■■書■グNo.5 鬼
No.5-1
『鬼』────よく伝承に登場するが外面はあまり定まっておらず、美男美女の外見をしている鬼や、角の生えた大男の外見をしている鬼もいる。内面も様々であり、人を喰らう鬼や地獄で亡者を責め立てる鬼、神として祀られる鬼など一概に定めることは出来ない。
【■■書ログ■o.5 鬼】
住んでいた町の最期は赤く染まっていた。
小さくて何もない平和な町だったが、その時は混沌の坩堝と化していた。往来の至るところに吐かれた血液、それに混じる内臓のかけら。苦痛から逃れようと井戸に頭から突っ込んだ女性。中身を出し切ってほぼ皮だけになってしまった赤ん坊。気が狂い爪で自身の首を掻き切った子供。町を歩けば血の臭いがしない場所は無かった。
日常が変わり果てた光景など、残された人達はいつまでも見ていたくなかったのだろう。大切な人達が為すすべも無く自身の腕の中で息絶えていく地獄を思い出すから。また、溶け崩れたような死体に蛆や蝿が集り、衛生面でも限界が来ていた。
最終的に家屋は一つ残らず焼かれた。
自分の家も、友達の家も、小さな学校も、よく寄った駄菓子屋も、母さんと買い物をした店も、思い出の全てが燃えて消えていく。町を喰らい尽くす炎を眺めながら、僕はずっと涙が止まらなかった。
町を襲った脅威の原因を、あれを寄越した人達は……あの凄惨な出来事を『事故』だと言った。
残された大人達は、僕へ口々に言った。
奴等を許すな。
恨みを忘れるな。
報復をするんだ。
一生消えない傷を刻み込め。
懺悔させろ。
後悔させろ。
必ず仇討ちをするんだ。
絶望を知らしめろ。
理不尽を覚えさせろ。
復讐を。
末代まで呪え。
頭の先から足の先まで全て呪え。
殺せ。
皆殺しだ。
人を殺す────鬼になるのだ、と。
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