本編
マイソフォビア・ロボット
天にそびえ立つは灰色の塔。行き交うは暗めのスーツに身を包んだ亡者達。流れる風は生暖かく、肺に注ぎ込まれる空気は体を癒さずダルくさせる。重い、肩にのし掛かる同調圧力が体からヤル気を奪って行く。
「リゼ、ここは俺にとっては死地に近い場所だ。さっさと仕事終わらせて帰るぞ」
「ここは確かに私も好きではないですが、仕事の前から消耗し過ぎじゃないですか? 顔真っ白ですよ」
よろめく体で何とか歩いてきたが、あと少しの距離だと言うのに帰りたくなってきた。
現在居るのは第二コロニーの「テトロミノ」 、簡単に言うと社畜の巣窟。
現代日本の闇を、熟練のマスターが何倍にも濃縮してドリップさせた様な場所がここ。まさに俺にとって悪夢の場所だ。
楽そうな依頼だと思って受けたら、まさかこんな場所が仕事場だとは。早まったことをしてしまった。
「あー帰りたい。もう依頼とかどうでも良いから帰りたい」
「ダメですよ。それにコレを選んだのは柳田さんじゃないですか。ル○バの類似品を解体するだけなら直ぐに済むって」
「言ったけど、そう言った後にビルが手に入ったら家賃収入だけで生きていくとも言ったけど!」
ふらつく足を何とか前に進ませながら、おそらく一般よりも数分遅れて目的地についた。
そこは十階建てのオフィスビル、かなり外観にこだわりを持って設計したのだろう。素人目で見ても凝っているのが分かる。まぁただのビルが凝っている必要があるのかどうかで言われれば必要ないのだけどね。
「スゴいですね。さっきから無駄に大きな建物がありましたがここは特に無駄な部分を凝ってますね。よっぽど拘りがあったみたいですねコレの持ち主は」
「内装や設備にも色々注文してたようだが、それで死んだのだから間抜けも良いところだけどな」
そうなのだ、今回相手する機械はその社長が無理を言って作らせたものだという。そしてその機械に社長は殺されたのだとか。
しかも戦闘ロボットかと思ったら全然違った。
お掃除ロボット、いわばルン○である。
もちろんそれは○ンバではないらしい。名前はマンボ、壁と床以外を全て綺麗に掃除してしまうアホな機能を備えた、ある意味世の中で一番高性能な掃除機とも言えるだろう。
「まぁ不動産のジジイがぶっ壊せと言うのだから仕方がないよな。それで稼げてかつビルも手に入るなら万々歳だがな」
「ビル貰うには被害を抑えなければと言われてますよ? 大丈夫なんですか」
「それが大丈夫なんだよなー。取り敢えず入ったら俺の言う通りにまずやってくれ」
悠々と中に入るば、予想通りに丁寧な造り込まれたであろう内装が広がっていた。
きっとしばらくしたらルン……もといマンボが直ぐに現れるはずだ。ならその前に下準備は済ませておく。
俺は魔導書を取り出し手を前に掲げる。まぁ別に掲げる必要はないけどね。
「
ただ土を創るだけの魔法だが、要は使いようだ。上手に使えば何でも強力なものになる。
俺は今室内に出来た土の山に登ると、更に上から魔法を出し足場を高くする。
今回の敵の弱点は段差だ。これに関しては全ての掃除機に当てはまる事だろう。
乗り越えられない高さを陣取り、掃除しに来たマンボを上から倒す。まさに完璧な作成、卑怯だとかセコいだの言葉をここで使う奴はいないだろう。相手に合わし、最善の行動を取ることこそが最高の戦闘なのだ。
「何か来ましたよ! 小さいのが、小さいのがなんか動いてますよ」
初めて見る機械に少し興奮しながら向かって来るマンボを指差している。
円形の平べったい見た目、地面を滑るように移動するその様は完全にアイ・ロボットの自動掃除機であった。
「よし近づいたらぶち壊せ。スピードはそこまで無いから落ち着いて」
「待って下さい、何かちょこまか動いていて壊すのが勿体なく思えてきたのですか! アレに一回乗ってみたいという欲求が出てきて壊しにくいのですがどうすればいいですか!」
「アホか、何だその猫みたいな発想は、乗れる訳ないだろ人間が! それによく音を聞いてみろ、全然可愛くないからな」
シュレッダーが素早く回転し、空気を斬るその音は掃除機には似つかわしくない。ってか予想以上に威力が高そうだ。
さすがにアレを見たからか、少し興奮していたリゼの顔は冷め、黙々と鉈を取り出し構えていた。
やがてマンボは床をピカピカに磨きあげながら足場へとぶつかる。おそらく室内に現れた土を除去しようとしているのだろう。
しかしたった一台で吸える量ではないのは確か、そして綺麗にする事ばかりに気をとられているなら上から攻撃するだけだ。
天井高くに掲げられた鉈は、刃先を地面と垂直になるように振り落とされる。この場合は斬るじゃあない、砕くその表現があっている。
「よしナイスだリゼ、このあとも次々来ると思うが壊すだけで良いからな。俺は魔力温存するから全部任せたぞ」
「はい、任されました。この……、マンボでしたっけ? 思ったより柔らかいので早く終わるかも知れませんよ」
それを聞いて更に安心した。元々勝算しか無かった依頼にリゼが柔いと判断できた程の耐久性。思ってたより断然早く終わるかもな。
この時の俺はそう考えていた。
だがそれは甘かった。このマンボとやらが想像を越えた力を発揮するなどとは、俺達は考えてなどいなかったのだ。
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