第6話

オーロラが消えてしまったあとの愛咲は、信じられないほど落ち込んでおり、俯いたまま顔を上げることはなかった。

 そして、そのままこちらへと向かって来て──

「ちょっ、洸くん正くん、こっちに来たよ!?」

「あーこりゃ、ヤバヤバのヤバだな」

「冷静に言ってる場合か! 今の内に──」

 離れよう、と、俺が言おうとしたその時、

「そこで、何をしているのかしら」

 彼女の。

 愛咲桜の声で、掻き消されてしまった。

「「「あっ──」」」


◆◆◆


 バレた。

 俺達が覗いていることがバレた。

 ……バレた。

 あたふたしている俺達を見つめる彼女は眉をひそめる。

「──見た?」

「何をでしょうっ!? 俺たちは何も見てないぞ! 仲村正野だけに何をでしょうってな! アハハ……」

 「じゃあ何でここにいるのよ」

 正野が大声で必死な声を上げるが、愛咲はそれに臆することなく、冷静沈着に問い詰めていた。

「いやー、それはそのー、……ハッ!」

 アハハと作り笑いを浮かべていた正野だったが、ふと、わざとらしく驚いた表情を浮かべると、

「実は体育館に忘れ物しちゃってな? なーっ!」

 急に誤魔化しだしたかと思うと、俺達にウインクをしてきた。

 どうやら、話を合わせろ、ということらしい。

「そうそうっ! 体育館のシューズ袋忘れちゃったんだよねー!」

「それで、体育館に入ろうとした所で愛咲とバッタリ会ったんだ」

「ふぅん……」

 俺達の言葉に、彼女は訝しげな視線を送る。

「……あのオーロラ、綺麗だったわね?」

 その愛咲の、普通なら罠と気づく言葉に、

「ああ、そりゃもう、めっっちゃ綺麗だった! でも一番好きなのは愛咲の足下にあった魔法陣──アァァァァァァァッッッ!」

 正野がそれはもうペラペラと喋ってくれた。

「馬鹿なん、なぁ馬鹿なん!?」

「幼馴染として一緒にいていいのか悩んできたんだけど!?」

 俺と遥が血眼になって正野に問いつめるが、

「待ってくれ! だって、美少女が上目遣いで笑みを浮かべつつ頬を赤らめながら『あのオーロラ、とっても、綺麗だったわね』なんて言われたら、首を横に振るすべがないじゃないか!」

「「妄想が酷いんだけど」」

 あまりの変態的な妄想に、俺たちは呆れるしかなかった。


「やっぱり。見てしまったのね」

 変態のせいで隠すことも出来なくなってしまった以上、もう誤魔化すのは無理がある。

「見てしまったものは仕方ないわね」

 愛咲は、先程から持っていた杖をこちらへと向け、杖の先端から、一際大きな光を出現させると、

「ここで、記憶を消させてもらうわ」

 その光が、とてつもない速さで俺達の方へと向かってきた。

「えっ、なにかこっちに来たよ!?」

「コートさん、ごめん、盾になってくれる?」

「ぶっ飛ばしてもいい?」

「嫌だ。……ああぁぁぁっ! たまたま手が滑ってたまたまコートの裾に手がっ!」

「ちょいちょいなあそれが友達にすることかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 なんと、正野がわざと俺の制服の裾を掴み、盾となるよう、前へと投げたのだ。

 いつか絶対覚えとけ。

 そして前に出たと同時、その光は俺にぶつかってしまい────!



 ────の前に、俺の目の前で、何事も無かったかのように消滅してしまった。



「「「「……えっ?」」」」

 その場の全員が、声を合わせた。

 そう、全員が。

 俺達だけでなく、なぜか光を放った愛咲でさえ、同時に呟いていた。

「えっ? ……どうして?」

 慌てながら右往左往する愛咲。

「いや、まさか、何かの間違いよ……」

 彼女はブツブツと呟きながら俺を凝視する。

 そしてもう一度、光を俺に向かって打ってきたが、先程と同様に、俺の目の前で消滅してしまった。

「ということは、あの時感じた違和感って、やっぱり……」

 なおもボソボソと呟く愛咲に、後ろにいた二人は、お互いに頷くと、俺の前に出て──

「「確保ーーっ!」」

「えぇぇっ!?」

「ちょ、ちょっと何するの!?」

 ──中学校生活一日目放課後。

 ……謎の美少女を、捕まえた。

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