第13話 献策を行う

張飛は江夏に戻ると魏延を伴い政庁に向かった。交州制圧の報告をすると共に魏延が提案した作戦を劉備に認めて貰う目的があった。劉備は江夏に残っていたが諸葛亮は荊北方面軍都督として南郡へ出発した後だった。


劉備は二人に対して労いの言葉を掛け、交州制圧に成功した事を褒め称えた。そして荊北方面軍の援軍として南郡に向かうよう命じた。


「兄者、南郡攻略に連動する作戦を提案したい。」


「どのような作戦なのだ?」


「詳しい話は魏延からさせます。」


魏延は襄陽攻撃を説明して裁可を求めた。劉備は兵力不足を懸念して及び腰だったが魏延は北伐を成功させる為に必要不可欠な作戦だと説いた。


「それなら襄陽攻撃を認めよう。但し諸葛亮の許可を得るのが条件だ。」


「本隊に合流したら諸葛軍師に説明しますよ。」


「張飛、事後承諾は認めんぞ。」


「分かっています。諸葛軍師が駄目だと言えば取り下げます。」


劉備は条件付きで襄陽攻撃を認めた。加えて諸葛亮と折り合いの悪い張飛が抜け駆けしないように釘をさす事も忘れなかった。張飛と魏延は退出して駐屯地に戻った。二人が劉備の前から辞したのを見計らって護衛を務めている趙雲が劉備の前に立った。


「我が君、諸葛軍師と魏延殿は諍いを起こしたと聞いておりますが。」


「あれは諸葛亮に非がある。人を責める事をしない陳到が諸葛亮に面と向かって非難していたのを子龍も見ていたであろう。」


「あの時は我が君や劉封様が間に入って宥めておられました。」


長沙での一件を聞いた劉備軍の将兵が諸葛亮に非難の声を上げた。劉備が語ったような事件も起きており、諸葛亮は将兵から白い目で見られていた時期があった。


「あれを糧に変わっていれば良いが変わらなければ組織を再編成せねばならん。」


「我が君の言う通り、将兵から信頼されなければ都督の任は務まりません。」


「そういう事だ。今は南郡からの知らせを待つとしよう。」


劉備は趙雲に自身の考えを述べて結果を待つ事にした。心の内では諸葛亮に匹敵する知略を持ち、人当たりの良い人物が居ないものかと思うようになっていた。


******


張飛は魏延らを率いて南郡近郊の劉備軍本陣へ到着した。張南と馮習に陣の設営を任せると魏延を伴い諸葛亮の居る幕舎へ向かった。


「張飛将軍、魏延将軍。お待ちしておりました。」


「我が君の命により荊北侵攻軍の援軍を率いて到着した。」


張飛は諸葛亮と対面して到着の報告を行った。交州の件を報告している最中、張飛と魏延が到着した事を聞きつけた諸将が次々と幕舎に集まって来た。


「軍師殿、状況を聞かせて欲しい。」


「魏軍は南郡を奪い返した直後なので守りに苦慮している様子。我々の方が優勢です。」


呉軍都督代理の程普は魏軍襲来の知らせを受けて南郡放棄の決定を下し、即座に揚州方面へ撤退した。翌日には曹仁を大将とした魏の軍勢が現れ城を制圧した。本来なら賊の掃討や領民慰撫などの治安維持を行うべきだが、その段取りをしている最中に劉備軍が現れたので魏軍は慌てて守備を行うなど対応が後手に回っていた。諸葛亮はそれを上手く利用して攻めているので劉備軍優勢の状況である。


「俺達の役目は?」


「当面ありません。南郡制圧後に周辺地域の慰撫に回って頂く予定です。」


諸葛亮の言葉を聞いて張飛は上手く話が進めそうだと思った。


「それなら提案がある。」


「どのような事でしょうか?」


「詳しい話は魏延からさせる。」


諸葛亮は魏延が一歩前に出たのを見て視線を逸らせた。諸葛亮から見て魏延は危険人物であった。諸葛亮の態度を見て魏延は腹立たしくなった。自身の目利きが正しいと思うのは勝手だが公の場でそれを顔に出すなど言語道断だと思った。


「諸葛軍師、顔色が悪いようだな。それでは都督という激務は到底務まらんぞ。印綬を兄貴(関羽)に預けて休養したらどうだ?」


諸葛亮と魏延の変化を察した張飛が諸葛亮に提案した。張飛は魏延の肩を持っているので必然的に諸葛亮を糾す事になる。


「ご心配には及びません。少々気分が悪くなっただけです。」


諸葛亮もここで逃げると都督解任に繋がると分かっているので退くわけにはいかなかった。改めて魏延の方に視線を向けた。

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