百の壁

 初めの一体を倒して五分程経っただろうか。高台から土を除去しに来たマンボを逐一壊しに続ける作戦、これ間違いなく成功していた。その証拠に十体以上はすでに壊している。

 だが誤算があった、余りにも大き過ぎる誤算が。


「柳田さん多いです、さすがにこんなに多いと捌き切れません!」

「騒ぐな! 取り敢えずは目の前にいる奴を壊すだけで良い。打破する策なら今考えているから少しだけ持ち堪えてくれ」


 予想外だった、まさかここまで大量に湧いて出てくるとは。目の前には何台ものマンボが土に何らかの液を掛け泥にし吸い込むか、朽ち果てた仲間の死体を細切れにして道を洗っている。

 僅か数分でこんなに集まるとは、きっと何らかの方法で連絡を取り合っていた。もしくは壊れたマンボを掃除しに何台もが来て、それを壊した事で更に増えたのだろう。

 同じ場所で倒し続ければ必然的に残骸が溜まる、それを探知して集まって来たのかもしれない。

 このままだといずれは土は崩れる、そうなったらこの数をいなすのは流石に無理がある。こんな状況じゃ、節約や温存など言ってられない。あまり使うと今後が不安だが仕方ない。


「リゼ! 鉈を地面にブッ刺さしてくれ。残りの全ては俺が吹き飛ばさせて貰う」


 俺がそう言うと素早く刃の部分を全て土の中に入れる。今からする事をいち早く理解してくれるお陰で、一から十を説明しなくていいのは本当に助かる。


電衝撃ショックボルトッ!」


 一度放たれた電撃は一台に当たると、すぐ隣り合わせになっていたマンボにも感電する。何でも破壊できる掃除機なら、当時内部構造は複雑に決まっている。今放ったのも通常よりは低めの電圧、しかしそれでも機械なら致命傷なのは確実だ。

 中の配線が、外から流れ込んだ電気に耐えきれずに焼き切れる音がこのフロアに響く。その後は何も聞こえない、桁ましく動いていた刃の回転音も鳴り響かない。

 

「何とかいけましたね、全部壊れていますよ」

「だが、しばらくしたら間違いなく新しいのが来るに違いない。それまでにどうにかしないとまた追い詰められる」


 鉈を引っこ抜き、付いた汚れを払いながらゆっくりとマンボがいない床に足をつける。

 俺も本を脇に挟みながら軽くジャンプして高台から降りた。

 しかしホントにどうしたものか。正直このやり方で簡単に終わると思っていたが、そんなに上手くは行かないものだな。

 だが相手はそこまで強くはない。電気を浴びれば止まるし、力を加えればすぐに壊れる。問題なのは量だけだ。

 だが逐一ご丁寧に一体、一体を倒すなど面倒なことはしたくない。それに魔力は温存しないといけない。

 本来魔法というのはセンスが必要で、それが無い人間は低位も低位、最低級の魔法すら使えない事が多い。

 それを俺はこの魔導書と、ネックレスに溜まった魔力を消費して行使している。

 つまりこの魔力が尽きれば魔法は使えず肉弾戦に持ち込まれる。そして俺の体は貧弱虚弱で一般以下の力しかない。

 戦闘中に魔力が切れることは、そのまま対抗手段が無くなると言う事になる。

 だが、どのみちケチって死んでしまえば本末転倒も良いとこだ。こうなったらもうアレだ。


「電源室を壊す」


 ビルを手に入れて家賃収入だけで暮らそうと思っていたが、もうそれは諦める。

 ビルが貰えないと決めたなら、もう幾らでも設備を壊したって構いはしない。そっちの方が俺も魔法を使えるし、リゼも思い切り暴れられる。

 だとしたら、どうやって電源室まで行くのか。エレベーターもあるが電源室を壊すとなった以上、行きは使えても帰りは使えない。

 マンボは充電式だ。充電が切れれば止まるが、それまでの間は元気に動き回っている。

 帰りだ、壊したらどうやって戻るか。それが一番の鍵となる。


「リゼ、取り敢えず行きはエレベーターで行く。前衛は全て任せる事になるが構わないか?」


 転がっているマンボの残骸を、鉈の先で突っついていたリゼに俺は問いかけた。

 リゼは当然とも言わんばかりに明るい表情で「はい」と元気に答えてくれた。ありがたい限りだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 エレベーターの小気味良い到着音が五階フロアに響く。他には何も音はない、強いていうならマンボの移動をくらいだ。

 しかしそんな静かな状況は、エレベーターのドアが壁ごと吹き飛ばされる事で瓦解した。

 土埃が舞い広がり、近くにいたマンボ達が一斉に反応して動き始めた。

 そんな中で土埃から出てくる影は、火花を散らしながら鉈を引きずり満面の笑みで高らかに言い放つ。 


「レッツ破壊活動です!」

「いやコレに関しては依頼でやってる訳だから。もうちょっとマシな言い方ないの?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る