年は若かりし日の加藤じゃないか。まぁそれを言ってしまうと俺だって若かりし日の風見の筈なんだが、俺の顔が常時俺の目に映っている訳では無い。だから正直あまり実感が沸かない。
「あぁ、俺は風見だ。宜しくな、加藤。」
「あぁ、宜しく。あれ?俺ら前会ったっけ?」
しまった、加藤の事を知らないはずの俺が加藤の事を初対面で加藤と言ってしまった。そりゃ未来から来た俺は当然加藤の事を知っているが、それは今日出会ったからだ。誤魔化さなければ。
「いや、俺風見だからさ。一個後ろだったら加藤かなって思って言ってみた。合ってた?」
いやぁ勘で言ってみましたわー感を出してみた。これなら高校入学でジャブ代わりのユニークな挨拶風に受け取れない事も無い筈だ。俺だけなんか妙に擦れてしまってる感じがして心苦しいが。
いや、しかしそれは仕方ない。だって34歳だもの。肉体は若返ったとしても心はどうしようもない。
入学式が終わり、自己紹介もそつなく終えた。俺からすれば懐かしい面々だ。正直顔と名前が一致しない所か全く覚えてないクラスメイトもいるが、これから覚えればいいだけだ。
さて、帰ろう。
エクスキューショナーズの初襲撃はもう少し後の筈。俺としても久方ぶりの高校生活に少しでも慣れておかなければならない。
そうして教室を出ようとした所、入り口で女生徒とぶつかりそうになってしまった。身を翻してかわしたが、その女生徒の顔を見て俺は思わずつぶやいてしまった。
「あ、鵜飼・・・さん。」
とっさにさんを付けたがまたやってしまった。彼女は鵜飼 文子。何を隠そう高校時代の俺の初恋の君だが、エクスキューショナーズ襲撃の際に巻き込まれて死んでしまう。未来があんなだから仕方ないんだが、将来的にここにいる殆どの生徒たちは殺されるか行方不明だ。そこまで酷い未来だからこそ俺は過去に戻って来たのだ。
彼女は確か、そうだ。部活の勧誘で来るんだった。一つ上の二年生だから聞き返されたら加藤と同じ手は使えない。耳に届いていない事を願うばかりだが。
「あ、ごめんね?ぶつかってない、よね?」
はい、ぶつかってません。
良かった、どうやら聞こえてはいなかったようだ。鵜飼先輩は文芸部の勧誘の為チラシを持ってきていた。が、適当に置いておくに留めて足早に出て行ってしまう。当時は日陰者のイメージが強い文科系の部活だ、実際新入生が相手とは言えゴリゴリに押していくなど出来ないだろう。
一年生は何処か一つの部に所属していないといけなかったはずだ。文芸部なら活動内容もそうアクティブでは無いし、隠れ蓑にするには丁度良さそうだな。少なくとも部活が忙しくてエクスキューショナーズの襲撃に対応できませんでしたとかいう失態は犯さずに済みそうだ。
しっかし
周りに若い高校生しかいないこのシチュエーションとロケーションはなかなかに疲れる。体力的な問題ではなく、気疲れする。新しい高校生活への憧れみたいなテンションも加わって何かこうキラッキラして見える。年を取ったのを感じるな。
「お、風間。帰るんだったら一緒に帰ろうぜ。」
振り返ると声の主は加藤だった。まぁ登校初日にいきなり一人で帰らなくてもいいか。
「あぁ。駅前のラーメン屋でも寄っていくか?」
時刻は昼を回った所だし、丁度いいだろう。あそこのラーメン屋は高校時代の行きつけだった。誰に教えて貰ったんだったか。
「あぁ、あそこか。俺あそこのラーメン屋良く行くんだけど、お前も?」
加藤だったか。
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