第3話 マルくんのいきさつ

 弔いの鐘が、重く哀しく鳴り響いていた。

 木々生いしげる森の中、山あいの小さな村の教会に人々が集まり、故人を送り出している。

 集まった村人たちの表情が暗く沈んでいるのは、この国特有の重くしめった空模様のためだけではない。

 故人を送り出す神父の弔辞も、いつもより悲痛な音色をともなっていた。この国に古くから伝わる言環理(ことわり)の力が秘められたその弔いの詞(ことば)。聖書からは、冬の薄日の空のような淡藤色の光の泡が、ひとつ、ふたつと現れては空にとけ込み、消えていく。

 哀しみの色のシャボン玉が辺りにただよう中、うなだれてそれを聞く、まだ幼い少年の姿。淡い色の髪に縁取られたやわらかい頬に、涙が伝う。

 マルト・プランクルは今、天涯孤独の身となったところだった。

 弔われたのは彼の母親、アリス。

 となりに立つ老婆は親族ではなく、ただの隣人だ。この葬儀に沈鬱な空気を与えていたのは、この点だった。

「しかし困ったなあ。彼女、身寄りもなかったんだろう?」

「あの子どうしよう」

「ハルナの婆さんが面倒見るの無理だよな。となりのよしみで喪主を手伝ってるけど、ふだんはむしろ、世話になっていたほうだし……」

「なんならうちで……」

「そうは言ってもさ……」

 少しはなれたところから、マルトを取り巻く村人の押し殺した声が聞こえる。みんながそう言うのも仕方がないと、マルトは思った。

 マルトは父の顔を知らない。

 母の出自も知らない。

 ある日、赤ん坊を連れてふらりとこの村に現れた母アリスは、その言環理の力と持ち前の面倒見のよさで、ほどなく村人にとけ込んでいった。けれど、その身の上についてはほとんど語らなかったという。

 人柄で信頼を得ていたが、亡くなってしまうと、そのなぞめいた過去が気にかかる。村人たちが、遺されたマルトを自分の家にむかえ入れるのにためらいを覚えるのは、そういう理由。さらにはそれを思い起こさせる出来事もあったのだ。

 父が死んだと知らせが来たのは一週間前。正直マルトはピンとこなかった。赤ん坊のころから母と二人の生活だったし、世の中の子供には父と母がいるものだと知識としては知っていても、全く実感がなかったのだ。

 だが、その知らせを受けた母のショックは大きかった。はたから見て心配になるほど青ざめた顔で、マルトをぎゅっと抱きしめると、大丈夫、お母さんが必ずあなたを守るからねと、ふるえる声でつぶやいた。その様子を見ると、むしろマルトの方が、ショックを受けている母を守らなければいけないと思うほどだった。

 その日から数日、母は神経過敏な様子を見せた。険しい顔でちょっとした物音にも敏感に振り返る。一度マルトの足音に振り向いた母の殺気だった顔つきに、マルトは心底びっくりした。

 その母のおかしなの様子は、村人たちの口端に上るようになり。

 そして二日前の朝、村外れの池のほとりで母は亡くなっていた。

 その背に深手を負い、血の気の引いた真っ白な顔で。

 言環理使い同士で争った形跡が周囲に見受けられ、地面に人の形のような焼けたあともあった。目撃者は誰もいないが、死闘がくりひろげられたことは疑いようがなかった。それがふだん隣人たちの心の奥底にしまわれていた、母の出自への疑問を掘り起こした。

 いつもはぐらかして教えてくれないので、いつしかそれを考えないようになったマルトでさえも、あの優しい母がこんな死に方をするような過去を持っているなんて、信じがたいことだった。

 もし母が、何かから逃げていたのだとすれば。

 考えたくはないけれど、何か大きな罪を犯していたりとか、あるいは犯罪組織に追われていたりとかしていたのなら。

 そんなトラブルの種になりそうなマルトのことを引き取るのを、村人がためらうのも仕方のないことだ。

(このままぼく、一人ぼっちになっちゃうのかな)

