前日譚

とある日のこと

「で、最後の言葉はそれでいいな?」

「ちょっと待て、ホントにちょっと待て下さい」


 俺がこの世界に転移してからしばらく経った頃、ある宿屋に泊まっていた。すると部屋のドアを叩かれたから開けると、今この場でリゼに取り押さえられているスーツ姿の男が立っていた。

 そしてコイツは俺を見た途端に突拍子もないことを言い出したのである。


「あのなオッサン。異世界がどうだとか、ハンターが何だとかそんな胡散臭い話を誰が信じるの、って話な訳よ」


 しかも話相手を間違い過ぎだろ。俺たちは絶賛指名手配中なのに、そんな俺らがターゲット捕まえろだとか。棚上げも良いところだ。


「ですが柳田さん。私も最初柳田さんに会った時、異世界から来たと聞いたのですが」

「良いかリゼ、俺が言ったのは本当だ。しかしコイツが話したことは嘘、新手の異世界異世界詐欺って奴だ。騙されるなよ」

「なんだよ異世界詐欺って! いい加減離してくれ、なんで女の方が力強いんだよ!」


 詐欺師が何か喚き始めた。まぁリゼの馬鹿力については俺も思うところがある。俺はコイツに腕相撲で勝てる気は一切しない。

 だが今それは関係ない。問題はコイツが誰で、どういう目的で来たのか、そこが重要なのだ。


「まぁ話は聞いてやる。けどその前に鉈と斧と縄、どれが良い?」

「完全に殺し方の話だよね。殺意満々だけど君ホントに日本人なの? 自分が知ってる話とは全く違うのだけど」


 いやこれでも立派な日本人ですよ。ちゃんと怪しい人には付いて行かずに、通報するぞと脅して身ぐるみ全て奪えと教わっていますから。

 しかし日本のことも知ってるのか、益々怪しいぞ。顔立ちは決して日本らしいものではないが、しかし白人とも黒人とも違う肌の色だな。どう形容すれば良いのか……


「まぁ取り敢えずどうするかは後にして、一度話を全て聞いてみませんか? どうせ死ぬのですし」

「君も中々に殺意あるね!? だが話は聞いて、ホントにこれは君達の為にもなる話だから」


 君の為になるからと押し付けがましいことを言ってるが、しょうがない。どうせゲーム序盤のように話を聞かないと進む気配がないから先に聞いてあげよう。


 そして話出したのはあるカンパニーのこと、そしてそこが管理する世界では沢山の犯罪が起きているとのこと。それを何とかするために今回は幅広く、様々な人を集めていると。

 犯罪者を捕まえれば賞金が手に入り、様々なことができる。依頼で得た金で豪遊しても良いし、バカンスを楽しんでもいいとのこと。


「なるほどね。取り敢えず縄、斧、鉈の順番で良いかな?」

「いえ私は斧と鉈の順番を逆にして縄を針に変更したいのですが」

「ちょっと待て、話ちゃんと聞いてた。なんで使う武器の順番決めてるの」


 いや無理だろ。流石に今のでよし行こうとはならないよね。

 しかもカンパニーって、今までの実績聞いたら滅茶苦茶なことしかしてないじゃん。

 生物実験の為に人を異世界よそから呼んでみたり、ロボット使って暴れたり、果ては人を殺し合って社長の座をかけたりとか。エンジョイし過ぎだろ、SNSに上がったら即効炎上して潰れるね。  

 そんな経歴があるのに、今は社長が決まって安全だから心配ないとか。どうせソイツも殺し合いで地位を得たどうしようも無い残念な人なんだろ。


「信頼得たいなら御託ばっか並べんな、行動で示せよ。これ別に会社とかそういうものだけに当てはまる話じゃないからねホントに」

「柳田さんにマトモな事を言わせるのはよっぽどなことですからね貴方」


 おいおい、俺は常にマトモなことしか言ってないから。ちゃんと論理立てられ、哲学や文学に基づいた発言なんだから。上部だけの平和論なんかよりよっぽど説得力がある。

 国民の幸福のためとか、戦争法案反対だとか。どれも具体的な内容が無さすぎる。

 幸福の為に何をするのか、改正しない方法で何かそれ以上のモノを提示できるのか。

 何にも言わずにただ当選するだけに尽力を注いでいるの奴らがいるのだから、それに比べれば俺なんてマジ神。マジキリスト、マジブッタ。


「まっそれは良いとして、サヨナラね」

「いや待って。ホントに大丈夫だから、同年代の子も居るからさ。ねっそれに異世界だと誰も追えない最高の避難先だと思うから!」


 それを聞いて少し考える。


 確かに異世界なら誰も追えないし、わざわざ抜け穴造るとか門番絞めるとかしないでも行動できる訳か。

 そもそも異世界なんてあるのかって話だけど。事実こうして俺も進行形で異世界にいる訳だし、まんざら嘘では無いのかもしれない。 


「でもなアンタ、一体どうやって行くつもり何だよ。俺だってここ来るのにビックリするほどの魔力使ったんだけど、そんなポンポン気軽に使えるものではないけど」


 俺の発言得て希望を見たのか、活気ずいて話始める。未だに組伏せられたままに。


「異世界転移の方法はこちらの最先端技術で楽々行えます! 更にハンターとして来られる場合は色々な手続きも不要になりまして……」

「行ける方法があるならそれで良いから。細かいこと言われても分からん」


 大まかに簡潔に言ってくれればそれで良い。ってかそれが良い。

 携帯買うときはやたら話が長いは新しい単語が出てくるは何の眠くなる。まぁそれを狙っての行為だから意地でも話全部聞いたのだけどね。


「柳田さんホントに信じるつもりですか? 便所の鼠みたいに穢らわしい組織みたいですよこの人がいる場所は?」

「まっホントに嘘を一切ついてないから正にそうだな。だけど嘘が無いってことは金が入るのも逃走できるのもホントということに為らないか」


 だとしたらこっちにもメリットは多い。利用されるようで癪ではあるが、そっちに行く利点の方が多い。


「因みに嘘は無いのだろうな」

「当然ですよ! もう何人にも当たって断られてきて、このままだと上司にヤキを入れられるのですから!」


 何というか、社畜体質なのかな? 良いように利用されて終わるよそのままだと。

 今としてはそちらの方がこっちとしてはありがたいのだが、将来を見越すと赤の他人である俺が不安を覚える程のものがあるね。


「まっそう言うことだ。それに異世界なら神器並みの物が沢山……」

「行きましょう、早くしましょう、さっさとしましょう。ほら貴方、いつまで寝転がっているのですか急ぎなさい」


 まだ途中だったんだけどやる気になっから結果オーライだ。


 ――――人生二度目の異世界転移だ。少し位はやる気を出そうと善処することを議題に上げるかどうかを考えようかな。


「柳田さん早くしましょう、他に取られる前に! 取られても奪いますが!」



 ……中々にバイオレンスなことで。なんかリゼが向こうで羽目を外さないか不安になってきた。



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