第10話 マルくんの言環理
そこは王宮の一室。王の間ほどではないにせよ、豪華にかざられた部屋だった。調度品には複雑で細やかな細工がほどこされ、椅子の背もたれさえも、金紗でふちどられているほど。
その部屋の主の男の身なりも相応の物。はなばなしく、一目見てわかる高級な生地で、ていねいに仕立てられ、いくつものかざりボタンや刺繍でいろどられている。そのすべてが地位の高さを物語っていた。
そしてその男。肩の辺りで切りそろえられた灰白色の髪、口回りをおおう髭、深く刻まれたしわ。その顔つきは、賢者、と称したくなるような印象を与えている。そこまでは、この部屋の主にふさわしいたたずまい。
しかし、それは男の動きでだいなしとなっていた。
「くそ……ジョージ・ハクストンめ……何度要請してもはぐらかしてばかり……何を考えている……」
背を丸め、せわしなく部屋の中をうろつき、爪をかむ。口元からはぶつぶつと独り言がもれている。いらつく心中が部屋一面そこらじゅうにただよっている。
カリカリと爪をかむ音。歯がいくども当たり破けた指先の皮膚。つ…としたたる血のしずく。それを気にせぬ血走った目つき。狂気さえ感じさせる、その姿。
それはふだん、うまく心のうちに押し込めて周りには見せていない、彼の本性だった。
彼はグレン・ファレル。言環理師の頂点に立つ、灰の言環理師。
賢者のような印象も、あながちまちがいではない。頭が切れるのは確かだ。それが彼を、まずは王宮騎士団の頂点へと押し上げた。そしてさらには、すべての言環理師の頂点へと。
大陸中央の大国に対抗するため諸侯が手を組んだという国家設立の経緯から、この国の軍事力は今だ諸侯のもとに分散している。一つの大きな常設軍は存在しない。だが、外敵から身を守るための連携が必要なことは意識されており、そして軍事力の中核となっているのが言環理師の戦闘力のため、言環理師たちの連携組織は常設されている。それが言環理師協会だ。
その長にはただ実務的なリーダーというだけでなく、連携の象徴としての役割もある。いやむしろ、結局のところ協会会長が独占的な指揮権を持っているわけではなく諸侯の同意があって動くのだから、そのような象徴的、精神的な役割の方が大きい。だからこそ、言環理師の尊敬を得られる白の言環理師を頂点にすえる慣行が生まれたのだ。
だが先代の後、後継者候補の中には白の言環理師はいなかった。これ自体はめずらしいことではない。何代かに一度は起きる事態。それだけ白の才は希少なものなのだ。
ただ、このような時には、後継者は一筋縄では決まらない。なるべく近い才能、近い色を持つ者をつけようとはするのだが、簡単に一人にはしぼり込めない。そうして後継者争いが起きる。徹底した能力主義となる激しい競争の結果、むしろそういう代のときの方が有能な者が頂点に立つ傾向があるぐらいだ。
その結果、当代で生き残ったのが、グレン・ファレルであった。
前述のように頭は切れ、謀略に長けていたのが一つ。そして言環理の才にもめぐまれていた。言環理の色は灰色。白ではないがかたよりはなく、多彩な術を使いこなす。その技量が高い評価に結びついた。
そうして知略と競争の果てに頂点に立ったグレンだが、それで安寧の日々が来ることは、残念ながら、なかった。
あれだけ競った頂点は、ゴールではなかった。ここ十年ほど、彼をいらつかせる事態が続いている。
彼の代には見当たらず、苛烈な後継者争いにまで発展したというのに、次の代には白の言環理師が続々と生まれたのだ。
まずグレイブリッツの下の娘。もともとグレイブリッツ家は代々強力な言環理使いを生み出す家系で、その娘に才があることも確実だった。それが白だと早々に確定したのだ。
さらに、ロードフォートがどこかで拾ってきた馬の骨が、白の言環理の才を持っていた。
時を同じくして、赤子のうちから白の言環理師と確定する娘が出た。年齢と色、二重の意味でめったにない。これがとどめだった。
苦労に苦労を重ねたグレンにとって、本当に腹立たしいことだが、その結果、彼の立場は軽んじられるようになってしまった。白の言環理師が三人もいるのだから、彼が早々に退いて当然、という雰囲気になってしまったのである。
冗談ではない。
彼は戦災孤児とまではいかないが、決してめぐまれた生まれではなかった。その障害を乗りこえ、才覚をしぼり出すようにして、ここまで上りつめたのだ。その地位をおいそれと手放せるわけがない。
グレイブリッツの娘は、ただ有力貴族の血筋というだけで、まさにそのめぐまれた生まれにより力を得て、彼をおびやかしている。許せるものではない。
その点ロードフォートのエイバル・ロジェスは戦災孤児で、生まれに関しては共感できるところがある。だが、それだけで地位をゆずれるわけもなく、しかも会ってみれば、人を小ばかにするような糞生意気なガキだった。許せるものではない。