 マルトは一帳羅の背広の袖で、頬を伝う涙をぬぐった。

 このまま一人であの家に暮らすのだろうか。

 あるいは村を追い出され、一人で他の土地で生きていかなければならないのだろうか。

 母を失った大きな悲しみだけでも胸からこぼれていきそうなのに、そんな不安を抱えて生きていかなければいけないなんて。マルトの小さな胸は、押しつぶされてしまいそうだった。

「あ、あれは?」

 そのとき村人たちの輪から声が上がった。一人の男が教会を囲む梢の上を指している。その指の先をたどり、人々の視線がそちらを向く。

 マルトも見上げたその空に、ポツンと黒い影がある。

 それは少しずつ大きくなってきている様子だった。

 馬の着いていない馬車が空に浮かんでいる。

「おい、あれ、浮遊馬車だぞ」

 人垣の中からおどろきの声が上がる。それを認めた人々の間にも、ざわめきが広がった。

 言環理の祝詞を車輪に刻むことによって、空を飛ぶ力を得ている馬車。そういう物があると知ってはいても、マルトが見るのは初めてだ。飛ばすためには言環理の力を注ぎ込むことが必要で、この村に言環理を使えるのは母だけだったからだ。

 神父様は言環理使いというわけではなく、聖書に書かれた言葉に力が秘められている。それで村人に加護を与えることはできるが、ふだん使いの言環理は専門外。そういう、道具自体に言環理が刻まれたものは他にもあるが、浮遊馬車のような大きな力が必要なものは、その都度、言環理使いが力を充填しなくてはいけない。

 だからマルトのうちになければ、浮遊馬車など他の家にあるはずもなかった。

 言環理使い。

 ふと、それに気づいた。

 背筋がふるえた。

 母は言環理使いと争って事切れた。

 あの馬車に乗っているのが、もしその仲間だとしたら。

 周りの大人たちもそこに思いが至ったようで、じりじりとマルトから距離を取る。

 浮遊馬車は今やはっきりと細部まで見えるほど近づき、村の広場に向かって高度を下げ始めた。言環理の力が車輪からもれ、空にほのかな光のわだちを残す。

 その時、特にアリスと親しくしていた女性たちが、はなれていく人の輪から飛び出して、マルトを抱きかかえ、かばう姿勢を見せた。

「マーニャおばさん、ぼく、大丈夫だから、逃げて」

 マルトはふるえる手で、かばう女性の胸を押した。

「バカ言ってんじゃないよ。アリスが何をしてきたのかわからないけど、あんたには関係のないことじゃないか」

 マーニャの顔はこわばり、マルトをかき抱く腕に力が入る。周りの女性たちも決死の表情でうなずいた。

「そうだ、小さな子供を見殺しにできるか」

 いつの間にか、男たちも、農具やら何やらで武装して、マルトの周りに集まっていた。

 軽い気持ちではない。ようとして知れないアリスの事情に対する恐れはあるが、それでもいざその時になると、やはり見捨てることはできなかったのだ。

「みんな……」

 そこに静かに浮遊馬車は降りた。

 どんな悪漢がそこに乗っているのか。

 マルトをかばうマーニャの腕に、さらに力が入る。

 周りの村人たちが、その身を固くして見守ってる。

 マルトも、ぐっと息をのんだ。

 扉がゆっくり開き、降り立ったのは。

 淡い色の、やわらかく波打つ髪をした、優しい顔立ちの若い女性。

 赤みがかった濃い色の長い髪をたなびかせ、それでどこか少年のような面影を持つ、やはり若い女性。

 そしてこちらは青みがかった黒髪の、眼鏡をかけた知性的な顔立ちの女性。

 そして最後に、手を取られて馬車から降りるのを助けてもらっていた、マルトと同じくらいの歳の、おさげ髪のかわいい少女。

 先頭の、淡い色の髪の女性がほほえんだ。

「こんにちは。あなたがマルくんね。よろしく。むかえに来たわ」


 一戦交える覚悟で立ちふさがっていた村人たちは、降りてきたのがうら若い乙女ばかりときて、肩すかしを食らったようだった。

 だが、これだけの村人が手に得物を持って待ち構えているのを見ても、顔色一つ変えることがないところは、ただの乙女ではなかった。周りを魅了するあでやかな笑顔を浮かべ、マルトの元に歩み寄ると、そっと手を差し伸べて、あいさつした。

