第11話 交渉で呉を退ける

歩騭を難なく退けた張飛は南海城南側に張り付いた。それを見た南海の守備兵が呉軍撤退と劉備軍到着を劉巴に伝えに走った。


「太守様、劉備軍が南側を攻める呉軍を蹴散らして城門に到達しました。」


「助かったようだな。先ずは状況を確認する。」


守備兵からの報告を聞いた劉巴は南門の見張り台に立った。


「劉備軍の大将は居られるか!」


「俺が大将の張翼徳だ。貴殿は太守の劉巴殿か?」


「如何にも。この度の救援感謝する。門を開けるので入って頂きたい。」


「それには及ばん。呉軍を退けてから入らせて貰う。太守殿はここ以外の守りを固めてくれ。」


「心得た!」


劉巴は張飛の指示に従う事にして守備兵の再配置を行った。張飛は魏延の到着を待って先程迄の出来事を話した。


「徐盛は呉軍でも良識ある人物と聞いております。状況を知れば話し合いに応じる筈です。」


「そうなるのが一番だが駄目なら排除するしかない。今は徐盛とやらの良識に期待しようじゃないか。」


魏延は良い方向に動くだろうという考えだが、張飛はどちらに転んでも構わないと思っていたが魏延の考えに誤りが無いのも分かっているので待ちの姿勢を取る事にした。


*****


歩騭から張飛襲来を聞いた徐盛は城攻めを中断して郊外へ撤退した。張飛から受けた被害は歩騭が武器を失っただけで人的被害は城攻めの最中によるものだけだった。徐盛と丁封は周瑜と同じく孫劉同盟堅持の考えなので使者を送り真偽を明らかにしてから今後の動きを考える事に決めて張飛に使者を出し、話し合いを行いたいと申し入れた。張飛も同意し呉軍本陣で行う事が決まった。


「軍使役はお前に任せる。俺は話し合いが不得手だからな。」


「承知致しました。交渉妥結に全力を尽くします。」


「魏延、気負う必要は無いぞ。」


張飛は話し合いが苦手なので交渉事は魏延に任せた。魏延は毎度の事ながら交渉役は不得手なのだと嘆きたかったが事情が許さなかった。魏延は礼服に着替えると足早に呉軍本陣へ向かった。


*****


「魏文長と申します。」


「徐文嚮と申す。此度はご足労頂き感謝する。」


お互い挨拶を終えて交渉が始まった。魏延は本来無関係の者に見せるべきものではないが劉巴宛の書状(南海太守の任命状で張飛と士燮が署名している)を出すなどして交州の領有権を主張した。徐盛の方は聞き役に回り要求などは出さなかった。


呉軍は合肥攻略後に徐州侵攻を画策しているので交州において兵力の損失は出来るだけ避けるよう周瑜から指示されていた。徐盛は張飛と対決する事で兵を失い孫劉同盟を崩壊させるという愚行を犯さない為に撤退する事を決めた。


「孫劉同盟の事もあるので呉軍は交州から手を引かせてもらう。」


「将軍のご決断に感謝致します。」


「一言だけ申し上げる。呉の中には孫劉同盟に後ろ向きの者も多い。孫権様や周都督がそういう者たちを抑え込んでいるが将来どうなるかは誰も分からない。」


「心得ておきましょう。」


魏延は徐盛との交渉を終えて呉軍本陣を離れた。自軍に戻る道中で徐盛の言葉を思い出し、孫劉同盟は前世と同じく相当脆いものであると改めて感じさせられた。


*****


呉軍は約束通り交州から軍を退いた。張飛と魏延は呉軍撤退を確認後、南海城に入り太守劉巴と対面。劉巴に太守任命状を渡して役目を終えた。

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