赤子のころから文字通り言環理の力をあふれさせていたメイ・ホワイトは、彼を一番おびやかした。戦災孤児の言環理師を育てているハービル修道院は、国内のどの派閥にも肩入れしないように気を配っていた。先にグレイブリッツ、ロードフォートに白の言環理師が現れていたことから、バランスを取るために王宮騎士団にその赤子を委ねるだろうと、誰もが思った。そうなれば成長したあかつきには、言環理師の頂点も、王宮騎士団の頂点さえも、彼女にゆずることになるかもしれなかった。
これこそ一番受け入れがたい、許せるものではない事態だった。
「気に入らぬ……気に入らぬ……俺があのような小娘に……ジョージ・ハクストンめ……このあいだもあのような……」
グレン・ファレルのいらだちは、ここを中心にめぐっていた。
なぜか、ハービル修道院は王宮騎士団の要請に応えなかった。
「国内の安定をおもんばかるファレル様のご憂慮、重々承知しております。ただ、ご存じのように、言環理の力は幼子のうちは不安定なもの。その能力を十分に開花させるためには、急な環境の変化や立場の変化は、まださけるべきかと存じます。今まで当修道院にたまわった数々のご配慮を忘れたわけではございません。騎士団の方々には、今しばらくお待ちいただきたく……」
言葉を並べればへりくだっているように見えながら、こうべを垂れていてもかもしだされるその堂々とした態度。それは毅然とした拒絶を感じさせた。先の大集会のおり、呼び寄せたジョージ・ハクストンの姿を思い出し、グレン・ファレルのいら立ちはいっそう強まった。ぶつり、と指先の肉をかみちぎる音が、その口元からもれた。したたり落ちる赤いしずくが、袖口を染める。
ジョージ・ハクストンはなんやかんやと言い逃れながら、メイ・ホワイトを手放す様子はなく、己の下で育てている。だからといって将来にわたっても王宮騎士団に送らないと言い切ったわけではなく、むしろ逆のことをほのめかしているので、その真意を周囲は測りかねていた。そうしているうちに時は流れ、奇妙な三すくみの状態が生まれてしまったのだ。
その結果として、メイの存在が一番グレンをおびやかしているというのに、同時に彼を救ってもいる。
後継者を誰にするか、一番幼いメイが成長して、その力を見極めてから考えるべきという流れになっていて、グレンに猶予期間が与えられている。
自分から見ればおむつが取れたかどうかという半人前の小娘に、自分の命運がにぎられている。これは本当に腹立たしい事態だった。
「おのれ、ハクストン! お前も俺をけがれ混じりとさげすむのか!」
血まみれの右腕で、机の上をがっとはらう。書類やインク壺が床の上に飛び散った。
グレンのこの激情にも、彼にとっては理不尽と思える理由がある。白のありがたみが薄れた分、彼の色が揶揄されるようになったのも、腹立たしいのだ。
白の後継者がいない時には、彼の灰色は白に近い貴重な色として評価されていた。実際彼は、言環理の得意不得意があまりない、多彩な術を操るタイプ。実質、白の言環理師と同等として、この地位に就いた。
ところが白の言環理師が複数現れ、その不在に苦労しなくなると、彼の灰は黒が混じったきたない色のように見られるようになった。彼に敗れた薄桜や藍白の方が、言環理師の代表としてふさわしかったのではと、陰口をたたかれた。
これに関しては本当に彼のせいでもなんでもない。黒は言環理師の中で、それだけきらわれている忌み色なのである。
皆があこがれる白と真逆なのは、色の印象からということではない。その歴史がそうさせる。
白の言環理師以上に、黒の言環理師は希少だ。というよりその存在は伝説の中。史上数名しか確認されていない。
そしてその時、必ず国に動乱をもたらしてきたのである。どの黒の言環理師の時代にも、外国との全面的な戦争が起き、その後には国内での内紛が起きている。その被害は深刻で甚大なもの。その結果、政権交代にまで至っている。
今の王朝も、そういう時代に生まれたのだ。ある意味、現政権はその恩恵を受けたとも言えるのだが、次に黒の言環理師が生まれ動乱が起きれば、今度は自分たちが追われる立場。そういう事情から、特に王宮騎士団の中では印象が悪い。
また、伝わるその性質も、そのイメージを強める。白はすべての色を内包する色。そのために、白の言環理師は術のかたよりを持たない。全ての術を同じようにくり出すことができる。言環理師はある意味、技を操る職人である。技術の高さとその多彩さは皆のあこがれるところなのだ。
だが伝え聞く黒の言環理。それは逆に、全ての色をぬりつぶす色。黒の言環理師は通常の技も使えるのだが、一つ特殊な性質を持つと歴史の書にはある。それは黒の影の奔流によって、言環理の力が生み出す光をぬりつぶしてしまい、その効力を打ち消すということだ。