「お母様のことは御愁傷様です。アリス姉さんが亡くなって、私たちも悲しい」

「え?」

 マルトが事情をつかめずうろたえていると、波打つ髪の女性が言葉を続けた。

「アリス姉さん……姉さんといっても血はつながっていないのだけれども……姉さんに旦那様が亡くなったのを知らせたのは、私たちです。私たちはご両親と昔からの知り合いで、マルくんのお父様の下で働いていたのです。ご両親から、もしもの時にはマルくんの面倒を見てほしいと言付かっていたので、おむかえに来ました」

「ちょ、ちょっと待っとくれ」

 マルトをその腕の中にかばってくれているマーニャが、話をさえぎった。

「そんな話をされても、はい、そうですかとこの子をわたすわけにはいかないよ。この子の母親は言環理使いとの争いで亡くなってるんだ。あんたたちがそうじゃないって、どうして言えるんだい」

 再び男たちの武器を持つ手に力が入る。その緊張感におびえたお下げ髪の少女が、暗褐色の髪の女性にかくれるように身をひそめた。

 だが三人の女性たちは、そのような事態になっても、やはり落ち着いた様子。

「そうですね。何か証明して見せないといけませんよね。マルくん、お願いがあるんだけれど、いいかしら。あなたのおうちの姉さんの部屋を見せて欲しいの」

 マルトの方に身をかがめて、淡い波打つ髪の女性はにっこりとほほえんだ。まるで愛する者を慈しむような、そんな表情だった。マルトはこの人たちに会ったことがないはずなのに。

