晴れ、時々金

 昨日はある意味ついていた。  

 

 その後依頼主に報告しに行けば、忙しいから金持ってさっさと行けと言われた。こっちの話なんか聞く耳を持たないって。なんか土地の値が急上昇したらしく対応に追われてたらしい。

 こっちとしては都合が良かったから素直に言葉に従ったが、言い方がムカついたのでコッソリ契約書を数枚拝借してきた。


 そして今日、清々しい気分で目覚め外へ出ると、ちょうど隣の部屋に泊まっていた人物も扉を開け、外に出ていた。

 ホテルであっても、隣人と会ったならちゃんと挨拶をしなければならない。


「やぁ、おはよう! 今日も最高な一日なるようにお互い支えあっていこうじゃないか」

「ちょっと待って、何で貴方が隣の部屋にいるのよ!」


 俺がする挨拶の中でもかなり爽やかな部類に入る丁寧さで対応すると、隣人、もとい久遠静音は朝っぱらだと言うのに大声を出して驚いていた。


「あの後ちゃんと別れたよね、何でいるのよ。どうやってここに……」

「ハハハ、何を言ってるんだ。あの後一緒にこのホテルまで来たじゃないか、百メートル以上離れて」

「それを一緒に何て言える精神はスゴいと思いますが、ほとんど犯罪ですから、ストーカーですから」


 軽く引き気味で見てくるがそんなものは関係ない。しかしどうも気分が悪そうだ、それは俺がこの場にいることや、体調が悪いなどの理由ではなく、昨日の対応が酷かったからだろう。

 生真面目だろう久遠からしたら、まさに最悪な部類に入るものだったろう。

 

 簡単な会話をしていると、着替え終わったリゼが、目をこすり、アクビをしながらゆっくりと荷物を持って部屋から出てきた。


「フウァ………、あら静音さんおはようございます。今日もよろしくお願いしますわね」

「リゼさんも付いてくる気満々なのね。って、ん? 今同じ部屋から出てこなかった、この男と同じ部屋から出てきたよね」


 世の中、旅は道連れと言うからね、存分に道連れしていこうと考えてますから。

 リゼは俺の荷物も持っていたらしく、カバンと部屋の鍵をそのまま預かった。


「あの、何で同じ部屋に泊まっていたのかしら? もしかして、その、アレですか。お二人はすでにと言いますか……、男女が同じ部屋に泊まるのは普通じゃないような」

「「えっ、普通に泊まってましたが(いたのですが)」」


 なぜか分からないが、リゼと同じ部屋に泊まっていたことを疑問がられた。

 今までも普通に泊まっていたが何か問題でもあったのだろうか。宿賃も安く済むし、逃げる時も同じ部屋の方が都合が良いのでずっと一緒なのだが、ダメなのか?


 お互いが、お互いに疑問を覚えてしまい微妙な空気が流れていると、突如として大きな足音がいくつも響いてきた。

 それは上の階から、下の階から、そしてこの階からも急に響き出した。

 遠くにあったこの音は、やがて曲がり角から大量の人の姿と共に近づいてきた。

 全員が目の色を変え、廊下の真ん中で立っていた俺らの事にすら気付かず、そのまま突っ込んでくる。

 何事か、それを探るために走ってきていた一人の首根っこを掴み止まってもらった。


「おいアンタ、急にこの騒ぎは何だよ。さっさと吐きやがれ」

「ゴホッゴホッ、な、何だよテメェは、こっちは急いでんだよ、離せこの糞ガキが!」


 乱れた息のまま腕を振り払い、汚い口調で俺を罵るとすぐに階段へと向かって行こうとした。

 

「いやちゃんと話してから行けや」

「ヌォ!」

「ちょっとアンタ何をやってるのよ! もっとやり方があるでしょ!」


 去ろうとする男の膝を折るように軽く蹴ると面白いほどに回転しながら少し先で盛大に転んだ。

 少し荒っぽいかもしれないがこれ位は許容範囲だろう、これで怒るなら相当心が狭い人間だろう。


 男はよろめきながら立ち上がるとこちらを向いて怒りの形相で吐き捨てる様に言い放った。


「今あるビルで金をばらまいてる野郎がいるんだよ! 早くしねぇと他に取れるからさっさと行かねぇと出遅れてしまんだよ!」


 唾を飛ばしながら言い終わると、再び急いで男は駆けていく。


 ビルから金を降らすとは、かなりのお調子者がいるもんだ。

 それに群がる民衆でも見て楽しもうとでもしてるのだろうか。全くもって悪趣味な事だ。


「リゼ、久遠の荷物は持ったか?」

「はいこの通りに!」

「いや何で平然と私の部屋に入っているのよ、ちょっと何、急に腕を!」


 リゼが荷物を確保したのを確認し、素早く二人で久遠の両腕を抑える。こんな優秀な能力者を、この何が起こるか分からない世界でみすみす逃がすほど愚かではない。

 あくまでも任意だ、そう強制ではない。俺達は同じ日本人なのだから協力して当然だ。


「よし現場に急行するぞ!」

「オー!」

「ちょっと待ちなさい、何で私まで一緒に行くことになってるのよ。ちょ、まず話しを聞きなさい!」

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