何かを生み出すのではなく、ただ、その力を打ち消す。対言環理師戦闘では、万能。そして、対言環理師戦闘でしか、使えない。ただただ、戦うための色。
しかも言環理師が持つ職人気質、そしてその技術の習得に費やした時間と苦労を考えると、ただ黒に生まれたというだけで使える技は、どこか認めがたい。そのうえそれが、動乱を生み出す。
大きな犠牲を民にもたらすだけの、いやしい色。流れた血の色までもぬりつぶす、呪われた色。それが言環理師にとっての黒だった。
その結果、白でなくても淡い色やあざやかな色の方が、言環理師の間では好感度が高い。逆に暗い色は不人気だ。
彼の場合はその間で、評価が逆転してしまったのである。
それは今までの彼の苦労を不当にふみにじるもので、グレンにとってはどうにも許しがたい。
いっそのこと、白の言環理師がいなくなればいい。
何ならこっそり手を回して、「不慮の事故」を起こしてもいい。
貧しい生まれから身を起こした中で、グレンの抱える人に言えない行いは、一つや二つではない。
そこについでに謀殺の三つぐらい重なったって、いまさらだ。
じっくり時間を取って、計画的に行えば、疑う者が出たとしてもそう多くはないだろう。
その口をさらにふさぐのも、そう大した手間ではない。
「そうだ……知恵をめぐらすのだグレン……周到に、用心深く……今までそうしてきたように……」
そうつぶやくと、グレンはようやく足を止め、背筋を伸ばして辺りを見わたした。彼のいら立ち、かんしゃくのあとが、あちこちに見られる。
彼は右腕をすっと振った。少しくすんだ光の泡が指先から流れるようにあふれだした。
それは、指先の傷をうめ、流れた血をぬぐい去り、服や床についた血痕をかわかして消し飛ばした。細いつむじ風が、床に散らばる書類を巻き上げ、机の上にそろえ直す。観葉植物の枝が伸び、インク瓶やペンを拾い上げると、元の位置へともどしていく。
すべての色にかたよりなく、そして繊細に操ることができる。彼の言環理師としての腕は確かだった。部屋の中には、彼の内心を表すものは、もう残っていない。
表舞台では、重々しい態度を見せ、威厳を保つグレン・ファレル。一人になった王宮内の自室で、このようなおだやかならざる怨嗟の思いに身をゆだね、うろつきまわるのは、人に見せることのない日課であった。
そのおおいかくされた残忍な本性を見ぬいたジョージ・ハクストンが、彼のもとへ幼い赤子を送りその命をおびやかすようなことをさけたのだということは、グレン・ファレル当人はもとより、周りの人間が気づけるわけもなかった。
「カリウス!」
屋敷の廊下を急ぐカリウスを、少女の声が呼び止める。
急ぎの用を抱えていたが、その声の主は軽々しくあつかうことのできない相手。あいさつだけして後回しにするようなことは、できない相手だった。カリウスは足を止め、そちらを振り返る。
少女はカリウスが立ち止まったのに気づくと、待たせてはいけないとばかり、こちらへ向かってぱたぱたと走ってきた。カリウス自身も出むかえるように歩みを進める。
出会うといつもこうしてかけ寄ってくるが、不思議なことだ。彼女は決してそんなせっかちな性格ではないし、それに自分が走ってくるのではなく彼を呼びつけてもおかしくない立場なのだ。
サアラ・グレイブリッツ。この屋敷の主であるユーリ・グレイブリッツの実妹である。
銀髪につり目と、その外見は同じ血筋を感じさせる。しかし、受ける印象はまったくちがう。同じ髪色の銀髪はやわらかく波打ち、光に映えて、はかなげな雰囲気をまとわせている。目元にするどさはあまりなく、すぐに困ったように下がる眉毛がかわいらしさを付け加える。性格もまさにその通りで、兄とは正反対。優しくてちょっと気弱で、放っておけないタイプの女の子だ。
ただ、女の子としては好ましく受け取られるだろうその性格が、周りの人間には悩みの種だった。
なぜなら彼女は、グレイブリッツ派の中核的存在。
彼女こそ、現在この国に生まれた三人の白の言環理師のうちの一人なのである。
本来であればグレイブリッツ派としては彼女を前面に押し出して、政治でも実戦でも攻勢をかけたいところだ。ところが彼女はそういう面にはまったく向いていない。小さいころから、兄の陰にすぐかくれてしまうような、とても内気な少女なのだ。兄と妹の言環理師としての色が逆だったらと、周りが何度ため息をついたことか。
逆であれば、彼女の自己主張のなさは派閥にとって美点となる。おとなしく従順、そして言環理師の才がある。となれば、配下の有能な言環理師の男性を婿にあてがい、言環理師の子を産ませれば、派閥の勢力拡大の役に立つ。
