第3話

 しばらくして。

 俺達は、一年一組へと続く廊下を歩きながら、先程のピンク髪の彼女、愛咲あいざきさくらについて話していた。

「あのピンク髪の愛咲って人、すごい綺麗だったよな。俺の運命の人だねこりゃ。」

「気持ち悪い、正くん」

「おい正野、遥が軽蔑の眼差しで見てるぞ」

「え、マジで!? 大歓迎!」

「「うわぁ……」」

「ぐっ、心が痛い! 人の心を踏みにじって楽しいのか、この悪魔!」

「さっき軽蔑されて大歓迎って言ってただろ」

「んー記憶にございませんねー」

 そうして、小学校の頃と何ら変わらない、他愛もない会話を続けていると、


「あの男子、超イケメンだね!」

「ねー、爽やか系っぽくてタイプかも!」

「なあ、あそこの女子すっげーかわいくね?」

「うお、確かに! 声かけてみようかな?」


 周りの生徒たちが、こぞって二人を見つめようと顔を覗かせていた。

 すごい視線だな……。

 ……でもまぁ、無理もないのかもしれない。

 正野は、爽やかな顔つきのイケメンで運動神経が抜群。

 そして遥は、容姿端麗、成績優秀を兼ね備えた完璧美少女。

 見惚れない方が難しいという物だろう。

 ……しかし、二人はさほど気にならないのか、それとも慣れているのか、

「あれは一日でファンが作られると見たね」

「あれほど綺麗だったらねー」

 周りの熱い視線を集められてもなお、愛咲の件で盛り上がっていた。

「ねえ、洸くんはさっきの子についてどう思う?」

「え? あ、うーんと……」

 遥に聞かれ、少し渋る。

 確かに、あの愛咲っていう人はとても綺麗だったし、あれだと本当に一日で人気を博しそうだ。

 しかし俺は、二人とは違った感情で心の中が支配されていた。

 ……でも。

 この気持ちはおかしいだろうし、何よりの証拠に、二人は一片たりともそのことについて言っていない。

 でも……試しに聞いてみるか。

「なあ、二人は何も感じなかったか?『綺麗』とか以外に」

「「可愛い!」」

「うん、分かった」

 これは二人とも思っていないな。

 やっぱりこの気持ちを感じてるは俺だけなのか。

「そういうのもあるけど──」



「何だか、妙に神々しくなかったか?」



「「───え?」」

 二人はほぼ同時に声を揃えると、俺をじっと見つめて、しばらく黙り込んだ。

 そして、またしばらくすると、

「「もしかして・・・早めの中二病に目覚めちゃった?」」

 本気で心配そうな面持ちでこちらを覗き込んできた。

「そんな本気で心配しなくていいから! ……やっぱり、俺だけなのか?」

「うーん……冗談抜きで言うけど、そんなのは感じなかったな」

「私も正くんと同じ、何も感じなかったよ。綺麗だなーってだけかな」

「そっか……」

 やっぱり、俺だけだったのか。

 でも、一体どういう事だろう。

 いや、端に強烈な気持ち悪い思い込みという可能性も否定は出来ないが、でも、それとは桁みたいなものが違った。

 何て言えばいいんだろうか、こう、電流が流れ込んでくるような、そんな……。

 しばらくの間、その事について考え込んでいたが、考えても答えが出てくることは無かった。

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