第20話 龐統初陣
魏は赤壁、合肥、南郡、襄陽で立て続けに大敗した。曹操は再び南征軍を組織しようとしたが魏軍には南征に対して苦手意識を持っているので漢中から西川を狙うべきだと云う文官の意見を取り入れて将兵の訓練に時間を費やす事にした。
その文官の名は司馬懿仲達。魏延がこの世において最も忌み嫌う人物であり、前世の魏延を間接的だが殺害した張本人である。魏延はこの男と呂蒙のせいで劉備が漢室復興を為し得なかったと考えており、二人だけはこの手で殺してやりたいと常に思っていた。その司馬懿が表舞台に現れた。
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呉は来賓として迎えた劉備に対して家臣が襲撃を企てるなど内部に不穏な空気が流れていた。孫権は周瑜・魯粛と協力して張昭・程普ら首謀者を政権中枢から追放し、実行者の呂蒙については将軍位を剥奪して謹慎させた。その呂蒙の代わりとして魯粛の推薦で一人の若者が将軍位に抜擢された。その若者の名は陸伯言、夷陵で蜀を大敗に追い込んだあの陸孫である。前主孫策の娘婿だがその実力は周瑜も認めている。陸孫も周瑜・魯粛と同じく孫劉同盟堅持派であり、三人で主流派を形成する事になった。
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宴席で太守補佐役に任命された龐統は翌日には政庁に出仕、張飛と対面して正式に荊州軍従事として太守補佐役に任命された。龐統は魏延の協力の下、精力的に行動して軍の強化を図った。
「戦いと云うものは形があってないようなものなんだよ。敵の動きを予測した上で最適な手を打てば仮に勝てなくても負ける事はないね。」
「兵法はあくまで指針だね。その通りに動いて勝てるなら誰も苦労はしないよ。兵法に使われるんじゃなく使ってやるんだ。」
「戦では故意に負ける事も必要だね。退く事に悔しがったり恥じたりする方が愚かだよ。追い掛けてくる敵さんを心の中で笑ってやれば腹も立たないね。」
襄陽には勝ち気な者が揃っている。大将の張飛自体がその筆頭である。魏延も前世では負け役を数多く命じられて嫌々従っていた。現世ではその事に気付いていたが龐統の話を聞いて自分の考えが如何に愚かだったかを改めて思い知らされた。張飛や胡車児らも龐統の話を聞いて納得の表情を見せていた。
役目が終わると魏延の家に集まって宴会が始まる。胡車児と龐統は魏延の家に居候しているので張飛・張南・馮習の三人が毎日のように顔を出しては酒を酌み交わして戦談義に花を咲かせている。家を酒家代わりにされている魏延からすれば少々迷惑だが龐統から為になる話を聞けるので文句を言う気にはならなかった。
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樊を守る徐晃は南郡での失態を挽回しようと考えていたが曹操から南征を行わないとの知らせを受けて苛立ちを募らせていた。何度か襄陽攻撃を提案したが斥けられた事でついに堪忍袋の緒が切れた。軍令には独断専行しても功績を挙げれば不問にすると云う一文がある。徐晃はそれを利用して襄陽攻撃する事を決断、密かに出撃準備を始めた。
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樊での出来事は物見を通じて襄陽に知らされた。知らせを聞いた張飛は直ぐに龐統を呼び出した。
「先生、魏軍が攻めてくるぞ。」
「話は聞いたよ。許昌からの援軍無しで来るとは敵さんも中々短気だね。」
龐統が姿を見せるなり大声で話し掛けた張飛に手を振りながら魏軍を揶揄した。張飛から樊の状況を聞いた龐統は少し考え込む様子を見せたが直ぐに地図が掲げてある壁面に近付いた。
「あっしが思うに水軍は囮だろうね。みんなの目を襄江に向ける為の。本命は西から浅瀬を渡って攻めてくる筈だよ。」
龐統は襄陽西方にある河川の合流点を棒切れで円を書いた。龐統は激務の間を縫って襄陽周辺を視察しており魏軍が襲来する場合の進行路を予測していたので頭の中には迎撃する手順がしっかりと描かれていた。
「胡車児には城を守って貰うよ。魏軍が来ても相手にしないで適当におちょくれば良いよ。」
「よく分からんが任せてくれ。罵詈雑言を並べて馬鹿にしまくってやる。」
「張南と馮習は水軍で襄江を渡河する魏軍を叩いて貰おうか。おそらく敵さんも水軍を出してくるが陽動だね。近付いてきたら戦い、近付かなければ監視に留める事。」
「承知致しました。」
「魏延には上庸に向かう街道沿いにある浅瀬近くに兵を伏せて貰うよ。敵さんがここを攻め始めたら後方を遮断して攻撃だ。ただし後方を常に警戒して貰わないといけないよ。」
「承知致しました。」
「張飛将軍は敵本隊が城を攻め始めたらその横腹を突いて貰おうか。敵の大将も居るだろうから思う存分戦って構わないよ。退却する敵は追わない事が条件だね。」
「任せてくれ。」
「あっしは城に残って胡車児を補佐しつつ状況に応じて指示を出すからしっかり聞いてくれないと困るよ。」
城に残る胡車児以外の将兵は令箭を受け取ると各自の持ち場へと向かった。
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