ところが白の言環理師となれば、安易に嫁がせるわけにはいかない。それこそ国王をその魅力でおとすぐらいのことをしてくれなければつり合わないのだが、残念ながらそんなバイタリティあふれるたくましい性格ではない。
才はあれども戦闘には向かず、派閥の勢力拡大にも使えない。お荷物とまでは言わないけれども、若干それに近い存在として、周囲は持て余していた。
そしてそのような周りの評価を、人の気持ちに聡い少女は、敏感に感じ取っていた。それがますます内気で気弱な少女の性質を引き立てる。
そんな少女にとって、自らかけよってふれあいたい数少ない相手の一人が、カリウスだった。急いで走ってきたサアラは息をはずませ、ほんのりと赤らむ顔でカリウスを見上げた。
「おはようございます、カリウス」
「おはようございます、サアラ様」
「ここ何日かお見かけしませんでしたが、お仕事でお出かけだったのですか?」
「はい」
「お兄様のお言いつけ?」
「はい」
「いつもご苦労様です。お兄様はカリウスを信用なさっておいでですから、お言いつけがたくさんあって、大変ですよね」
「それが仕事ですから」
はたから聞いているとカリウスの対応はそっけない。けれど、そう返された当のサアラには気にした様子がなく、うれしそうだ。
カリウスが、もともと誰に対してもそうだと知っている。そして、その陰で、相手のことをよく考えていて、優しいところがあることも知っているからだ。
ハービル修道院で暮らしているころから、カリウスはずっとこういう性格だった。感情の起伏があまり見えず、言葉少ない。これだけ不愛想だと、周りとのコミュニケーションに苦労しそうだが、弟妹たちはよくなついていた。子供たちを率先して引っぱりまわしていたのはロイ。いつも楽しいことを考える人気者。カリウスはそのグループの中に、口数少なく静かにいっしょにいるだけだったが、年下の面倒見はよかった。
関心がないのかと思わせてよく様子を見ていて、困っている時にすっと手を差し出してくれる。兄の無茶な遊びにくっついていたマイラなどは、カリウスに命の危機を救われたことさえ、一度二度ではないぐらいだ。そして、小さい子のお願いも、いやがらずに聞いてくれるし、何にでもつきあってくれる。いっしょにいたいお兄ちゃんだった。
その性質はグレイブリッツに来てからも変わっていない。もう子守をするような機会はなくなったが、それをサアラは知っている。
彼女は白の言環理師として、数々の会合に引き出される。だが、内気で気弱な性格で、そんな場所で発揮するような才覚など持ち合わせていない。ただ、色が白だというだけだ。
やがて周りの大人はそれに気づき、彼女などそこにいないかのように話し始める。その場をはなれて勝手をするわけにもいかず、ただひっそりと立ち続ける、つらい時間がやってくる。
例えば立食パーティで、話に夢中になった大人たちがテーブルを囲み、飲み物も食べ物も取れないことがある。大人の真剣な話をじゃまする度胸はない。おなかがすいたのも、のどがかわいたのも、じっとがまんして立ち続ける。
そんな時、そばいるカリウスが、さりげなく助けてくれる。彼女の様子をよく見ていて、目立たぬように彼女の分を取ってくれたりする。彼女の存在が忘れられているわけではないと、差し出された手が教えてくれる。
そういう小さな優しさに気づくと、それがいっしょにいる時にいつも彼女の周りに張りめぐらされていることも見えてくる。そんな優しいカリウスをサアラは慕っている。周りの人はカリウスを冷血だとか評価しているけれど、それは彼の心配りに気づいていないだけだ。
今だって、そばに並んでユーリの執務室に向かって歩いてはいるが、彼女の歩調にさりげなく合わせてくれている。最初見かけた時にはもっと急ぎ足だった。本当は急ぎの用事のはずなのだ。
そんな優しさがうれしいけれど、だからこそ、それにあまえて仕事のじゃまをしてはいけない。サアラはもっとずっといっしょにいたかったけれど、名残おしさを心の奥へと押し込めた。
「それでは、お仕事がんばってください。……あの、もし、あとでお時間がありましたら、言環理の練習を見ていただきたいのですけれど……」
それでも、あまえたくなる気持ちはもれ出てしまうのだけれど。
「いいですよ」
それも受け止めてくれる優しい答えに、サアラは可憐な花がほころぶような喜びの笑みをはじけさせ、その場をはなれた。
サアラを見送り、カリウスはまた、歩速を上げる。彼女に答えたとおり、時間があれば、彼女の練習につきあうつもりはあった。ただ、その時間が取れないだろうなという予想もあった。なぜなら、今、自分が抱えている情報がそれだけ重要なものだったからだ。
それほどのものを抱えながら、いつもと調子は変わりなく、主の部屋の扉をたたく。
「入れ」
返事を受けて、部屋に入り、一礼。
