2.
【6】のどかな田園地帯を走るローカル鉄道の車内
僕が窓の外を眺めている。やがて列車は田園地帯を抜けてトンネル内に入る。窓の外が真っ暗になって、窓に車内の様子が鏡写しになる。
【7】(回想)僕のアパート
何も無いガランとした部屋に、年配の女(大家)が立っている。女はあちこちを見て回ったあと、部屋の外に出て鍵をかける。部屋の外の通路には、僕が立っている。
大家 「特別、問題は無いようだね」
僕 「お世話になりました」
大家 「いいえ、こちらこそ」
僕 「さっきも話しましたけど、敷金は全額、部屋の補修なり清掃なり、大家さんの方で使ってください」
大家 「本当に、良いのかい?」
僕 「ええ。どうぞ。転居先には電話が無いらしいから、何かあったら手紙で連絡をください」
大家 「余計なお世話かも知れないけど、その遺産相続の話、本当に大丈夫かい? なんだか
僕 「……」(困惑気味の愛想笑い)
大家 「まあ、何にせよ、元気でね」
僕 「大家さんも」
僕、旅行鞄を持ち上げる。
僕 「それじゃあ、さようなら。お世話になりました」
大家 「さようなら」
【7】(回想から戻って)列車の中
トンネルを脱して、再び外の景色が見える。線路の両側に迫る木々。深い森の中を走っている。
【8】森の奥深くの駅
線路脇にコンクリートの
執事 「お待ちしていました」
僕 「あの、
執事 「はい。執事をしていました。旦那さまが旅立たれ、すぐに私もお屋敷を辞するつもりだったのですが、新しいご主人がいらっしゃると聞いて、せめてご挨拶をしてから去ろうと思いまして、お待ちしていました」
僕 「はあ、どうも」
執事と名乗る男、手のひらに自動車のエンジン・キーを載せて、僕に差し出す。
執事 「どうぞ、これを」
僕 「これは何ですか?」
執事 「自動車の鍵です」
僕 「この車の?」
執事 「はい」
僕 「僕が運転するのですか?」
執事 「自動車の運転をした事はありますか?」
僕 「いちおう、運転免許は取りました。しかし自動車学校を出てからは一度も……」
執事 「では、どうぞ、お受け取りください」
僕、仕方なしにエンジン・キーを受け取る。
執事 「これで、安心して、お屋敷を去る事ができます。では」
執事、いきなりカラスに変身して空へ飛んで遠くへ去る。僕、その姿を呆然と見上げる。カラスが遠くへ行って見えなくなっても、しばらく空を見上げ続ける。そして、ようやく、視線を下げて手のひらの鍵を見る。自動車のトランクを開け、旅行鞄を載せ、運転席へ
無意味幻想譚・その2 青葉台旭 @aobadai_akira
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