第10話 呉軍侵攻
降伏交渉を終えた張飛は士燮に請われて蒼悟に留まっていた。交州軍は戦闘経験が少ない上に呉や蛮族と境界を接している為、将兵を鍛える必要に迫られていた。劉備軍で関羽と双璧を成す張飛が交州に来ている機会を逃したくないと士燮自ら交州軍の訓練を依頼した。依頼を引き受けた張飛は駐屯地に戻ると魏延を呼んだ。
「士燮から交州軍の訓練を依頼された。お前に任せたいが出来るか?」
「承知致しました。」
交州は交趾・蒼悟・南海の三郡で構成されている。魏延は他勢力と接している交趾と南海の将兵に訓練を行う事にして、張南に交趾を任せる考えでいた。しかしその計画も吹き飛んでしまう知らせが士燮にもたらされた。
「南海の劉巴様より早馬です。呉軍が大軍を率いて南海へ向かっているとの事!」
「劉巴には守りを固めるよう伝えるのだ。誰か、張飛殿をお呼びするのだ。」
*****
南海太守劉巴から呉軍現るの知らせを受けた士燮は劉備軍に呉軍撃退を依頼するべく張飛に使いを走らせた。張飛は知らせを受けて魏延と趙累に出撃準備を命じてから政庁へ向かった。
「士燮殿、我々は南海に向かう。呉軍が策を弄している事も考えられるので別働隊をこの地に駐屯させる。何かあれば遠慮無く使って貰いたい。」
「忝い。南海の事をお願い致します。」
「呉軍は責任を持って撃退する。」
張飛は援軍の件を二つ返事で了承。士燮との話し合いを終えると駐屯地にとって返した。駐屯地は既に慌ただしくなっており、魏延と趙累が出撃準備で動き回っていた。
「魏延、準備の方は?」
「日暮れまでには整います。」
「明朝夜明け前に出発するぞ。」
「承知致しました。」
「趙累は州境に戻って陳到と劉封に蒼悟へ向かうよう伝えてくれ。」
「承知致しました。」
趙累は護衛を伴って州境に向かい、張飛と魏延は翌朝早く南海に向けて出撃した。
*****
張飛は魏延に命じて物見を先行させており、南海に向かう道中で情報が続々と入ってきた。呉軍は徐盛を総大将に据えて丁封・凌統・歩騭で主力を構成しており1万5千の兵を伴っていた。
「魏延はどう考える?」
「城から退かせる必要があるので威嚇をする必要があります。退けば軍使を立てて交渉に臨みます。退かなければ一戦交えるしかありません。」
「話し合いはお前に任せるが呉軍への脅しは俺がやる。」
二人は話し合いを終えた後、張飛は軍を二手に分けて5千の兵を率いて呉軍に向かった。魏延は残りの兵を伴いゆっくりと張飛を追走した。
*****
呉軍は南海城を包囲した上で攻撃を行っていた。しかし劉巴が指揮する交趾城は守りが思いの外堅いため攻めあぐねている状況だった。その様子を見ながら呉軍の後方に近づいた張飛は馬を止め、呉軍の兵士も後方に現れた張飛の気配に気づいて振り向いた。
「俺は劉備軍右将軍の張飛だ。交州は劉備軍に降っている。攻撃を今すぐ止めろ!」
張飛は呉軍に向けて怒鳴り声を上げた。
「ちょ、張飛だと?」
「何で劉備軍がこんな所に?」
「総大将に知らせろ!」
呉軍の後方に位置する兵は張飛の一声で動きが止まった。南海城と劉備軍に挟撃されたと気付いた者は総大将の徐盛や南門攻撃隊を指揮する歩騭に知らせに走った。兵から異変を聞いた歩騭は攻撃隊後方に現れ張飛と相対した。
「お前が攻撃隊の指揮官だな。俺の名は張翼徳と云う。」
「私は呉の歩子山。南海城南側の攻撃を任されている。」
「兵士達には言ったが、交州は劉玄徳の支配下にある。手を引いて貰おう。」
「そんな話は知らぬ。荊南同様我々の支配地を横取りするつもりか?」
「聞く耳を持たないなら力づくで分らせてやろう。」
張飛はこれ以上の話は無駄だと判断、蛇矛を握りなおすと歩騭目掛けて馬を走らせた。歩騭も長刀を構えて馬を走らせた。二人は馬上で打ち合いを始めた。しかし張飛と歩騭の力量差は明らかであり、あっという間に歩騭が押され始めた。
「どうした、それで力を出してるのか?」
「何っ、こいつ化け物か?」
張飛は笑顔を浮かべながら歩騭の攻撃を受け止めていた。歩騭自身も力の差を思い知らされ、張飛には到底敵わないと恐怖感を憶え始めた。その影響で攻撃に勢いが無くなり張飛もそれを感じた。
「お前の腕では俺を倒せん。出直してこい!」
張飛は蛇矛で鋭い突きを繰り出し、歩騭は長刀を弾き飛ばされた。歩騭の武器は剣しかなく張飛と戦いは事実上不可能になった。
「攻撃は中止だ。徐盛の陣に退くのだ!」
武器を失った歩騭は血の気を失った様子で退却を指示すると城東方面へ逃げて行った。張飛軍・呉軍共に死傷者は無く、歩騭が愛用の武器を失っただけで戦いは終わった。
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