部屋の主、ユーリ・グレイブリッツも慣れたもので、いつもの調子だ。軽くうなずき返すだけ。無口な部下が、ご機嫌を取るような社交辞令を口にしないことはわかっている。そのようなやり取りを省いて、声をかける。
「カリウスか。もどったのだな。ご苦労だった。さっそく首尾を聞きたいのだが、少し待ってもらえるか。今、このウレニアス候への手紙を書き終えて……」
「ユーリ様」
カリウスの声がユーリの次の言葉を押しとどめた。
特段強い口調ではなかった。いつも通りの平板な声音。
だがユーリは、自分の部下の性格をよく知っていた。軽々しい理由で主の言葉をさえぎるような無礼な行いをする男では、断じて、ない。しかもウレニアス候が急ぎ対応しなくてはいけない重要人物だということも、承知しているはずだ。
つまり、そこには軽々しくない理由がある。主にとって重要なその行いを中断するだけの価値があると、判断するに足る理由が。
そして今、二人の間でそれほどの重みを持つ理由と言えば、ただ一つ。
「見つけたのか」
主の問いに、カリウスは動じることなくいつも通りの表情で、しかし深くうなずいた。
「こんにちはー。お届け物だよ」
「カリムさん、こんにちはー! ご苦労様ですー」
うららかな午後。いつも通りにのんびりした時間の流れている、お言環理の店プランクル商会。そこに顔見知りが入ってきて、店番をしているメイの表情が、ぱっと明るくなった。ひと月に一度ほどのその人の来訪は、よいことが起こる知らせだったからだ。
カリムはハービル修道院がある街の商会の人間。各地と商売をしている商会は、たのめば手紙や荷物も運んでくれる。ここと修道院は通信用の水晶で連絡が取れるので、お願いするのは主に荷物になる。
がっしりとして日に焼けたカリムは、商会所属の商人として辺境地域をめぐっているのと同時に、修道院の協力者でもあった。修道院からの荷物をいつも運んでくれているだけでなく重要な情報の伝達も任されている、信頼の厚い人物だ。
「あ、カリムさんだ! こんにちはー! 今日は何持ってきてくれたの?」
「くそ坊主め、少しは本心をかくす知恵を身につけたらどうだ。お望みの品も言付かってるよ」
奥から顔を出し、あいさつをしたマルトに、カリムはにやりと笑って返した。
「へへー」
マルトがちょっと照れくさそうに、そしてうれしそうに笑い返す。
修道院がここに荷物を送ってくるときには、たのまれた物以外に、必ず子供たちに何かをしのばせてくれるのだ。マルトの目当てはそれである。カリムがカウンターに置いた小包を、ニコニコしながらほどき始めた。
ちなみに、礼儀正しいメイはマルトのようにすぐに飛びつくようなことはしないが、楽しみなのは同じだ。よいことが起こる知らせとは、これだった。マルトのわきで、やっぱり瞳をかがやかせながら、ほどく手元をのぞき込んでいる。
「あ、カリムさん、いらっしゃい」
そこに、今日は仕事が休みで家にいたマイラが、来訪者に気づいて様子を見に来た。
「おう、マイラ。変わらず元気そうだね」
「それが取り柄ですから」
「人間、健康が一番だよ。俺らみたいな外回りの人間には特にな」
「そうですよねー。ちょうどいい茶葉が手に入って、紅茶を入れるところなんですよ。お時間あります? 他の二人もいますから、ごいっしょにどうですか?」
「おう、いいねー。お呼ばれしていこうかな」
そう言って、大人二人は奥へと消えた。子供たち二人は、このやり取りが実は修道院からの重要な言付けがあると伝える符丁だと学んでいる。つまり、本当のおやつの時間はまだ先で、子供たちはここで待っていろということだ。
ただし、すぐに来いと言われたとしても、後ろ髪を引かれる思いだっただろう。まずは、この小包を開けて、中の荷物を改めるのが、今の二人に課せられた任務。これはすぐにも実行されなければいけない、最重要任務なのだ。
小包を開けると、木箱が出てきた。しかし、これは重要だけれど重要ではない。これが本来の送られてきた荷物なのだが、二人にとって重要なのは、それといっしょに入っていた瓶詰の方だ。
「わ、あんずだ!」
「わあ、これ好き!」
二人は歓声を上げた。瓶詰には、あんずの砂糖漬けが入っていた。修道院の庭に生えていて、その果実の自家製砂糖漬けだ。ハービル修道院にはたくさんの果物の木が植えてあるそうで、それを使ったお菓子がよく送られてくる。その中でも、あんずの砂糖漬けは二人に大好評だった。
砂糖漬けと言っても、元の果実の形はまったく損なわれることなく、きれいに残っている。そのままの果実ではないんだなとわかるのは、それがつやつやと光を照り返し、宝石のようにかがやいているから。そのかがやきが、美しさだけではなく美味しさも主張して至福の時間にいざなっているようで、思わず舌なめずりしてしまう。
