元に戻すだけよ

 頭が狂っていないと造れない自動掃除機マンボを壊し終え今から帰ろうと言うこの瞬間に事件は起きた。


 いや、起きたのはもう少し前だろうけど。たぶん、いやかなり正確だとは思うけどリゼがジャストミートしたその時に起こった事故だろう。

 そうこれは事故だ。起こそうとして起こった事件ではない、責任はない。そもそも俺には責任は絶対に発生しない。だって止めたもん、下に人がいたらどうするって言ったもん。


「取り敢えず鮫が群れてる場所があるらしい、そこで始末しとこうぜ」

「他の場所に持って行くのは危険だと思います。何人か殺されても文句の言えない小悪党をここに集めてビルごと燃やしましょう」

「あの……、隠蔽を企てる前に病院に連れて行くとかの発想はないのですか?」


 俺以上に冴えた提案を挙げたリゼを褒めようとした所、転がっていた彼女は弱々しい声ながら会話に参加してきた。

 頭上に当たったのなら即死とまではいかないが重症を負っていると思っていたが生きていたとは予想外だ。当たり所がよくその程度で済んだのだろうか。


 痛む頭を擦りながら立ち上がる彼女の容姿をつぶさに観察する。

 年齢は…………、同じくらいか。格好からして高校二年生と言った所だろうか。

 身長は俺よりも普通に低いな。なんならリゼよりも低いだろうが、そもそもリゼの身長が高めだから平均的な身長なのだろう。

 長い黒髪も手入れがされてあるのか艶がある。特に制服を着崩したりはしていないのを見ると真面目か、かなり几帳面な性格なのだろう。 

 黒髪で制服、こいつもしかして日本人なのか?

 


「あの、なんですか? ジロジロ見られるのはあんまり気分が良いものではないのだけど」

「あぁ気にすんな。相手の一挙一投足を観察してしまうのは癖なだけだから」

「その癖が気になるのですよ」 


 思ったよりズケズケ言う子だった。まぁそれは良い。


 止めろとは言われたけど癖なのだから止めれる事は当然できず、もちろん止める気もなく見続けていると、リゼの方が話を始めだした。


「ところで貴女あなたはこんな場所にいるのですか? 正直あまりここには関係なさそうですが…………」


 そう言われると確かにそうだ。

 あまり力があるようには見えない。それにここは観光に来るような場所ではなく、そもそも少し大通りから外れてまでこのビル前に理由もなく来るはずがない。

 それを聞かれると何か思い出した様に、あぁ、と少し声を漏らした。


「このビルに用があるのよ。何かこのビルにいる外敵の処理をお願いしたけど嫌な予感がするって不動産の人に頼まれてね、それで私はここに来たのよ」


 ん、あのオッサン他にも頼んでいたのか? いや言葉の感じからすると俺達が依頼を受けた後に頼んだ形だ。あのクソジジイ、後で陰湿で身バレしない嫌がらせの方法考えないといけないな。


「それはご苦労様な事で。だがついさっき依頼は終わってな、マンボはこれ以上猛威を振るう事はない。だから折角来てくれたのに悪いがもう帰って」

「はい? 私が来た理由はそのマンボを倒すのではないわよ。その後始末をしに来たのよ」


 はい、後始末だって? その言葉に少しヒヤッとした所、補足する様に話を続けていく。


「このビルをなるべく壊さない様にとお願いしたけど相手が『あっ、うんうん分かった。取り敢えず善処する』って言葉に不安を覚えたから私に頼んで来たの」


 あれ、そんな事言ってたっけ? ほとんど面倒臭かったから機械の性能を聞くまでは、ガラス張りの机に付いた傷を数えてたからな。

 覚えているかどうかを聞こうとリゼの方を見ると、向こうもキョトンとした顔でこっちを見ていた。 

 そんな俺達を胡散臭そうな目で一瞥するとため息をつき、なんの道具も持たずにビルへと入ろうとした。


「おいおいちょっと待て、何無防備に入ろうとしてんだよ。それに後始末って何をするつもりだ」

「何ってのよ。貴方達が壊したた場所を元通りにするのよ」


 言ってる意味が理解できないでいると、彼女は先程割った自動ドアのガラス片を摘まんだ。



 そして変化は目に見えて起こった。



 手に持った欠片は吸い付く様に真っ直ぐ地面に落ちた他のガラスへとパズルがあわさる様にキレイにくっつく。

 さらにその破片の近くにあった細々としていた破片達も別々に引き寄せ合い大きくなっていく。

 やがてほとんど破片がは一通り近くの物同士でくっつくと、宙に浮かび上がり、また空中でさらに引き寄せ合って行く。

 集まり、一つの透明な板に戻りかかっていたそれらは、寸分のズレもなく俺が壊した部分へと宛がわれていった。


 ハハ、まじかよ。こんなふざけた能力があるとか反則だろ。まぁ自分で世界線越えた俺も大概かもしれないが、にしてもありえないだろ。


 俺が驚嘆しているのに目もくれず、完全に元通りになった自動ドアの前で凛々しく、涼しい表情で立っている。

 


 凛々しい顔で…………。





 凛々しい顔で………………。




 凛々しい……………………。





「そのドア電源入ってないから開かないよ」

「――――ッ!」


 さっきまでの凛とした表情から一転、耳まで真っ赤にしてドアが壊れているのに気づかせれ恥ずかしがっている。

 普通、数秒待っても開かないなら勘づくものだろうが。


 この娘あれだ、ちょっと天然だ。

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