 優しく包み込むようなそのほほえみに、マルトは思わずうなずいた。


「……ここが姉さんの部屋ね。姉さんの性格からして、本当に全部捨ててくるのはできないだろうから、こっそりどこかに持っているんだと思うんだけれど……」

 そう言うと、彼女たちは案内された部屋の中を探し始めた。本当に大丈夫なのか、マルトを心配してついてきた村人たちは、戸口からのぞき込みながらその様子を見ていた。

 だがこの時すでにマルトは、この女性たちを疑う気持ちが薄れていた。

 家に入り応接間を通る時。

 母の編みかけのマフラーを見つけた暗褐色の髪の女性が、それをそっと手に取って、悲しみに顔をゆがめたのを見たからだ。

 それは一瞬のことだったけれど。

 それはとても深い悲しみに見えた。

 この部屋に入る時には、他の二人も、言葉につまったように、入り口で足を止め。

 母が好きだった本や小物を見つめていた。

 この人たちは本当に母を知っている。

 そして母の秘密を知っている。

 マルトはそう確信した。

「あった」

 眼鏡の女性が、タンスの引き出しの奥からひとかけらの水晶を見つけ出した。それをことりと机の上に置く。

「鍵がかかってる」

「そうね。でも多分、鍵はあの祝詞だわ」

 彼女が口の中で小さく何かを唱えた。水晶にかかげた指先から光の泡がもれ出す。

 浮遊馬車に乗ってきたのだから、言環理使いなのは当然のことだったけれど、こうして母以外の言環理使いの人を見るのは初めてなので、やはりマルトにはおどろきだった。

 あふれ出した光の泡は、ゆっくりと渦をえがきながら、水晶に吸い込まれていく。

 最後の光が水晶に注がれると、そこからぼんやりと、何かの姿が浮かび上がってきた。

「やっぱり」

「なつかしいね」

 そこにいたのは四人の女性。一人はマルトの母アリス。でもマルトが知ってる顔よりもずっと若い。そして小さな赤ん坊を抱えている。

 周りにいるのは三人の少女。マルトはすぐに気付いた。今この部屋にいる三人が、お母さんと映っている。

「真ん中にいる赤ちゃんがマルくんね。そう、実は、初めましてじゃないのよね」

 その言葉に見上げると、三人がこちらを見てほほえんでいた。

「お久しぶりマルくん。お姉ちゃんたちのこと、覚えてる?」

「え、あの……ぼく……」

 マルトがとまどっていると、淡い色の髪の女性が、ちょんとマルトの頬をつついた。

「冗談よ。覚えているはずないよね。マルくんとアリス姉さんは、すぐにこの村に来たから」

 そう言うと、もう一度辺りを見回して、ぽつりとつぶやいた。

「……ずっとここで、姉さんと暮らしてたんだよね」

 マルトの肩にそっと手が置かれた。後ろから抱きしめてきたのは、無口な眼鏡の藍黒色の髪の女性。その腕はかすかにふるえていた。

「大丈夫。もう私たちがマルくんを一人にしない」

「大変だったね……」

 他の二人の目元もうるんでいた。

 それを見て、マルトの胸にため込まれていたものが決壊した。

「お母さん……お母さん!」

 ボロボロと涙をこぼして、泣きじゃくるマルト。

 そんなマルトを、三人はそっと優しく見つめていた。


 窓から差し込むやわらかい朝の光に、マルトは目を覚ました。

 起き上がると、すでに見慣れた、自分の寝室の風景。

 目元に手をやり、流れた涙のあとをぬぐう。

「夢……」

 今でもたまに、悲しみにいろどられたあの時の夢を見る。

 それでもこの町に来て、その感情はだいぶ薄らいだ。

 昼間は仕事が山積みで、そんなことを考えているひまはないし、そうでなくても三人が、マルトを構いに構って放してくれない。からかわれたりひどい目に合わされたりしてばかりだけど、ぎゅっと抱きしめられている時は、お母さんに抱かれている時のような、ふわっと暖かい気持ちになることも……。

 そこまで考えて、マルトはぶんぶんと頭を振った。

 あんなにこき使われているのに、ちょっと優しくされただけでうっとりしちゃうなんて、いくらなんでもちょろすぎる。

 だいたい、昨日、こき使われていた理由がうそだったと、判明したばかり。

 メイちゃんの方がずっと料理が得意だったのに、全部押し付けられていたとわかったばかりじゃないか。

 ……そういえば、ご飯食べずに寝ちゃったから、おなかすいたな。

 マルトがベッドから降り、くうくう鳴り始めたおなかをさすっていると。

 その様子を察知したのか、こんこんと扉がノックされ、ひょこひょことみんなが顔をのぞかせた。

「あ、やっぱり起きてた」

「おはようー、マルくん。お目覚めだね。今日もお仕事いっぱいだよ。そもそも昨日のお皿が洗ってないし!」

 昨日へそを曲げたマルトを前に、終始おろおろとしていた三人だったが、それはなかったことにしたようだ。いつも通りの調子でマルトに朝のあいさつをする。ちょっとちがうのは、しれっとした態度の三人に対して、その後ろからのぞいているメイが、とても心配そうな顔をしていることだろうか。

 そんな三人の顔を、マルトはじとーっとした目つきで見つめて、一言告げた。

「食事当番はもう、みんなで順番こだからね」

「えー、だめだよー、働くもの食うべからずだよ。マルくんに正体ばれちゃったからわかったと思うけど、お姉さんたちけっこう大仕事してるんだよ。マルくんもちゃんと働いてくれないとー」