さっそく瓶のふたを開け、二人は一つずつ、なかよくほおばった。砂糖のあまさの中に、あんずの程よい酸味が感じられる。とてもおいしい。
そして、おいしいからこそ、いっぺんに食べてしまうのはもったいない。声を出さずとも二人の間では了解が成り立ち、満足してふたを閉める。
さて、重要任務を済ませたら、今度はとなりの木箱である。
「開けちゃってもいいよね」
「うん、大丈夫だと思うよ。私達があつかって危ないものなら、カリムさんは直接マイラにわたしたはずだから」
お店のカウンターの上に、小包の紙やら何やらを広げておくわけにもいかないということもある。中身を出して片づけることにして、マルトは木箱のふたを開けた。緩衝材にわらがつめられている。大事にあつかうべき貴重品のようだ。
「あ、検査水晶だ」
そっとわらをのけ、中身を確認してメイが言った。両手に余る大きな水晶球が金属の台座にすえ付けられている。台座からは水晶を取り囲むようにめぐらされている持ち手。
マルトには見たことがない物だった。不思議そうな顔をしてながめているマルトにメイが気づく。
「あれ、マルくん、見たことない?」
「うん。初めて見る。何に使うの?」
「言環理の力を測れるんだよ」
「言環理の?」
「そう、この水晶の周りの輪っかのところをにぎるとね、言環理の力があると、水晶に色が出るんだよ」
「へえー」
感心したように、マルトは水晶をながめた。すきとおる水晶は、それだけでもきれいな宝飾品のようだったが、そんなすごい力があると聞くと、ますますかがやきが増すように感じた。
そんなマルトの様子を、メイは不思議に思いながらながめていた。それは、以前サキが覚えた違和感と同じものだった。
ケーキ作りの時の二人の会話を聞いて、メイもちらりと思ったのだが、この国のふつうの家庭に育った子供であれば、一度くらいはこれのお世話になっているはずなのだ。言環理師が国の重要な戦力となっているので、各地の領主が積極的に子供たちの検査を進めているからだ。
小さな村でも、一度くらいは、巡回検査に来ていそうなもの。
なのに、マルトは見たことがないという。
「うちにもともとあった水晶は古くて、この間私の力を測ろうとした時、こわれちゃったんだよ。だから、新しいのを送ってもらったんだね。前のやつよりこっちの方が、何かずっと立派だもん」
実際には、こわれた理由は古いからというだけではなかった。家庭用の簡易検査レベルの物では、もうメイのあふれだす言環理をさばききれず、容量オーバーになったのだ。こちらはもっと容量の大きい物。それだけメイの成長は順調だということであった。
「あ、荷物開けてくれたんだね」
そこにカリムと、ナーナ、マイラ、サキの三人もやってきた。修道院からの言付けを奥で聞いていたのである。状況はかんばしくないとのこと。やはり、ロイとアリスの死で、各派閥が動き始めている気配がある。長年神経をすり減らし、保ってきた均衡がくずれようとしている。
それだけではない。国境付近でもまた、隣国の不穏な動きがあるという。隣国とは、過去幾度も争いを経験してきた。ナーナたちもメイも、そこで戦災孤児として修道院に保護されたのだ。そういう生い立ちもあって、自分たちの任務と直接関係なくても、そちらも気になる話だった。
だがそれは、子供たちは知らなくていい。そういうことに頭を悩ませるのは大人の仕事だ。カウンターの上で包みを広げて、さっそくお土産を堪能したらしい二人のにこにことした笑顔が、大人たちの心をいやす。
「それじゃ、確かにお届けしましたんで。おう、二人とも、満足したか?」
「うん! またおいしいの持ってきてね!」
「ははは、それは修道院の人に言ってくれ。それじゃ、また」
「ありがとうございましたー」
みんなはカリムを見送った。
「さて」
そして振り返って、カウンターの検査水晶を見やる。
「マルくんに、これが何だか説明してたんだよ」
「ねえねえ、言環理の力が入ると光るんでしょ。見てみたい。見せて、見せて!」
「じゃ、最初の調整もしなきゃいけないから、それといっしょに。サキ、お願い」
ナーナの言葉にサキがうなずく。調整のような精密な作業は、サキが一番向いている。
サキは水晶を囲む輪をにぎりしめた。
水晶の中にもやもやと、青い光が浮かんできた。サキは集中した表情を見せる。青い光はぼんやりとただよっていたが、だんだんくっきりピントが合ってきた。
それは太陽の光にきらめく南国の海のようだった。あざやかな、きらきらとかがやく深い青。
「うわあ!」
初めて見るマルトが歓声を上げる。
「すごいきれい! ぴかぴかに光ってる! サキ、すごいね!」
マルトに称賛されたサキは、満足そう。表情の動きはそれほどでもないが、長く彼女を知る人であれば、彼女が内心、とても喜んでいるとわかる。
