第5話

まだ中学校一日目なので、今日は二時間で下校することになっている。

 が、しかし、放課後、校門の前で待つことになってしまった。

 何故そんなことをしなくてはいけないのかというと──


「ねーねー、正野くん」

「なんだい、コートくん」

「何を校門で待つっていうんですかね!?」

「もちろん、美少女さ!」


 正野の美少女探しを手伝う羽目になったのだ。

 ……殴ってもいいかな。

 正野は手当たり次第に女子生徒に話しかけ、


「あなたと付き合いたいんですけど」

「ちょっと運命の人ですね貴方」

「好き!」


 などと、視界に入る女子生徒に、おぞましいほど話し掛けていた……。


 一時間後。

 静まり返った校内で、正野は尻目に涙を浮かばせながら体育座りをしていた。


 結果は全員NO。

 ……まぁ、当然といえば当然だが。


「うっぐ……何で、みんなごどわるんだよぉ!」

「よしよし、正くんが悪いよー」

「慰めてくれなねぇのかよ! はぁ、テンション下げ下げの下げだよ・・・」

「「何その言葉」」

「今作った言葉…………よっし、こーうなったら!」

 体育座りで座っていた正野はスックと腰を上げ、

「次は先生の所へ行こうか! うん!」

 先程までの悲しい顔はどこへやら。

 笑顔で職員室へと繋がる通路へと歩みを進めようとしていた。


 そこで、俺と遥はすかさず、アメフトのタックルよろしく、正野の腰を掴んで止める。

「駄目っ! 正くんのせいでこれ以上、学校生活に支障をきたしたくないから!」

「俺達の三年間が危うくなるんだよ!」

「嫌だ! 俺は職員室へ行って美人な先生と付き合うんだっっ!」

 などと、傍から見ると『何してんのこの人達』的な行動を繰り広げていると、


『お──い!私────に──して!』


 どこかから、微かに声が聞こえてきた。

「何の声……?」

「女の子かな……?」

「何だか、すげー必死な声だったな」

 先程まで意気揚々としていた正野も、必死で止めようとしていた遥も、どこかから聞こえてきた声に気がついたらしい。

「遥も、聞こえたのか?」

「うん、聞こえたよ。多分、声の方角的に体育館からだと思う。……正くんも聞こえたよね?」

「ああ、ハッキリと。……にしても、こんな放課後にまだ生徒っていたっけか?」

「いや、さっき正野に思い切り断った生徒で全員のはず……」

 俺と正野がうーむ、と考えていると、遥はハッと目を見開いた。

「待って、愛咲さんは!?」

「「あっ!?」」

 すっかり忘れていた。

 正野の全クラスの女子に話しかけにいく、っていうインパクトが強すぎて……。

「じゃあ、さっきの声って……愛咲さんなのかな?」

「何かあったのか、愛咲のやつ……?」

「……まぁ、考えても分からないし、とりあえず行ってみよう」


◆◆◆


 声の聞こえてきた体育館へと着き、体育館裏をそーっと覗くと、遥が言っていた通り、愛咲がぽつんと立っていた。

 しかし、何やら彼女は不穏な顔つきで、何かを警戒しているのか、キョロキョロと辺りを見回していた。

「やっぱり愛咲さんだったんだ!」

 覗いていた遥が小声で呟く。

「やっぱり帰ってなかったんだな。……にしても、こんな所で何やってんだ?」

 正野も首を傾げながら、愛咲をじっと見つめていた。

 確かに正野の言う通り、こんな時間にこんな所で何をやっているのだろうか。

 まるで何か隠し事でもしているかのような──


「もう……どうしたらいいのかしら」


 俺達が見つめていると、突然、半ば投げやりのような声色で彼女が呟いた。

 すると、だんだんと表情が悲しげになっていき、

「一体、いつになったら、私は……っ!」

 尻目に涙を浮かばせ、苛立ちを含んだ声で叫んだ。

 ……なんだろう、見てはいけないものを見た気がして、罪悪感に苛まれてきた。

 俺たちは興味津々で彼女を見ているが、なにか事情があってここにいるのかもしれない。

 正野と遥も、俺と同じ事を考えたのだろう。

 いつもの明るい二人からは考えられない様な、困惑した表情を浮かばせていた。

 ここはバレないようにそっと離れよう。

 そう、俺達が目を配りあって頷いた時、


「こうなったら、当たって砕けろよ!」


 吹っ切れたのか、いきなり大声で叫び出した愛咲。

 何事かと、俺達は再度彼女を覗いてみると、



 何も無い空間から、いきなり杖を取りだした。



「「「えっ!?」」」

 俺達が驚いているのも束の間、彼女は、桜の花の飾りが散りばめられているその杖を両手で持ち、杖の底を地面へ思い切り叩きつけた。

 すると、彼女を中心に、たちまち地面から大きなピンク色の魔法陣のような物が出現し、その魔法陣の上空には昼の明るさでも分かるほどの明るいオーロラのような物が現れて……。

彼女は、思い切り叫んだ。


「お願い! 私を──天界へ帰して!」


 すると、その地面の魔法陣と空のオーロラのような物は眩いほどの光を発し始めた。

 そして、目が空けられなくなるほどまでに光は強まっていき──

 突如、バリン! と、ガラスが割れるような音が鳴り響いた。

 何事かと音の聞こえた上空を見つめてみると、上空に浮かんでいたオーロラのような物が徐々に薄れていき、消えてしまっていた。

 そして、地面に出現していた魔法陣も消えていき、残ったのは、

「また失敗したわ……。一体、いつになったら、私は……」

 肩をおろし、絶望した声で呟く愛咲のみとなってしまった。

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