「そうだよ、私、マルくんのこと大好きなんだもん。コマネズミみたいに働いてるマルくん、超かわいい。ずっと見ていたい」

 ちがった。

 いつも通りの調子、ではなかった。もっとたちが悪かった。悪びれることなく、完全に開き直ったようだ。

 働くマルトがかわいいと言ったのはマイラ。となりでサキも、うんうんとうなずいている。これがマルトを働かせるための詭弁だったらまだ救いがあったかもしれない。

 しかし、両手をにぎりしめ、身を乗り出して熱弁したマイラは、真っ赤な顔をして、一世一代の告白をした雰囲気。視線をそらして、「やだ……言っちゃった……」みたいな顔をしている。

 ああ、マイラは本気なんだ。めんどくさがって食事当番を押し付けていたわけじゃなかったんだ。あの日、自分をむかえに来てくれた優しいお姉さんたちが、こっちに着いたら鬼のように働かせるので、あの姿はうそだったんだと思っていたけれど、ちがうんだ。本気で、働いているところがかわいいと思っているんだ。

 マルトは軽い絶望を覚えた。マイラがこちらを見つめるうるんだ瞳は、他に解釈のしようがないのだ。

 そのときいつものように音もなく、マルトのそばに立ったサキが、ぐいと腕を突き出した。差し出された手にはフラスコが一瓶。中にはこれまたあやしい、赤紫の液体。なぜかポコポコ泡が出ている。

「サキ……これ?」

「マルト、ご飯食べてない。元気出るから」

 ぼそっとしゃべるサキの様子からして、どうやら栄養剤か滋養強壮剤といったところのようだ。しかし、何しろ見た目が悪い。色も悪いし、どろっとしていて、絶対美味しくなさそう。

「まあ飲め」

 サキはいつもの調子で、マルトの鼻をきゅっとつまんで、口の中にフラスコの中身を流し込んだ。

 ほああああああ―――――!

 マルトののどから声にならない声が出た。口を押さえてじたばたと転がる。液温は冷たいのに、かあっと熱さが広がり、辛くて苦くて超甘いという、舌の味蕾の全てを刺激するような奇怪な味が広がる。

 そんなマルトをおろおろとして見下ろすサキの表情を見て、マルトはやはりわかってしまった。ああ、サキもなんだ。変な薬の実験台にされてると思ってたけど、本人はちゃんとした薬のつもりなんだ。親切のつもりだったりなんだったり、それでぼくに飲ませているんだ。じゃあこの地雷からぼくは、逃げられないんだ。

「あらあら、大変」

 じたばたもがくマルトをすっと膝の上に抱え起こして、ナーナが言った。

「とりあえずお水飲む?」

 得意の言環理で、鉢植えの枝を伸ばし、台所で水をくんだコップを持ってくる。マルトはあわてて、その命を救う水に手を伸ばす。

 こちらに運ばれてきたコップは、しかし、マルトの手が届く前に、ナーナの手に収まった。マルトを見るナーナの笑顔。でも瞳にはちがう色が浮かんでいる。

 いいこと思いついちゃった。

「飲ませてあげるね?」

 ナーナはくっとコップの水を口にふくんだ。そしてマルトの方にかがんできた。その瞳は、自分の思い付きにどうマルトが反応するのかと、わくわくとした喜びをかくせていない。

 ああ、ナーナだけは、そのままだ。ナーナはマルトが困る様子が、面白くて仕方ないのだ……。


「くそー、働けばいいんでしょ!」

 結局、じたばたと暴れてナーナのたくらみを阻止したマルトは、うばったコップの水を飲み干し、口元をぬぐってやけくそ気味に言った。

 わー、と手をたたいて喜んでいるマイラ、いたずらが功を奏してご機嫌なナーナ、ちょっと心配顔のサキ。三者三様の脇から、メイがマルトにかけ寄ってきた。

「わ、私は手伝うよ、マルくん!」

 メイはどうやら、昨日、自分の早とちりで余計なことをして、事態を悪化させてしまったことを気にしているらしい。素直にマルトを心配してくれるのはメイだけだ。マルトはありがたさに涙が出そうだった。

 こうして愛情をこじらせてしまったお姉さんたちと、優しい女の子と、マルトの新しい暮らしは続くのだった。


〈続く〉

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