到着、アッシュワールド
宿屋で行われた異世界転移。それは俺が体験した最初の転移とは違いかなり近未来的なものであった。
いつの間にか廊下の端に出来ていた扉をカチカチと、リゼが鉈を突き付けて催促されながら作業を素早くこなしていた。
まぁ若干手が震えていたり涙目になっていたが別に良いだろう。いい大人なんだからこんなのでトラウマになる訳ないだろ。
そして息を切らしながら生きているということの喜びを噛み締めながら、作業を終えた事を伝えてくれた。
「終わりました……、予定より早くこなしましたが不具合はないでしょう。それより少しだけ休んでも」
「柳田さん、終わったそうなので早速行きましょうか。荷物の用意は終わってますよね?」
「ん、じゃあ行くか。おいオッサン、何を後悔しているのか知らないが行くぞ」
全てを諦めた様に達観した男はもう何も言わずに扉を開けた。そしてリゼは先に入ろうとした男の肩に衝突しながら中へ入る。
光が一切見えぬ暗い未知の空間によくも恐れずに入って行けるなと感心しながら、俺もゆっくりとした足取りで扉を
その中はそこまで広くは無いが三人入るのには無理はない。ただ天井がもう少し高ければ文句はないのだが贅沢は言わない。向こうで贅沢言うから今は我慢だ。
扉が閉まると僅かな振動を感じたかと思うと再び静かになる。少しだけ音が聞こえるので少し前のエレベーターと言った所か。まぁ普段から外に出ない俺だから最新のエレベーターがどれだけ静かなのかは知らないけど。
しばらく何も話すことはないので他二名の顔を観察してみる。
男の方は当然と言うべきかかなり疲れた顔をしているが、あと少しでようやく解放されるとの希望がうっすらと見える。どれだけ辛い労働環境にいるのだろうか、残念なことだ。
そしてリゼはと言うと、まるで初めての遠足に行く小学生かのような無邪気な顔。緊張感が全く伺えず、これから起こることは全て楽しいことしか無いとでも言わんばかりに明るい。
正直、そんな甘くは無いと思うよ。俺なんか希望を胸に地球飛び出したら即効でお縄に付く事になってしまったのだから。
本来ならもっと他のラノベ主人公みたいに華々しい人生を遅れたのかも知れないと言うのに――――
――――まっ、そのお陰かは知らないがリゼと縁が合ったのだから一概にも悪いとは言えないだろうけどね。
やがて再び振動が体に伝わると、目の前の扉がゆっくりと開き徐々に光が漏れてくる。
目の前に広がる光景は、かなりシンプルだった。
等間隔に建てられた幾棟もの真っ白なビル。並木通りに植えられた木は初めて見るが、なとも人工感が強い。
もっと人が行き交うかと想像していたが思っていたより人は少なかった。それでも少ない訳ではない。
しかし道行く人は、コスプレかと言えるほどの独特な格好な者が多い。
「ここには変わった格好の方が多いのですね」
「だな。けどリゼの格好も中々の物だとは思うけどな」
「それを言うなら柳田さんが最初に着ていた制服も変でしたよ」
ボンヤリ辺りを見渡して気づいたが、どうも太陽の光というものが嘘っぽい。いつか行ったドーム球場のような光っぽさ、だとしたらこの外はどうなっているのか。そしてここの広さは、これが相当の大きさがあればかなり強い光という訳だろう。
異世界転移の技術もそうだが、元居た日本より技術は数段も上だ。これなら世界征服も夢じゃないだろうがしないのだろうか? まぁしないか、これだけの技術ならもっと面白いことが出来るのかもしれないし。
「あの取り敢えず私に付いてきて貰っても良いですか? これから活動してもらうのに身分証を発行する必要があるので事務所に来て欲しいので」
身分証ね。正直その手の書類は苦手なんだよ、面倒だから。やたら項目多いし説明が細かいし目が疲れるし時間がかかる。でもそれが無いと始まらないのなら行くけど。
男の後ろに付いて、横路にそれそうになったリゼを捕まえながら数分歩いた。歩いて分かったのだが、ここはあまりにも整頓されすぎていた。
同じ建物、同じ色、同じ間隔、全くとして個性がない建物ばかり。これだと道を覚えるのも一苦労だ。
そのまま同じ見た目の内一つの建物へ入ると、そこはそれなりの広さがあり俺たち以外にも結構人がいる。受付のような場所に様々なチラシ(?)が貼られたボードが壁に大きく設置されている。他には観葉植物にソファー、自動販売機も数台置いてある。
「それではこの書類に氏名と生年月日を。それさえ書いたら受付で発行してくれますので私の案内はここまでです。ホントにここまでですから!」
「そんな語感強めなくとも。別にこれ以上は振り回さないから」
少なくとも俺はね、リゼがどうすかは知らん。ってかどんだけ追い詰められたのだよ、したのは精々押さえ付けたり、死に方選ばしたり、鉈突き付けて急かしたり位だったような。これでキツイとか、さてはオッサンゆとりだな。
その後も説明をしてくれたが、その度に終わりを強調してきてムカついたので無理矢理迷惑かけようかと考えたが、そんな体力使いたくなかっのでスルーさせて貰った。
あと説明は途中まで聞いたが後半からはほとんど聞いてなかった。一瞬リゼの顔を見たけど恐ろしい程に目が澄んでいた。その顔する時は絶対他の事考えているに違いないのでもしかしたらここで立ち往生することになるかも知れない。
「それじゃあコレで説明終わりですよ! 一応名刺は渡しますが全て説明しましたから」
「ハイハイちゃんと説明は聞いてたからね。きっと呼ぶことはないよきっとね」
どこか不安気な様子でこの場を後にした男。名刺を見ると名前は「小早川」と書いてあった。まさかの日本人かよあの見た目で。
……まぁ社畜根性は似たものがあったから少し納得できるかも。
近くのソファーに座り、付属されていたボールペンで空欄を埋めていく。誕生日とかは西暦でいっか、転移した世界での戸籍とか持ってなかったし。
思いの外書く欄が少なかったので辺りを見渡す。本当に変わった人らが多いな。
こんな人たちがいるならきっと『天使』や『ゾンビっ娘』や『魔女の探偵』、『霊能力みたいなモノを使える高校生』に『名字が安田』の人に会ってもおかしくない。
えっ、何でそんな具体的かって? そんなもの俺が知るか。
ストロンガー並みの破天荒さを決めた時にチラリと隣を見ると、ちょうどその時に書類を書き終えていた。
「よしじゃあ提出してさっさと依頼受けて豪遊するぞ」
「ハイ、ですが豪遊する前に神器の情報集めもしてくださいよね」
適当に相づちを打ちながら俺たちは受付の方へと歩いて行った。
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