第2話・二度目のHighSchool!

 ジリリリリリリリリ!




「うおぉ、うるせぇ!」




 ビックリして思わず音の出る場所を殴り飛ばしてしまった。そうか、これは目覚まし時計だったか。


 どうやら寝ている状態で融合したらしいな。寝ている所を未来の自分に乗っ取られるなんて、俺の事を俺が言うのもなんだがあんまりだ。事が終わったら博士に相談した方が良いのかも知れない。




「うん、ちゃんと転身装置も動いてるようだ。これなら戦える。」




 自分の胸に手を当てると、心臓とは別の脈動を感じる。外なる世界の肉体を呼び出すこの装置は、当然転身の際の心臓部だ。




「ご飯よ、明。下りてらっしゃーい。」




 階下から声がした。聞き覚えのある女性の声、そう、母だ。




「お早う、母さん。父さん。」




 階段を下りて居間に入ると、そこには若き父と母がいた。未来では二人ともエクスキューショナーズによって殺されている。俺は思わず目頭が熱くなるが、いきなり泣き出すわけにはいかない。


 本当なら今すぐ二人に抱き着きたい所だが、いきなり抱き着いたら変に思われるだろうしな。




 ん?ていうか。




 二人ともいやに若いような気がする。いや、若いのは当然だ。俺は装置によって19年前に来ていることになる。父も母も、19年前の姿なのは当然だ。


 確か、父と母はお互い二十歳の時に学生結婚をしたのだと亡くなる前に聞いた事があったな。


 19年前の俺が15歳。とすると20を足して・・・35歳!?




 ば、馬鹿な!1こ上じゃないか。感動的な母の手料理も今はそれどころじゃない。年齢的には父と母と言うよりは兄と姉じゃないか。「あれ?お前ん家姉ちゃんいたっけ?」が地でいけるじゃないか!いや、落ち着け。今の俺は15歳、15歳なんだ。




 待て、そういえば俺には・・・




「パパ、ママ、お早う。あ、お兄ちゃんもお早う。」




「唯・・・」




 17歳で死んだ妹の唯。死んでから15年も経っていたんだなとしみじみ思う。忘れた事があった訳ではないけれど、もう顔を見る事は叶わないと思っていた。




 目の前にいるのは、13歳の時の唯だ。




「あぁ、お早う、唯。」




 やはり目頭が熱くなるのを必死でこらえる。エクスキューショナーズに殺された俺の家族と、今こうして再び食卓を囲める日が来るなんて。そんな日が来るのは、俺が死んだ時位だと思っていた。




 この奇跡を、再び壊させる訳には行かない。




 俺に課せられた使命が、さらに大きく燃え盛るのを感じる。この可愛い妹を、優しい父と母を、そして世界を、悪の魔の手から必ず守らなければならない。




「二人とも早くご飯食べないと、学校遅れちゃうわよ。」




 母が微笑んで言う。写真で見た笑顔そのままだ。遠い記憶の中にも残っている。


 待て、学校?




「今日から唯は中学生、明は高校生なんだから、しっかりしなきゃダメよ?」




 そうだ、この頃はまだ学校があったんだ。全部破壊される世界なら無視してエクスキューショナーズを倒すことにまい進していればいいが、俺が世界を守るとなるとそう言う訳にも行かない。


 世界に未来がある様に、俺にも未来があるはずなのだから。




「ご、ごちそうさまでした。」




 言うが早いか俺は自分の部屋に駆け上がる。そして見た、ハンガーにかかる俺の制服を。




「・・・着るのか、これを。」




 ブレザー。俺が高校生の時の制服だ。外見的には全く問題無いさ、外見的には。


 しかし見た目は15歳のピュアボーイだが、中身は34歳のどうひいき目に見ても若くはない男性だ。この現実が俺の肩に重くのしかかる。


 大学の学際で高校生の時の制服を着て売り子をやってる学生を見た事がある。というかそういうのは結構あった。その時同じ学生だった俺でさえ「おいおいマジかよ」みたいな感想を持ったのを覚えている。




 今から俺がやろうとしているのはそれよりも更に「おいおいマジかよ」なんだ。




 違う意味で目頭が熱くなる。悪の秘密結社エクスキューショナーズと戦う前に目の前のブレザーに負けそうだ。心が折れてしまいそうだ。私服が許されている学校を受験するべきだった。




「それに・・・」




 鞄には当時ハマっていたのであろうアニメの缶バッジ。


 昨日までの俺ぇぇぇぇぇぇ!




 あぁ思い出したよ。確かに当時このアニメにドはまりしてたさ。でもだからって登校初日に着けて行くかそれ?いや行ったわ、そして周りにドン引きされたわ。2000年問題が落着したそばから新たな問題が浮上してたわ。




「お兄ちゃーん。早くしないと遅刻しちゃうよー?」




 うぅっ、確かにいつまでもこうしている訳にはいかない。心がモヤモヤするのは否めないが登校初日から遅刻してはいけない。俺は意を決してブレザーを着て取り合えず缶バッジは外した。




「行ってきます。」




 そして俺は唯と一緒に家を出る。破壊されていない綺麗な街並みに感動を覚えながら。

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