終業式後
7月19日金曜日。本校では粛々と終業式が開催され、明日から始まる夏休みに向け、生徒たちが心躍らせている。流石に今回は研修生たちも本校に帰り、他の生徒たちと共に過ごす久し振りの時間を過ごしていた。
生徒たちは研修生たちの活動内容に一定の興味を持っているらしく、しばらく顔を見せていない菜津希や秀明は質問攻めに遭っていたりもしたが、そんな時間もあっという間に過ぎていった。
午後1時。研修生たちは土井先生の車に乗り、また寮へと戻っていった。夏休み中は基本的に研修はなく、お休みだ。しかし今日は農さんたちに挨拶をするのもあるが、終業式ならではの行事もあるので4人とも例外なく寮へともどった。
「コラ秀、サボってんじゃないわよ!」
午後3時。寮についた4人はさっそく、寮内の大掃除を始めた。4月から使い始めたこの寮も、4ヶ月も使っていると慣れてくるもので、どこに何があるのかも、どこが掃除しづらいのかも大体は把握している。
そして必然的に、窓や棚の上といった高い場所は男子が、水回りは女子がといった風に掃除の分担も適材適所に振り分けられていく。といっても、高所の掃除の方が肉体的にはしんどいのだが。
「お前なあ、窓の縁に登るのって結構体力使うんだぜ? ほんのちょっと休ませてくれよー」
フローリングに傷がつくので、室内に脚立を持ち込むわけにはいかない。しかもここは2階の窓。15mの高さだから余計に神経を使う。
「ホラ息吹を見てみなさい。もうあんなに窓を綺麗にしてるでしょ」
菜津希が指をさした先にいる晴間は、各自の部屋がある廊下の窓を拭いていた。
「そりゃあっちは地面があるし、普段から掃除してる場所だろ? しかもお前、ハルになにか吹き込んでただろ」
「別に~? 『掃除が出来た方が、玲ちゃんの負担も軽くなるんじゃない?』って言っただけよ?」
そうしたら、晴間のやる気と動きが格段に向上した。最近、彼女の名を出すと晴間は大抵の雑用をこなすということが発覚したので、菜津希はよくそう言って晴間をこき使うようになった。
っつーか、もう彼女と同棲する気満々なのかアイツは……。
「あんたも彼女でも作ればもっとやる気になってくれるのかしら?」
「うっさいわ。まずてめーの心配しろや」
最近特に(最初からそうではあったが)菜津希と秀明は、ことあるごとに言い争いをするようになった。仲がいいのか悪いのか、なかなかにグレーな感じだ。
その言い争いがうるさかったのか、窓を拭いていた晴間も手を止めて二人の様子を眺めている。喧嘩にまでは発展しないとは思うけど、事実として、言い争い中は二人とも掃除の手が止まっている。
「早いとこ自室の掃除がしたいから、二人とも掃除してくれ、とは言えない雰囲気だな……」
さっき、自分の名前が言い争い中に聞こえたような気がしたから、今割って入るのはその場の雰囲気を微妙なものにしそうだ。晴間は見なかったふりをすることにして、掃除を再開することにした。
そんな時、二人の間に布由が割って入った。
「おふたりとも、廊下の真ん中で五月蝿いし邪魔です。早くどいてください」
そういう布由の両手には、お風呂場のマットやカーテンといった、普段洗わない布がこんもりと入った洗濯籠が二つ。物干し場は、菜津希と秀明が言い争っていた場所のちょうど向こう側なので、確かに邪魔な位置だ。
「秀明さん、乾燥機の上を拭いたら終わりなので洗い場に行ってもらえますか。あと菜津希さん、一籠持ってください。流石に重いです」
「お、おうわかった、すぐ行くわ」
「あ、うんゴメン。こっち持つね」
ちなみに、寮内の清掃リーダーは布由だ。割と綺麗好きだというのもあるが、適材適所という言葉を一番理解し、実行できるのが布由だからだ。「手が届かない」を理由に堂々と人にものを頼めるというのも大きい。
秀明と菜津希はすぐに言い争いを辞めて、それぞれ新たな持ち場へ移動した。その様子を見守っていた晴間は、布由ってすごいなーと、小学生並みの感想を抱いた。
そしてすぐに、ヒデが担当していた窓も自分がやらないといけなくなったことに気づいて、深いため息をついた。
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