第三章 襄陽奪取
第12話 荊北での異変
張飛は将兵の訓練を行うとした士燮との約束を守る為、魏延を南海に残して蒼悟に引き上げた。魏延の指示で張南は蒼悟を経由して交趾に向かった。残った魏延は南海太守である劉巴の協力を得ながら将兵の強化に努めた。
「魏延殿のお陰で将兵も以前よりも強壮になった感がありますな。」
「そう言って頂けると頑張った甲斐があります。」
劉巴は劉備軍に対して懐疑的な見方をしていたが張飛や魏延の態度を見て態度を改め協力的になった。また劉巴は気難しいと士燮から聞いていたが二人は馬が合ったのか時々酒を酌み交わすなど二人は良好な関係を築いていた。
*****
「魏延将軍、張飛様より書状が届きました。」
張南に代わって副官を務めている馮習が張飛からの書状を持ってきた。馮習も前世では劉備軍の将軍として多くの戦功を挙げていたが夷陵の戦いで呉軍に殺された。現世では交州遠征前に校尉となり、魏延の配下に加わっている。
「馮習、蒼悟に引き上げる準備を直ぐに始めてくれ。」
「承知致しました。」
「私は劉巴殿に挨拶をしてくる。」
魏延は馮習に撤収の指示を出すと暇乞いをする為、劉巴の屋敷に向かった。劉巴は魏延から蒼悟に撤収する話を聞いて残念がった。劉巴は太守を辞して荊州に戻ろうかと冗談とも本気とも取れる発言をしたので魏延が慌てて思い止まらせる場面もあった。
「何れ荊州に行く機会があると思う。その時は心ゆくまで酒を酌み交わそう。」
「是非ともお願い致します。荊州の美味い酒を用意しておきましょう。」
「楽しみにしていますぞ。」
劉巴との挨拶を終えて駐屯地に戻った魏延は自身の荷物を纏めて出発に備えた。準備を終えた魏延の部隊は馮習を先鋒にして蒼悟へ向かった。
*****
「魏延、ご苦労だったな。」
「有難うございます。」
「張南は南海で蛮族の襲撃に遭ったが返り討ちにしたそうだ。」
「将軍麾下で一軍を任せてはどうでしょうか。」
「そうだな。江夏に戻ったら再編成をしよう。」
蒼悟に戻った魏延は張飛に任務完了の報告を行った。その際に張南の活躍ぶりを聞いた事もあり魏延は自身の部下から独立させる事を提案して認められた。
「将軍、急に戻ってこいと聞きましたが。」
「荊北で動きがあってな。俺達の手も必要になったらしい。それもあって趙累・陳到・劉封は先に巴丘へ戻らせた。」
魏延は張飛の答えを聞いて首を傾げた。呉軍が荊北から進路を南に変えたのではと一瞬思ったが張飛の様子を見ると違うように感じた。
「呉軍が動きましたか。」
「南郡を取った後、揚州でも主力が動いて合肥も落としたそうだ。」
「陽動目的の南郡も落とすとは流石ですね。」
魏延は話を聞いて周瑜の用兵の巧さに感心した。本命の合肥に加えて孫劉同盟反対派を抑える為の荊北侵攻を囮作戦だったにもかかわらず成功させたからだ。
「話に続きがあってな、呉は勢いづいて襄陽に攻め込んだのは良いが周瑜が負傷した上に大敗したらしい。」
「周瑜が負傷したと?呉軍にとっては痛手以上の損害ですね。」
前世と同じように周瑜は荊州攻めで負傷した。負傷の程度は軽微だったが知らせを聞いた孫権は周瑜に対して江夏か建業で静養するよう命じた。周瑜は副将の程普に後を任せて江夏に引き上げた。程普は襄陽から南郡へ退却したがそれを知った曹操は襄陽を奪い返した。勢いに乗る魏軍は南郡に向けて兵を送る準備を進めていた。
「その影響で呉軍は襄陽から撤退したが南郡も放棄する動きを見せている。」
「そのまま魏に再び占領されてしまいますが。まさか南郡を奪うつもりですか?」
「おそらくそうだろうな。」
魏延の推測は当たっていた。周瑜負傷と呉軍の動向を知った諸葛亮は南郡へ向けて出兵するよう劉備に進言。呉との関係悪化を懸念して躊躇する劉備を説き伏せて荊北侵攻を承諾させた。
「急いで江夏に戻らなければなりませんね。」
「戻ったところで南郡は落ちていると思うが。」
「呉軍と同じように襄陽攻めを行うのです。」
「南郡だけじゃ駄目なのか?」
「はい。私がそう考えた理由は道中でお話し致します。」
いつもと異なり魏延が張飛を急かせる形で蒼悟を出発し、桂陽へ向かって北上した。
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