「ねえねえ、みんなは? みんなのも見せて!」
サキがあれだけ喜ばれるなら、二人も負けてはいられない。
まずはナーナ。春の日を浴びた新緑のような、みずみずしい緑色。風にそよぐ若葉。木もれ日がきらめく。
マイラは炎。前の二人はさわやかな印象だったが、マイラは力強い、ごうごうと燃える灼熱の炎だ。
「すごい、すごい!」
マルトは大喜び。二人もいたく満足だ。
「ねえ、メイちゃんは? メイちゃんは何色なの?」
「そうそう。この間、メイを測ろうとした時にこわれちゃったんだよね。それで新しいの送ってもらったんだから、メイを測らなくちゃ。ちょっと待ってね、子供用に調整するから」
マイラはそう言うと、何やら操作して、水晶の中の自分の赤色を消した。
「はい、どうぞ」
そして、メイの前に水晶を置く。
メイは緊張した面持ちで、輪をつかんだ。周りの言環理師の先輩に早く追いつかなくちゃと考える真面目なメイには、自分がちゃんと成長してるのかというのは、けっこう重要な問題だった。口をへの字にして、力を込める。
わくわくと待つマルトの目に映ったのは、淡く可憐な桜色。まさしくはかなげな花のような、しっとりとした色だった。
「わあ……きれい」
マルトの口から、感嘆の言葉がもれる。
でも、ちょっとメイは不満げだ。
「なんか、だんだん色が薄くなっている気がする……。前はもっと赤くて、私もマイラみたいな赤の言環理師になれるかもって思ってたのに……」
「でもきれいだよ、とっても! 中からふわふわ白い模様が広がって、ほんとにお花がさいていくみたい。このままテーブルにかざっておいたらいいんじゃないかな」
「そうだよ、メイ。言環理師の能力は確かに色で表わされているけど、別に色の濃さが重要ってわけじゃないんだよ? 私とちがう色でもメイにはメイの色があって、それが重要なの。それに大丈夫、この様子だとメイの力は順調に伸びているよ」
マルトの賞賛の言葉とマイラの評価に、メイの不安は払拭されたのか、ちょっと笑顔を見せた。ナーナとサキもうなずいている。
特に、メイの力が順調に伸びているというマイラの評価には、二人は疑う余地もなく同意していた。何しろ、あれだけ淡い桜色になっているのだから。
メイは白の言環理師である。当然、その力を水晶に注ぎ込めば、水晶は白く光るはず。ところが、それが桜色になっているというのは、メイ本人にまだ白の言環理師のことを教えるのは早いという、周りの大人の配慮があってのこと。
手品の種明かしをすれば、メイの前に測ったマイラが、子供用に調整するというのがウソなのだ。実はマイラは、調整などしていない。したのは、表示を一度止めること。あの水晶の中には、まだマイラの力が注入されたままだったのである。
マイラの赤にメイの白が注がれて、桜色となったというわけだ。
そして、以前より色が薄くなった、というメイの言葉がポイントだ。
それはすなわち、マイラの赤をメイの白が凌駕しようとしているということに、他ならない。
以前、メイの検査を手伝っていた、つまりメイの前に色を注ぎ込んでいたのはロイだった。だからロイの色と混じって桃色になっていた。ロイが亡くなった今、その役目は同系色のマイラに引き継がれた。ただし、ロイよりマイラの方が力がおとるので、メイの白に負けそうだということではない。
確かにマイラは、生前のロイに戦闘能力ではかなわなかった。だがそれは、ロイの言環理の判断の正確さ、反唱の速さ、攻撃のバリエーションの豊富さによるものだ。単純な力比べであれば、マイラはロイに肩を並べている。
つまり本当に、メイの力がどんどん増していて、赤を打ち消そうとしているのだ。
これはそろそろ本当のことを告げる時かもしれない。明らかに白くなっていると本人が気が付くのは時間の問題だ。もう、メイの力をおさえ込めない。
マイラの視線での問いかけに、ナーナもサキもうなずいた。今度どうするか、みんなで相談しなくては。
「マルくんも、やったら」
その時、サキがマルトに話を振った。
そう、メイの力を測らないといけないという目的の他に、マルトにまったく力がないというのも不思議な話だというのが、検査水晶を使おうという話の発端だ。
「え、でも、お母さんが、ぼくにはないって」
「子供のうちって力が安定しないから、マルくんぐらいの年で初めてわかる子もけっこういるんだよ。マルくん、検査水晶見たことなかったんでしょ? あの村には、あんまり検査の人が来たことなかったんじゃないかな。アリス姉さんも、マルくんが覚えていないぐらい小さな時に測った話をしてたんだと思うよ」
「そうなのかな……」
「うんうん、きっとそうだよ。別に測っても痛かったりしないしさ、気軽に試してごらん」
「じゃ、やってみる。ここをつかめばいいの?」
