袖触れ合うも腐れ縁

「信じられないッ!」 


 亡者が練り歩く街道で、一人の少女の叫び声が響く。


「おい落ち着け、過ぎた事はしょうがないから前を向いて行こうぜ。あとが壊したから」 

「そうですよ静音しずねさん、終わった事で悩むより未来に向かって生きましょうよ。あと電源室はで壊しました」

「両方が悪いですから!」


 彼女。久遠静音くおんしずねをなだめながらお互いに罪を擦り付けていると再び怒られてしまった。


 元々彼女があのビルに来た理由は、もし戦闘で壊れている部分があるならそこを修復するために来てたらしい。

 あくまでもだったらしい。

 

「しかしお前の能力、何でも直せる訳じゃないのだな。何かと制限があって厄介だな」 

「それはそうよ。何でも直せてしまうと、むしろ不便だからね」


 少し疲れた様に頭に手を当てながらも、律儀にちゃんと答えてくれた。


 直す為の条件。それは直す物の本来あるべき形をしっていること、見た事があるもの以外は戻す事が出来ないらしい。

 もちろんだがあのビルに入った事はない。だが、あのビルの建築業者に行って、それぞれの壁や扉などのパーツを見ていたらしい。

 なので一気にワンフロア全てを直す事は出来ないが、壁やドアを一つずつ地道に直すつもりだったらしい。


 もっとも原型を保てない程に損傷が激しすぎた為、どれがどのパーツか分からず直せ無かったのだけどね。


「今から依頼主に報告するけど、どうせ貴方達だけだと虚偽報告するでしょ? だから私も立ち会わせて貰うからね」


 初対面だと言うのに結構言うね。別に虚偽などはしないというのに。ただちょっと都合の良い様に改竄かいざんしてしゃべるプランを作っていただけだ。

 しかし中々の正義感と言いますか生真面目だと言うか。簡単に言うと俺とは対極にある人間だ。


 ボチボチと人波を縫いながら歩き、改めて辺りの風景を見渡す。やはり代わり映えもない建物ばかり。いやそれよりも近くを歩くコイツらのせいで気分が晴れないのかもしれない。


「――さんっ! なんかあの人たち怖いっっ!」

「こ、こら! ひよりんたち、知らない人を指さしちゃ失礼でしょ!」


 周りの風景に気にかけていると、少し離れた所から、明らかに場違いな若々しい声が聞こえた。

 これだけの、辛うじて人である群れの中だというのにハッキリと聞こえる程に澄み渡った高い声。子ども、それもまだ小学生くらいの。

 俺以外の二人にもハッキリ聞こえたらしく、その声が聞こえた方をみてみる。

 小学生位の子だとこの人波で探すのは困難かと思ったがすぐに見つかった。てか見つけるなと言われた方が困難な程あっさりと。

 目立つ。何あれ、そんなにサンバが好きなのだろうか、年中カーニバル状態なのだろうか。

 

 そのカーニバル少女はしばらくコチラを見ていたが、目が合うとハッとした様子で背筋を伸ばし軽く会釈をすると、そそくさと近くに居た双子(?)の手を引いてこの場を去って行った。



 ん? そういえば最初に誰かと会うかもしれないとかなんか考えた気もするが、まぁ良いだろう。


「スゴいですわねあのカーニバルの人。こんな場所に子どもを連れてくるとは」

「確かに子どもは気になるけど……、カーニバルの人ではないと思うよあの人。天使かそれに近い種族なのよきっと」


 えっ、カーニバルじゃないのかよ。


 リゼが違いを指摘され驚愕している横で密かに俺も顔には出さずに驚いてしまった。 


「まぁ、あの小さい子達はあの天使の妹なんじゃ……」

「いやアレは妹じゃない。おそらく娘だな」


 これにはかなり自信がある。のだが、なぜか久遠からは冷ややかな目で見られている。そして静かにため息をついた。


「あのね、さっきの人よく見たの? あの見た目で子どもを育てるって、一体何歳の時に産んだ事になるのよ」


 確かにごもっともだ。普通に考えたらあの見た目で二人も産むなどはできしないだろうな。だが、


「あの接し方は姉妹にやるもんじゃないな。あの手の繋ぎ方、あれは親子がするもんだ。もしくは保育士か子を預かる立場の人間だな」


 キッパリとこれは言い切る。といっても別に張り合ったりするもんじゃないけどなこう言うのは。相手が親子であろうが姉であろうがこっちに何かある訳でもないし。

 だとしても俺の意見としては、あの少女はカーニバル母さんで変わりないけどな。

 俺達はそのカーニバル母さんとすれ違った場所を後にし、目的地へと進んだ。

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