マルトは水晶の周りの輪に手を伸ばす。
半信半疑のその顔には、いくばくかの期待ものぞいていた。
自分にも言環理の力があったらうれしいな。
あったらぼくは何色なのかな。
そんな期待とともに、輪をにぎると。
ぶつっ。
そう音が聞こえたような気がするぐらいに、突然、水晶が真っ黒になり、何も映さなくなった。
「あれっ?」
「真っ黒?」
子供二人が首をひねる。
「ねえ、ナーナ、何にも映らないよ、これ。……やっぱり、ぼくには力はなかったのかな」
マルトはしょんぼりと肩を落とす。
「ああ、ごめん、ごめん、調整のミスだよ!」
突然思い出したように、ナーナが大声で言った。
「メイはさっきマイラが言ったみたいに、子供としてはかなり力のある方だから、それに合わせた調整になってるんだよ。貸して。ふつうの子供用に直してあげる」
ナーナはそう言って水晶を受け取ると、輪を強くにぎりしめた。水晶の中の黒がゆっくりと晴れて、元の透明な状態にもどる。
「はい、これでふつうの子供用。もう一度測ってごらん」
「うん。あるのかなあ」
そう言って、不安そうな顔で、マルトは水晶の輪をもう一度にぎり込んだ。
ぶつっ。
また一瞬にして、水晶が黒に染まる。それはまさに漆黒。吸い込まれるような闇の色。
だが今度はじわじわと、そこに色がにじみ始めた。
暗がりの中に浮かび上がる木の茂みのような、彩度のとぼしい濃い緑色。
「ほら、マルくん、出てきたよ!」
マイラがマルトの肩をポンポンとたたく。
「でも、何か、ぼくの色、みんなみたいにきれいじゃない……」
「だからメイにも言ったけど、色の濃さとか、そういう部分は重要じゃないんだよ。自分の色が出てるなら、それでいいの。それにマルくん、緑色だよ。アリス姉さんは緑の言環理師だったから、マルくんはちゃんと、お母さんの力を継いでいるんだよ」
「そうなの?」
「うん、そうそう。ナーナはさっき見たような、若葉の緑だけど、アリス姉さんはもっと濃い色だったから」
マルトがナーナを見ると、ナーナもうんうんとうなずいている。
「そうかあ……。お母さんの色かあ……」
マルトはうれしそうにつぶやいた。その言葉を、大人たち三人はこおりついた笑顔で聞いていた。
サキが口を開く。
「マルくんも、トレーニングするといい。もっと力が出るようになる」
「ああ、そうだね、それいいね。マルくんも今度からメイといっしょにやろっか。せっかく力があるってわかったんだもん、使いこなせた方がいいよね」
マイラもサキの話に乗る。
「使いこなせるようになる?」
「そりゃ、練習したらばっちりだよ! あ、そうだ、そろそろここを片づけないとね。お客さんが来たら困っちゃう」
「お客さんで思い出した。二人にお使いに行ってもらいたい。向こうの通りのマイヤーさんのお店。薬の材料を注文してある」
「ああ、お店はじゃあ、片づけた後私たちが見てるから、行ってきて」
唐突にサキのお願い。それにすぐに乗るマイラ。ちょっと不自然なぐらいだったが、けれど子供たち二人は、それに気がつかなかった。
マイヤーさんの店、という話が魅力的で大歓迎だったからだ。あそこのおばあさんとはなかよしで、行くといつもおやつをご馳走してくれるのだ。
「行ってきまーす」
マルトとメイが元気よく飛び出していく。その後姿を三人はじっと見守っていた。
やがて、サキがポツリと口を開く。
「……これが、秘密」
マイラがたずねる。
「……ナーナ、手加減した?」
「……してない。そばにいたから感じたでしょ」
「……うん、わかってた。ごめん、ちょっとショックで」
「……それは、私も。完全に押し負けてた」
答えるナーナの声は固い。
マルトは検査水晶を見た記憶がなかった。つまり他の人が測るところも見たことがないということだ。
メイは言環理師に囲まれて育った。他の人が測るところは見たことがあったが、言環理の力がない人が測ったところではない。
だから二人は知らなかったのだ。
力のない人が検査水晶をにぎった場合には、何も起きない。
透明なまま、何の色も出ないのだ。
現れたのは、黒。
まさに漆黒。吸い込まれるような闇の色。
「そう、私は全力だったわ。マルくんに、嘘でもきれいな色を見せてあげたかったから。でもできなかった。私の残した緑は、黒にぬりつぶされないだけで精いっぱいだった」
ナーナは、唇をかみしめる。
大好きだった兄ロイと、大好きだった姉アリスが、残したもの。
大好きだった兄ロイと、大好きだった姉アリスが、秘密にしたもの。
「マルくんは、黒の言環理師なんだわ。それも、私たちも、ロイ兄さんやアリス姉さんも超える才能を持つ、国を亡ぼせるレベルの」
〈続く〉
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